第27話 迫り来る厳格者
石像はなんとなくアシリアさんに似ている。私の、とは形状が異なる杖を持ち、羊の
石像を見るなり、悲しい声で『アリエス』とヴァルゴは発していた。そのことからこの石化せれているのは『牡羊座の星霊』。牡羊座って確か秋の星座だったはず……
これで2人目の星霊、順調でもある。今ここでアリエスの石化を解きたいが生憎、【EM】が切れてしまっています。その数……なんと【1】。【1】しかない【EM】で何ができるのか?
これも全てあの憎き
何故多用する羽目になったのか。
の
いわゆるダメージ床とも言う。ダメージ床を歩けば、触れた者がダメージを負ってしまうトラップらしい。
『オニキス・オンライン』......一々正式名称を呼ぶのめんどくさい。う〜ん、そうだな。良し決めた!! 今度から『オニキス・オンライン』改め『オニオン』と呼ぼう。
で、この『オニオン』は親切設計で毒沼が毒沼と一眼で分かるように毒の色を色濃く受け継いだ。
純度100%の紫色をしているから余程の間抜けや毒沼に突っ込むアブノーマルなド変態以外は歩かない……そう、奇声をあげながら毒沼を全速力で走るアホとかは特におかしな部類の
そうです、
いやね、弁解させて欲しいのよ。さっきも言ったけど、あの
ヴァルゴ込みの戦闘力ならこちらに分がある。しかし流石に数の暴力にはどんな奴でも怯んでしまう。
だから逃げに徹していたの。アイツらから逃走している最中に逃げ場がなくなり仕方がなく突っ込んだけ。
決して自ら進んで行ったわけではない。ここで最初のダメージ床の話に戻る。
で、この毒沼……一歩歩く度にダメージが入る仕様らしく、ものすごい勢いで私のHPが減っていてね。
減りを解消するためにずっと【
なんだかんだ色々あって【EM】を回復する機会がなく今に至っている訳〜。
「とりあえず、ヴァルゴ。この石像、外に出しましょう」
ヴァルゴの装備している【ウラニアの指輪】なら石像だって入れれる。ヴァルゴも私の意図を汲み取り準備していた。
「何をやっているのですか……」
後ろから私たち以外の声が聞こえた。私とヴァルゴは振り向く。目線の先には妙齢な女性シスターが立っていた。
「貴女たちは……いえ、それよりも」
アシリアさんは自分の頭を下げていた。まるで誰かに見られないようにしている素振りだった。
「……ッ」
「……聖女様」
厳格そうな女性がたった三文字を発しただけでただでさえ暗い地下に冷気が追加された気がした。ゲームなのに鳥肌が全身に立つ勢いだった。
「わざわざ影武者を出してまで何処に行ったかと思えば……」
言葉一つ一つが冷たく響く。ヴァルゴもそうだったけど、冷たい瞳ってどうしてこんなに胸が詰まってしまうんだろう……
「ご自分の立場を分かっていないようですね……」
シスターの矛先が私とヴァルゴではない。その奥のある人物へ一点に集中していた。
「………………………………」
シスターがお化けのように突然登場してからというもののアシリアさんが一切口を開いていなかった。そればかりか尋常じゃない汗をかいている。本当に頭が上がらないんだね......
