第117話 初めてのキス
※時系列は116話よりも前となります。
私、
欠点を挙げるなら友人以外と話すのが苦手というくらい。日常会話はできるが気心の知れた仲ではない相手にはあまり親しい話はしない。
私のクラスメイトの中には白陽姫ちゃんは休日には優雅に本を読む。休みであっても己の鍛錬を欠かさない武芸を嗜んでいるとか。色々言われている。因みに彼氏はいないっと学園での生徒の共通認識。
なぜなら、姫に釣り合う人間など存在しないし、いたとしても巻波白陽姫と同等に能力を有している人———そんな人は天文学的確率でいない。そんな雲の上の人物と義姉妹になっただけでも幸運。さらなる転機が舞い込んできた。
白陽姫ちゃんから告白を受けた。しかし、即返事ができなかった。
ここ数日は、私の頭の中は陰湿なモヤがかかっていた。自分も白陽姫ちゃんが好きですぐにでもOKを出したかった。でも、本当に恋人同士になっていいのか不安だった。自分なんかが、学校一の有名人と結ばれてもいいのか。白陽姫ちゃんを楽しませる行いをしてこなかった。様々な焦りと自責で不安定な精神状態が続いていた。
しかし、今は遠い過去。自分を見つめ直し、諭され、前へ進ませてくれた存在。私が白陽姫ちゃんと仲良くするために行った行動全てが霧を晴らしてくれた。
そして昨日の夜、白陽姫ちゃんの返事の答えを出し、晴れてカップルとなった。
おかげで次の日。つまり今日の朝は心地よい空間が広がっている。
だが、ここで新たな問題に直面しているのも事実。
「恋人になったけど......何をすればいいんだろうか?」
弓永せつな、十七歳。高校二年生。花の女子高生でもある私は、窓から降り注ぐ朝日を浴びながら、腕組みし唸る。
日光に照らされた体。お肌にダメージを与えてしまう行為だがおかげで、却って解決の糸口を見出せていた。
「
一難去ってまた一難。友人でも新藤
「............!?」
体がビクつく。
部屋のドアを叩く音で、足が止まった。部屋を動き回ったことで床から伝わる振動が下へ。一階の両親の寝室にいるであろう二人が気になって発生源の私の部屋まで来たと予想した。
「お、おはよう」
的外れも良いところ。自分でも理解している。か細い私の声は、ドア越しの相手には届かなかった。再度ドアが叩かれたからだ。誰かはいる。気配はする。問題は誰か、ということ。父さん?
家の住人なのは間違えない———現実的な想像をすると。
不安を抱えながら、ドアを開けた。
「えぇ!?」
部屋の前にいたのは、父さんでも、義理の母の
「白陽姫ちゃん?」
パジャマ姿だった。以前おそろいのパジャマを買ったことがある。白陽姫ちゃんが着ているのはまたにそれ。
謎のドア叩きの正体が恋人で欲する私。朝からホラー展開は心臓にくる。
「は、入ってもいい?」
問いかけの答えとして、招きをする。
私のベットで二人腰掛ける。恋人になる前も何度かお互いの部屋に遊びに行ったことがある。でも、今日からは雰囲気が違う。白陽姫ちゃんへ視線を送ると、妙にソワソワしている。白陽姫ちゃんは自慢の黒髪の先端を触っている。明らかに落ち着いていない。
いつもの凜とした様子からはかけ離れている。新たな発見と興奮を覚えた。
「............!?」
手が重なる。白陽姫ちゃんからだった。私たちの腕や肩がくっつく。お互い相手の熱を感じている。
「せつな!」
「は、はいっ!!」
より一層汗ばむ白陽姫ちゃんの手。手だけではない、上気した頬が私の心を乱す。
「抱きついていい」
あまりにストレートな要求。脊髄反射でダメ、と言いそうになった。朝っぱらから何を公言するのかと。
考えた末、私は了承した。
「ふ、不束な者ですが......よろしくお願いします」
手に置かれた手は解かれ、腰へ移動した。私も倣って白陽姫ちゃんの腰に腕を置いた。優しさからの相手を強く引き寄せる力。今の私たちは一つになったと過言ではない。恥ずかしいけど、妙に落ち着く。
「あ、あの......」
白陽姫ちゃんの顔が近かった。一つの塊となった今、私と白陽姫ちゃんの距離は肩を並べていた時よりも近い。
唇と唇が触れ合いそうになる。間違えが起きても、一縷の距離なのだから許されるかもしれない。
もどかしさが続き、白陽姫ちゃんの唇に吸い寄せられる。いつにも増して輝いているようだった。
「せつな......」
私が唇に目を向けている間に白陽姫ちゃん自身は喘いでいた。私の名前を囁き、熱い吐息をかける。白陽姫ちゃんの行動一つ一つが私の心を更に噛み乱す。
「白陽姫ちゃんが......欲しいのは何?」
白陽姫ちゃんの欲するモノが何かは見当がつくし自分も欲しい。だが、確認しないといけない。
「朝のキス。せつなとキスしたい......です」
可愛い。同時に体が昂り震える感触。痙攣は止まなかった。
(間違が起きても......いいよね)
「私も欲しいと思ったんだ」
二つの唇は重なり合った。
「んっ......ふ」
「ふ......んっ!」
求めたのは相手を愉しませる。不快にさせず、悦びを与えた。
私から唇を離れる。時間は一瞬しか経過していない。しかし、私たちはそれ以上に長い時間を共に過ごしていた。名残惜しいが、初めてのキス。申し分ないだろう。ゆっくり関係を進めればいい。でも、欲を言えば............。もっと白陽姫ちゃんとキスしたい。
白陽姫ちゃんの濡れた瞳が私を見ている。ごくりと生唾を呑み込む。
「足りないよ。もっと......せつなを感じたい。ダメかな......」
私は白陽姫ちゃんの頬に手を置き、真正面の人物を見詰めた。
「いいよ! 白陽姫ちゃんがしたいように」
舌を入れての熱いキス。
「うっ.........うっ」
身体ごと押しつけられる。バランスが崩れ、ベットに身体を預ける形となった。
白陽姫ちゃんの舌先が口内をなぞる。合わせて自らの肢体を私にこすりつける。
口の中を舐り回される。交換される唾液。次第に快感は全身を巡る。
お腹の奥から込み上がる熱。四肢は徐々に痺れていく。無理やり思考しようとも、働かない。頭がくらくらする。頭が真っ白になるとはこういうことなのか。でも、嫌な感じはしない。寧ろ、温かい気分になる。これが好きな者同士の愛の証明。誰かに聞くのは憚れる秘匿の行為。
私の上から支配する白陽姫ちゃん。豊かな髪が私の顔にあたる。
「大好きだよ、せつな」
「うん。私も......白陽姫ちゃんが大好き」
乱れた呼吸を戻したい。絶えず続く接触。
しあわせ。この言葉に尽きる。
濃密な時間が流れる。
幸せな空間を邪魔する者、嫌悪する者はいない。嗤う必要も咎める必要もない。はしたないと揶揄するなら結構。一言だけ言わせて貰おう。『知ったことではない』だ。
本当に大事なのは、相手をただ好きであること。必死にお互いを求める......それだけ。
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