第28話延長線のスキンシップ 〜誰かにとっての〜

 私はヴァルゴをつつく。

「ねぇ、ヴァルゴ……」


「はい?」


「ヴァルゴって……悪魔だったの?」


 少々、ぎこちない動きを見せたヴァルゴ。なんか関節がとれた人形みたいに制御が効かない動きをしている。これはこれでレアだ……


「今更ですか……お嬢様」

 え、何その目は……心外だわ。


 確かにヴァルゴの職業欄に【悪魔】とは表示されていたけど、まさか元悪魔だって思いつかないよ。何より教えてくれなかった……だから私は悪くない。

 

ヴァルゴは私との距離を詰めて耳打ちし始める。

「詳しくはカトレアさんたちと離れた後にお伝えします。ここでは星霊に選ばれた種族の者はその後、元の種族が職業欄に入るとだけ覚えておいてください」


「わかった......」







「で、ヴァルゴが悪魔なのと扉が開いたこととの関係は……?」


 カトレアさん曰く、星霊が保管されていた部屋には聖なる者が入れないように結界が張られていた。当然、扉にも。聖なる者、つまりアシリアさんやカトレアさんのような教会関係が該当する。彼女たちが触ると決して開かないように結界魔法が施されていた。


「普通は……逆だと思うんだけど」


 本来なら聖なる者を弾くのではなく、悪しき者を排除する動きを見せないといけない。石像の呪いが解ける解けない以前に。だってこれじゃあ……部屋に侵入した何者かが石化状態の牡羊座を奪ってしまう。


「いえ、これが正しいです」


「? ヴァルゴ」


「彼女のチカラは強大です。お嬢様……石像には触ってませんよね?」


 そういえば、近くでマジマジと観察はしたけど、触ることはしなかったかな……というのも、なんだろう、あの感じは。石像に近づく度に体の内と外に鋭利なナイフを何千本刺させたような感覚は……


「石化していても健在ですね」


『健在』? 私はヴァルゴのその言葉の真意を聞こうとした瞬間————


「あの〜」

 正座しているアシリアさんが手を挙げる。


「そろそろ解放してもよろしいでしょうか」

 未だ両膝をつけ、足を折り曲げて座る姿勢を取っているアシリアさん。だけど、長時間正座していたのか足を揺らしながら痛みを和らげようとしている。アシリアさんの足は限界に近い。


「ダメです……と言いたいところですが、このような薄暗い場所にいつまでも聖女様を置いとく訳にはいきません。なので……残りの罰は」




 とぼとぼ歩いているアシリアさん。

「こんなの虐待よ。いつか訴えてやる」


 正座からは解放させてけど、代わりに影武者さんと交代してずっと奉仕活動を行うことを先ほどの部屋でカトレアさんが言い渡した。


「でも、元からアシリアさんの仕事だし……」


「それはそうなのですが……」

 しょんぼりしているアシリアさん。きっとまだ私たちと一緒にいたいんだろう。多分仕事の時は正常な顔に戻すと思う。私にできることは……そうだ!!


「もし、ですよ」


「?」


「今ここで私にできることがあればなんでも言ってください」


「『なんでも』ですか!?」


「私ができる範囲内でしたら……それを実行したら聖女の仕事、頑張ってください!!」


 アシリアさんの目が燃えていた。同時に頬が赤くなっていたが多分、気のせいだろう……

「そ、それでは……私の頬を触ってくださいっ!!!!!」


 うん? 頬を触る……??

「そんなことでいいんですか?」


「はい! お願いします」


 眼を閉じて顔を私の方へ近づけたアシリアさん。

 私は要望通りアシリアさんの顔を触る。


 顔面偏差値が高いNPCの肌ってこんなに良い感触が持っているのか、実に不思議だ。


 アシリアさんは徐々に自分の頭を下げていた。こちらを見ずに何やらつぶやいてた。元気溢れる先ほどとは真逆の声量で一言も聞こえなかった。こもっていてまるで聞き取れなかったが意地でも聞いてやろうの精神で全てのチカラを聴力に注いだ。そのおかげかは分からないが途切れ途切れにしかひろうことしかできずにいた。


 うん? みょう、なれて、誰か


 聞き取れた言葉を使って文章を制作してみたが、まともな文は完成しなかった。

「あの、大丈夫ですか?」


 うつむくアシリアさんの顔をのぞく。

「何か言いましたか?」


 こちらにも聞こえたと確信したアシリアさんは少しだけ顔をあげる。

「ユミナ様は……妙に手慣れていますが……誰かとこういうことをしたことがあるんですか?」


 ちゃんとした声量でアシリアさんが発した言葉に驚いた。

 手慣れている? ただアシリアさんの頬をさすっただけ。言い換えればスキンシップの延長線。現実でも真凪まなたち悪友とやっていたし、ゲーム内でもヴァルゴとよくやっている。私にとってはある意味、日常の出来事。毎日、呼吸をするように行なっていることだからな〜


 アシリアさんの疑問の答えにどう反応すれば良いか悩んでいた私に、アシリアさんは続けざまに口を開いた。


「も、もう十分ですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」


 不思議な踊りをしながら走り去るアシリア聖女さん。右腕を回しながら、左腕を蛇のようにしならせている。意外と器用だね。

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