何気にリアルだよね、このゲーム。
NPCに発汗作用まで搭載するなんて、余程この
私が現実とゲームの比較を考えている間に重い口を開くアシリアさん。
「あの……」
「はい」
「申し訳ございませんでした……」
なんとまぁ〜 綺麗な土下座。アシリア聖女のファンが見たら落胆するかもしれない。
いや、逆に乱れがない完璧な黄金比で形成されている究極な土下座というレア現象を拝めたからむしろラッキーとか昇天する今日は自分の人生にとって最良の日とか考えるのかな〜
推しの姿ならどんな奇天烈な格好でも愛せます、みたいな。
現状、聖女のレア行動を独占している私は本当に後ろから刺されそう。流石にスクショして『オニオン』の掲示板には投稿しない。単純にめんどくさいことに発展するが目に見えているからだ。
事の顛末を聞いたシスターであり、アシリアさんとの話で度々登場してきたカトレアさんはため息をした。
「何処で育て方を間違えたのでしょう……」
「ごめんなさい……カトレア」
「ここでは”司教”と、お伝えしたはずです……まぁ良いでしょう、アシリア。それから……」
「わ、私はユミナと申します。で、こちらが……」
「お初めにお目にかかります。ヴァルゴと申します。ユミナ様の従者をさせて貰っております。本日は聖女様を無断で……」
「カトレアさん、私が初めに街の散策を断り、アシリアさんを教会に連れて行けば良かったんです。なので、あまりアシリアさんを責めないでください。罰でしたら私も一緒に受けます」
正座状態のアシリアさんが涙目で私を見ていた。
「ユミナ様......」
「貴女様が罰を受ける必要はありません。それに貴女様が
ため息、ため息......何度目か分からない呆れた顔をしているカトレアさんは言葉を止めなかった。
「それにどうせ、そこのアシリアが強引にお二人を連れ回したのでしょう。最近までは大人しかったのに......昔は脱走するために修道院の壁を粉砕したこともありました。まぁ、速攻で捕獲して修復魔法の練習をさせましたが」
視線を変えず真っ直ぐカトレアさんを見るアシリアさん。苦虫をかじったような表情を出しており、それでも言いたいことを言う体勢を取っていた。
「酷い言い草ね、カトレア。ちゃんと聖女としてのお仕事は完璧にこなしていたんだし少し位、街を散策してもバチは当たらないと思うんだけど。それに、そんなにため息と眉間にシワ寄せしていると老婆になるのが早くなるわよ。もっと広い心を持って生きてよ!!」
間髪入れず、アシリアさんの言葉をぶった斬ったカトレアさん。
「貴女は口を閉じて正座です」
「……はい」
しょんぼりしているアシリアさんを端に避けてカトレアさんが話始める。
「中は意外と何もないのですね......」
カトレアさんも部屋の中にじっくり見渡している。ヴァルゴが石像を回収したので部屋には私たちしか存在していない。
長年解決で出来ていなかった事案がものの見事に終わりを告げてカトレアさんは苦笑していた。
「それにしてもまさか、この扉が簡単に開くとは思いもよりませんでした」
「それなんですが、私たちもよく分かってなくて。ヴァルゴがドアノブを握っただけでして」
カトレアさんはヴァルゴを見ていた。
そんなにヴァルゴを見つめても貴女にはあげません。ヴァルゴは私のモノです。誰にも手を出させない。
「ほうっ……なるほど」
何やらカトレアさんの中で答えが出た模様。
「ヴァルゴさん……貴女、『悪魔』ですね。いえ、正確には悪魔だったと言えばよろしいでしょうか」
ヴァルゴは一度、眼を閉じた。数秒の静寂を終え、再び眼を開けたヴァルゴ。
「よくお分かりになりましたね。そのような動きはしていなかったと記憶していますが」
「
「『
「ちょっと......ヴァルゴ」
張り詰めた禍々しい威圧の中でも冷静なカトレアさん。
「ですが、ご安心してください。今の私には悪魔狩りの資格はありません。それに、アシリアの友人を咎めることはしません。あくまで民衆に危害を加える輩のみ退治してきました。誰かれかまわず悪魔を狩ってはおりません。そのような者たちがいれば我々が粛清します。そこだけは神に誓います」
カトレアさんの言葉を聴き、
「そこまでの覚悟なら、私からは何もありません」
何とかカトレアさんとの戦いは回避できたが私には疑問が一つ追加された。
正確に言えば、聞こうとしていてずっと忘れていたことなんだけど......
私はヴァルゴをつつく。
「ねぇ、ヴァルゴ……」
「はい?」
「ヴァルゴって……悪魔だったの?」
私が発したその言葉に、私以外、この場にいる者たちが全員固まっていた。
(うん? 私......何か変なこと言ったかしら?)
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