第98話 姉と妹...
使い魔。
ファンタジー系統の作品に出てくる定番生物。主に魔法使いや魔女たちとの主従関係。実在する生き物や架空の生物がぬいぐるみサイズで出現する。能力によっては一緒に戦ったり、偵察隊として隠密行動ができたり、アイテム採取に優れていたりと多岐に渡る万能な生き物。それが使い魔だ。
私が手に入れた手のひらサイズの書物。ヤミコウモリ伯爵三世の冒険鬼【魔術本:No.13】。
モチーフになったであろう作品はおそらく、ドラキュラ伯爵。それにしても吸血鬼の洋館に蝙蝠の人型モンスターが出現。ケンバーは狙った? まあ、これはゲーム的な要素なのかもしれないので深く考えないようにした。
私たちは舗装されている夜道を歩いていた。
「それにしても、アイリスの洋館に出現するなんて」
「妾が作った城や洋館の中でも恐棺の洋館は最新作だからな。完成したのも半世紀前くらいだし」
ってことは約五十年前。ケンバーが封印した時期よりも後になる。
「建てる前に気づかなかったの?」
「そういえば......なんか石の置物があった気もするが蔦と同化していたから取り除いて初めて石だったのかと」
「特に追求することなく......そのまま洋館を建てたってことか」
おそらく取り除いた石ってのが、お風呂場の浴槽に浮かんでいた《ウェントゥス・アクロバテース・ウェスペルティリオー》の黒卵なのだろう。
「で、それをどうするんだ?」
手に持っている本を眺めた。
「どうって言われても、私が持った瞬間に所有者は私になっているし、譲渡もできないらしいから。私の従者として手元に置いとくしかないよ」
「使い魔は、主人と絶対的な主従関係で成り立っている。だが、主人が使い魔を蔑ろにすると力を貸さん場合もある。気をつけろよ」
圧がすごい。昔、アイリスの身に何かあったと思う。
ヤミコウモリ伯爵三世の冒険鬼【魔術本:No.13】に
消費MP量での活動時間がどれくらいかも確認する必要がある。
本は真ん中で開かれる。ケンバーやオフィと同じだった。二人とは違うのは開かれたページの上に魔法陣が出現したこと。魔法陣を通過した小さなシルエット。
部屋の上を羽を広げ飛んでいる。程なくして私の肩に止まった。
「これが私の使い魔?」
まあ、本のタイトルにも記されてるし、倒した魔獣もコウモリが素体だった。なら出現する使い魔は十中八九......
「コウモリさん......?」
不思議に思ったのはリアルな蝙蝠じゃなかったから。
コウモリを模した小型のモンスター。真紅の眼、全身黒灰色。腕がない代わりに前肢に翼が生えている。顔だけ前面に出ており、胴体がどこか分からないコウモリだった。
「ひとまずは......成功という事だね。ほれ、行くぞ」
「あのさぁ、今さらなんだけど......行くのは」
アリエスは足を止める。
「もう、遅いぞ」
視界に広がる先————塀で囲まれ、中央には城が建っていた。
「ようこそ、吸血鬼の国へ!!」
◇
夏の日差しはとにかく、強烈。ちゃんとケアしないとお肌がダメージだらけになる。
準備万端であっても、汗はかいてしまう。
「つー......疲れた」
荷物を部屋の奥に置き、テーブルに突っ伏す。
「せつな......」
白陽姫ちゃんがため息まじりで私の名前を呼んだ。
今私たちがいるのは、旅館。父さんたちの旅行に私たち姉妹も同行していた。
白陽姫ちゃんは慣れた仕草でお茶を淹れてた。
「せつなはもう少し、運動した方がいい」
「だって......」
「『だって』ではない」
だって、まさか駅から旅館まで歩いて行くなんて聞いてないよ。しかも、目的の旅館がある場所は坂を登った所にあるなんて......
「生き返る〜」
白陽姫ちゃんが淹れてくれたお茶。とっても美味しい。私の体が復活した感覚を味わう。
「それにしても......いい部屋だね」
「おまけに景色も最高!!」
「......白陽姫ちゃん」
「うん?」
「い、一緒に......写真撮らない?」
「......いいよ」
並んで、ベストスポットで自撮りをした。
「う〜〜ん」
「どうした?」
「いや、角度が......」
「満足していない顔だな〜」
笑顔で白陽姫ちゃんを見る。
「白陽姫ちゃんとの写真だよ!! いいモノにしたいじゃん!!」
顔を背ける白陽姫ちゃん。
「そ、そ、そうだな......私もせつなとの写真は出来のいいモノにしたいし」
なんだか、頬が赤い。全く、無理しちゃって。白陽姫ちゃんも坂がキツかったんだね。
「露天風呂、行こう!」
「旅館の定番だな」
◇◇
どうしよう、寝れない。温泉街で白陽姫ちゃんとぶらり旅気分を味わってテンションが爆上がりしていた。
結果、零時になる時間であっても全く眠気がおきなかった。
「......白陽姫ちゃんはもう寝たよね。あれ?」
隣にある布団に目を向けると白陽姫ちゃんの姿がなかった。
下に違和感があった。何かが迫る感覚。徐々に膨らむ私の布団。
布団は勢いよく捲られ足元へ。剥き出しなった上半身は冷房の冷気で強く寒気を感じる。
「......白陽姫ちゃん?」
私の布団を捲ったのは白陽姫ちゃん。私の上に乗っていた。
「......せつな」
近づく白陽姫ちゃん。
手は恋人繋ぎになり、絡み合う。いつもの繋ぎ方ではなかった。白陽姫ちゃんの感情が伝わってくる。
密着状態になり、キスする寸前だった。
「ちょ、ちょっと白陽姫ちゃん......どうして」
「言わせるな。わかるだろう?」
「ダ、ダ、ダメだよ。隣に父さんたちが。それに私たち姉妹じゃん」
「義理だよ。それに例え本当に姉妹であっても私は......せつなの事が」
生唾を飲む。
心の準備ができないまま私は白陽姫ちゃんにキスされた。
悠久の刻を過ごしている気がした。
白陽姫ちゃんの顔が離れていく。
唇の感触がまだ残っていた。全身が痺れ、震えているのがわかった。きっと顔は真っ赤になっているだろう。
「は、初めて......」
小悪魔な笑みを見せる白陽姫ちゃん。
「私も初めてだ。初めては大切な人にあげると決めていた」
「それが......私?」
「せつなと初めて出会った時、胸が苦しかった。気の迷いだと思った。でも、せつなと生活して気の迷いではないと実感したんだ。そして......」
私を見下ろす白陽姫ちゃんの顔は私以上に真っ赤だった。
「私は、せつなを一人の女性として好きになっていた」
「......白陽姫ちゃん」
「嫌悪するか?」
「わ、私は......」
立ち上がり部屋から出ていく白陽姫ちゃん。
上半身だけ起き上がり、白陽姫ちゃんの後ろ姿を見た。
「少し、夜風に当たってくる。せつな......」
「はい......」
「私は、待ってるから。いつまでも......」
扉は閉じ、部屋には私と静寂だけが残った。
「..................ずるいよ」
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