第93話 マジシャン・レッスン

 職業:魔術師


 魔法使いを職業にしているプレイヤーがヴィクトール魔法学園で取得できる。

 性能は魔法使いの上位互換。まず新たに習得した呪文は高火力でMP消費が抑えられている。



 私が魔術師を得た瞬間に習得した呪文。魔術師になると”魔術”とカテゴリーされるとか。私は違いがよくわからないので”魔法”と統一することにした。


 で、話を戻るけど、新たに手に入れた『フレイム』。名称の通り、炎属性魔法。

 初期の『ファイヤーボール』は火の玉を出現させて敵単体を攻撃できる。プレイヤーのレベルに応じて魔法威力も上がる。


 私が魔法使い時代に使用していた『ファイヤーボール』の『ファイE エグゼ』。5段階上にまで進化させた魔法。

『ファイE エグゼ』を発動すると、半径15メートルまで拡張した全体中攻撃。火傷から炎上の状態異常を与えることが可能となる。


 戦闘面では、大多数の敵モンスターを一斉に相手できるし敵は状態異常:炎上にかかるので勝手にダメージが入る。しかし、プラスの性能に反してMP消費が高い。


 MP消費を半分にしてくれる【魔速の流動】で消費MPを”30”にできる。戦闘終了でMPを15%回復できる【勝利の義勇】、MPが半分回復できる【龍脈の中頂】。加えて、私には【星霜せいそうの女王】専用魔法、『 月光からの愛シャイニー・ラバー』でMPを回復できる。ヴァルゴたちやクイーンさんたちとのパーティー戦闘で『 月光からの愛シャイニー・ラバー』を使用してきたので回復量も判明している。八割もMP回復が可能だった。



 と、いうように私は滅多にMPが枯渇する心配がない。でも、この先何があるのかわからない。削れるものは削りたい。そこで重要になってくるのが”魔術師”で習得した『フレイム』を含む数種類の魔法たち。


『フレイム』の消費MPは”10”。威力は『ファイE エグゼ』と同等。これはありがたい。MPを抑えて威力はそのままに放てる。今度入手する各属性の攻撃魔法と一緒にバカスカ撃てる。



「じゃあ、私が育てた魔法たちはもう使わない方が効率的?」


 自分のステータス画面を眺めながら、苦笑する。

 いくら効率を求めても、愛着はある。オニキス・オンラインを始めてから今までずっと戦ってきてくれた魔法たち。ヴァルゴよりも古参。初代相棒でもある。複数も魔法だから相棒の定義に反しているけど......


「いや、ユミナが初期呪文をかなり上げているのは私も素直に驚いている」


 本の上で首を縦に振っているのは、私の一応の魔法の先生になったエヴィリオン・ヴィクトール。

 ヴィクトール魔法学園を創立し、私のメインウェポンでもある星刻の錫杖アストロ・ワンドを修復した賢者さん。私は敬意を込めて、ケンバーと言っている〜


「そのレベルにまで達しているなら......『呪文融合ユナイト』を教えれる」


「『呪文融合ユナイト』?」


「『呪文融合ユナイト』は名の通り、呪文と呪文を組み合わせ、別の呪文にする魔法だわさ」






呪文融合ユナイト


 ケンバーの説明では、呪文と呪文を組み合わせて、新しい呪文を作ることができる魔法らしい。

 この魔法は”魔法使い”の時に習得した呪文のみが融合適用という条件になっている。組み合わせ次第では”魔術師”の魔法を超える呪文を生成できるとか。



 例えば、『ファイE エグゼ』と『ウォーE エグゼ』。火と水。混じり合うことがない両者を融合すると......

 水蒸気スチームの呪文になる。一見するとレベルダウンしたと思うかもしれないが、水蒸気スチームは敵を煙で包む。煙に包まれた状態の敵は高温と高圧が体を蝕み、やがて倒れる。


(なんか......圧力鍋みたいだな)


 水蒸気スチームの性能を聞いた私の率直な感想だった。今までは火攻撃でも水攻撃でも敵が倒れるまで時間がかかっていた。いくら炎上の状態異常があったとしても問題はあった。しかし、水蒸気スチームによって、短時間で敵の内部を破壊して、ポリゴン状にできる。


「だが......『呪文融合ユナイト』にも当然、条件が二つ存在する」


「『条件』?」


「まず一つ目が呪文の熟練度。初期状態の『ファイヤーボール』と『ウォーター』を組み合わせても水蒸気スチームにはならない。単純に単体の火力不足」


 なるほど、貧弱な火の玉では水を沸騰させるだけのエネルギーはない。だから水蒸気スチームが使えるレベルにまで各属性魔法を鍛える必要があるっと......


