第94話 ねじれたお尋ねモノ

「でだ、私がユミナに授ける”魔導師”の取得条件は......二つ」


 二つ。数が少ないから簡単そう。そう思わせて簡単ではないのがお約束展開。”魔術師”よりも上位の職業である”魔導師”の取得条件が即ゲットできるもののはずがない。きっと......めんどくさいクエストなんだろう〜


「まずは......大図書館の書物を全て読むこと」


「はい、お疲れ様でした〜」





 私はヴァルゴを呼んでボルス城へ帰ることにした。当初の目的でもある”魔術師”は取得したし、もうヴィクトール魔法学園に用はない。


 私の周りを呼び回る本。やたら私の顔近くを飛ぶもんだからコバエに見えてきた。あはは......ゲーム内でも汗や涙まで再現されているのが裏目に出ているな〜 コバエってそういうの好物だし〜


「何かしら? コバエバー」


「私をあんな羽虫と一緒にするなだわさ!?!?」


 ケンバーの言葉を紐解くとコバエ系のモンスターは存在するってことか。なんか嫌だ......虫除けスプレーとか売ってないかな。


「とりあえず、顔近くを飛び回るのはやめて」


 ため息しか出ない。賢者ならもっとさぁ〜 威厳たっぷりで才覚溢れる人物だと思ったのに。今のケンバー、エヴィリオン・ヴィクトールはまるで親に怒られた子ども。


「し、仕方がないだろ〜 何かを得るならそれ相応の準備が必要になるだわさ」


 上を見上げる。


 一度、最上階まで登ってみたことがあった。最上階はちょっとした観葉植物とおしゃれなカフェを上手いこと融合させたリラックス空間。私たちが最上階へ辿り着いた瞬間にジャズ系なのか読書するのに最適なBGMが鳴り始める。




 話が逸れたけど、一階と最上階以外は壁いっぱいに書棚がぎっしり。棚は収められている書物で埋め尽くされている。

 厚さはまばらで薄い書物もあれば、鈍器ですかってくらいの分厚さを有している書物まであった。それを全部読まないといけないとか......私のゲーム人生は読書で終わるかもしれないと危惧している。


「だからって、全部読むなんて......」


「それだけの知識量がないと”魔導師”、最終目標でもある”賢者”になれないっということだわさ」


「まぁ、それはいったん保留で。で、もう一つの条件って?」


 ”魔導師”は全ての本の知識を得ないと習得できない職業。逆に考えれば膨大な知識を得たことでなんでもできる可能性がある職業ってこと。


「もう一つは......これだわさ」


 羊皮紙のような古くさい紙が私の前に表示された。

 中身はモンスターの名称なのかずらっと明記されていた。


「これは......?」


「これは指名魔獣リスト」


「『指名魔獣リスト』?」


「広大な『スラカイト』に出現する予定の魔獣モンスターたち。数は24体。24体全て討伐することが”魔導師”の条件の一つ」


 出現予定ってことはケンバーの”魔導師”クエストを受注すれば、勝手に出現するって解釈でいいのかな。

「セルパン」内だけじゃないのが地味にめんどくさい。


「今、めんどくさいって顔をしたな」


「ば、バレた......」


「これにもちゃんとした理由がある」


「へぇ〜 してその理由とは」


「本だけを読んでも実践で使えないければ無意味。だから世界を見て見聞を深めろっという意味を込めて旅を行いながら『スラカイト』の各地に私が封印した魔獣モンスターを倒す」


「『リリクロス』には?」


「うん? そういえばユミナは『リリクロス』に行けるんだったな。私も昔は行けていたし、ユミナもわかるだろう? あそこは人の身で旅するには環境が悪すぎる。という訳でいない」


「今さらなんだけど......魔獣って」


「昔はな、魔法で獣や人型生物などをいろいろと配合していた黒魔術師たちがいたんだ。実験の結果、誕生したのが凶暴な魔獣たち。黒魔術師たちは撲滅したが残った魔獣は各地で暴れていてな。当時の私と仲間たちで封印したんだ。運が良かったのは『リリクロス』に向かう魔獣がいなかったことだわさ」


「......倒さなかったの?」


 私の言葉に暗い顔をしたケンバー。


「倒せた......けどできなかった」


「事情があるんだね」


「いくら黒魔術師たちが自分の欲望のために生ませたとはいえ、魔獣には罪はない」


「だから封印しただけなんだ」


「ユミナの気持ちもわかる。魔獣は愚かな者たちの欲望を色濃く受け継いでいる。今を生きる生物にも影響を及ぼす。分かってはいるんだが、どうしても動けないんだ。賢者の職業を得ても私の心は強くない」


 罪なき魔獣にも優しい。これがケンバーのいいところ。星霊の裏切り者であるオフィに対しても嫌悪の顔はいっさい見せず、一人の存在として接していた。口喧嘩は絶えないけど……


「ケンバーが......いや。よし、わかった!! 私がやるよ。ケンバーのためにもね!」











 少しの静寂が漂う。


「ユミナは......なんというか無自覚なんだな」


「うん? 顔が真っ赤だよ?」


「き、気のせいだわさ」


「そう? じゃあ星霊を見つける傍ら、指名魔獣24体も討伐しないといけないっと」


「......もう一度、確かめる。挑戦するか、ユミナよ」


「もちろん、挑戦するよ!!」




 《”魔導師”の試練:魔獣の行方》


 《”魔導師”の試練:魔導繁栄へ》


 シンプルな文章。躊躇いなくクエスト受注開始ボタンを押した。






 読書地獄は置いといて、指名魔獣討伐クエストを進めることにした。リストの名前をタッチすると簡易的な情報が閲覧できた。初期情報は討伐対象の名称と出現場所だけ。出現場所は私のプレイデータを参照しているのか「セルパン」までの情報しか出ていなかった。出現場所がわかっても多分、ココってアイコンしか出現していない。ボルス城の《ボルス城:移動可能エリア》の劣化版って印象......


 さてと、初めはどこへ…………??



「ヴァルゴ!!」


 本を戻し終えたヴァルゴは首を傾げていた。


「どうかなさいましたか、お嬢様?」


 私は魔獣リストのとある魔獣の出現位置を教えた。


「どう、思う?」


「彼女たちなら問題ないと思いますが……」


「何かあっては遅い、か……行こう!!」


「かしこまりました、お嬢様」


 私は二冊の日記を回収して、叫棺きょうかんの洋館へ向かうのだった。

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