「一つ目の条件はユミナはクリアしているから問題ない。問題があるのは二つ目だわさ」


「二つ目って何?」


「ユミナは想像できるか? 火と水が混ざり合った状態を?」


「想像?」


 う〜ん。想像か......簡単にイメージするなら、鍋に水を入れて沸騰させるとか? もしくは電子レンジの温めかな〜 あっ、でも電子レンジって原理的には違うか......うん、難しい。


「組み合わせて完成する呪文は想像力がないと完成しない。漠然ではダメだわさ。ちゃんと明確視しないと呪文は完成しない。こんな風に」


 ケンバーは持っている杖。”賢信けんしん宝杖ほうじゅう”の先端を私に向ける。


「『水蒸気スチームLv.10』!!」


 私の周りが薄く白い煙で覆われる。視界が悪くなるが動くことはできる。特にそれ以外は......うん?

 自分のステータスを表示していたのが幸いだったのか急速にHPが減っていっているのが確認できた。銭湯マーク似のアイコンが表示されている。


「今のユミナは【衰弱】の状態異常にかかっている」


【衰弱】。十秒毎にHPを10%減らすバッドステータス。



「今の私の『水蒸気スチーム』はLv.10。ユミナのHPを10秒毎に50%減らすことができるだわさ」


「ちょっと!? 先に言ってよ!? 『清浄なる世界へヴィム・エブリエント』!!」


 危ない......残り”1”になっていた。一歩遅かったら変な死を体験する羽目になるところだった。

 あっ、でも......オフィの指輪は......いろいろやらかしたから残り一回だけその場で蘇生できる。こんなしょうもない場面では使いたくない。


「教え子を殺す師匠がいるなんて......『回復・極ヒール・オーバー』」


「オホホ。これで師匠の威厳は保たれた!!」


「なんて師匠だ......」


 厳しい気持ちが体から登ってくるが冷静になる。実はオフィの指輪の蘇生回数は残り一回。すなわち蘇生上限の三回のうち二回は死に戻りしていることになる。で、この二回はこのヴィクトール大図書館で発生したもの。一つはケンバーとオフィの言い争いを止めるため。もう一つは今のように突然、魔法攻撃を喰らってゲラゲラ笑っていたケンバー目掛けて『アイE エグゼ』を放ったのが原因。





 ◇


 ケンバー、エヴィリオン・ヴィクトールはアリエスと似たような体質の魔法使いだった。アリエスの場合は【呪いのカースト救護ホーリー】、アリエスを守る呪いがアリエスの体を覆う膜のように展開している。触れた者を呪うモノ。無意識で勝手に呪いが体外へ展開される。【呪いのカースト救護ホーリー】のせいでアリエスの人生は不幸そのものだった。


 エヴィリオン・ヴィクトールの場合は内に溜めている魔力が勝手に外に排出されてしまう体質らしい。外に滞留しているだけなら問題はなかった。問題は他の魔法使いの体内へ滞留している魔力が強制的に入ってしまうこと。自分の魔力を制御できる者はなんともなくむしろ自分の魔力量が上がって歓喜。制御できない者は自分とは別の魔力が入ったことで体内で反発が起こり、暴走する。


 そんな過去があったけど、さすがは賢者。自分の魔力が勝手に放出されない魔法を創造した。なのに、ヴィクトール大図書館に魔力が満ちているのは大図書館内部で一人で作業していたから。大図書館から出る方法は一階の大扉だけ。しかもエヴィリオン・ヴィクトールの試練で過去に二人だけしか出入りしていない。よって漂う魔力は逃げ場がなく、ケンバーが死しても残っていた。



「いや〜 内部は拘りたくて、どうせ一人だから魔法を使わずに仕事していただわさ」


 星霊みんなを呼んで大図書館でマッサージを受けながら被告:エヴィリオン・ヴィクトールの供述を聞いていた私たち。


 カプリコーンは怒りの権化みたいな顔で熾星の細剣セラフィム、レイピアを構えているし、タウロスは製造の金槌ビルド・アップ、ハンマーを握りながら怒っていた。


 うふふ......ケンバー。貴女の憧れた星霊は私の従者だよ。私関連ではマジになるからね〜



 しかし、『アイE エグゼ』が発動したら私が内部から凍り、凍結状態になった体が粉々になるなんて......



......


............


........................



 回想終了した私は、真剣な目をケンバーに向ける。私の目がマジだったからか冷や汗を流しつつ驚いていた。


「ま、まぁー......色々あったが、”魔術師”になったことで多少の器が完成された」



 ”魔術師”の利点は単に魔法攻撃が強化されただけではない。MP量も”魔術師”補正で上昇している。これは転職したら消えてしまう性能らしいので”魔術師”を外すプレイヤーはいないとか。


 私は星刻の錫杖アストロ・ワンドの補正でステータス全体が化け物級になっているので単純な魔力量ならケンバーを超えている。しかし、MP:1700って......自分でもいうのもおかしいけど......変な道に進まないようにしないと。ケンバーが言ってた”想像力”が”魔導師”で大活躍するなら......リアルにありそうな兵器の原理を想像できれば............やめておこう。私はNPCと楽しくゲームができればそれでいいし。


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