第105話 低く、重く、圧は変わる

「みんな......覚えてなさい」


 公衆の面前でされた魔女っ子ユミナはアマゾネスタウロスの背中にいた。


「身動きができない私に何するのよ......」


 タウロスの即席防具加工で私は......露出率八割の魔女っ子衣装にさせられ、街中を連れ回された。

 疲れたのでタウロスの背中にいます。


「あれはお嬢が悪い......」


「ユミナ様が悪いです」


「嬉々としてタウロスも作ったじゃん。アリエスだって......変な触り方して公衆の前でナニするのよ」


「さぁ〜 何の事かな?」


「ユミナ様補給、完了です!!」


「う、裏切り者......ってか、私って食料なの?」


「お嬢をしているからチャラで」


 タウロスの背中で嘆いていると、ヴァルゴとカプリコーンが私達の方へ歩いてきた。

 デジャブだな。というのも三十分前の私と似たような格好だったから。二人の間には華奢な身体を持つ女の子が、バンザイして手を引かれている。宇宙人が地球へ来たあの有名写真に似ていた。


 ただ絵面がヤバいの一言。踊り子とメイドに捕獲された白髪の女の子。服装は逃走用の服装なのか、マントが付いた麻製の服。顔を隠すためにフードを被っている。まさに逃走者そのものだった。


 しかし、フードを被っても気品オーラは隠しきれていない。歯車のチャームが付いているネックレスを首に掛け、可愛らしい顔に母親譲りの美しい白髪が綺麗に編み上がっていて見た目でお忍びの王族のそれ。


 それにしても、この見た目なら簡単に見つかるはずなのに......何故だ?



「捕獲ありがとう、ヴァルゴ、カプリコーン」



「私達の姿を見ていた群衆の中にいました」


「路地裏に逃げたので全速力で追いかけました」


「壁走りはやり過ぎでしたが......ヴァルゴ」


「カプリコーンは翼を広げて上空から追っていましたよね、人の事言えます?」


「道案内ご苦労です。鈍足さん?」


「羽虫さんは、他人の手柄を横から奪うしか能がなくて困ります......はぁ〜」


 いつもの言い争いを始める星霊さんたち。真ん中の女の子、腕を引っ張られヴァルゴとカプリコーンの胸の位置に顔がセットされた。そのまま胸の渦に呑み込まれている。呼吸、大丈夫かな......


 こうして姫様捕獲作戦は幕を閉じた。








 ◇


 このゲームの運営さんは正座に思い入れでもあるのかな。私が出会った女性達は基本、正座をしている。

 もはや、デフォルトですかってくらいに。



 玉座に座っているマリアさんが娘でもあるリーナを見下ろしている。


「脱走生活はどうでした?」


 鷹揚の中に怒りも付与されている言葉だった。


「こ、こんなはずじゃ......」


 リーナさん、計画が破綻した強盗団みたいな表情をしていた。


「リーナ。貴女に使命を与えます」


 目を見開き、玉座に座る女王を見る。


「貴女は、今からユミナ様の元へ行き見聞を広めなさい」


 後ろを向き、私を凝視するリーナ姫。なんか......いやそうな顔された!?


「わたくし......弱いヤツの下にはつかない主義なの」









「「「「......」」」」


 リーナに彼岸の星剣ノヴァ・ブラッド星光の祝杖ウィンディメイ製造の金槌ビルド・アップ熾星の細剣セラフィムが突きつけられる。


「お゛い゛」


 久々に聞いたヴァルゴのドス声。


「教育がなっていないのではなくて......」


「愚鈍な小娘が......」


「不謹慎な発言は自分の価値を下げるぞ......下賤な者よ」


 虚を衝かれ、硬直するリーナさん。

 広間にいる周りの吸血鬼達は、星霊の行動に反応できず、黙って観るしかできない。


 四人とも眉間に皺を寄せ、頭に血が上り、憎悪に満ちた顔をしている。






 一拍が玉座の間に響く。


「はい、みんな終了よ」


 私に視線を向ける四人。


「離れなさい......リーナさん、涙目よ」


 武器を収め、私に近づく四人。


「ありがとう!! 私のために怒ってくれて、嬉しいわ!!」


 無垢な笑顔に四人の顔は気持ちを抑えきれず、嬉しさで頬が緩んでいた。






「......リーナ」


 マリアさんの顔つきが厳しいモノになった。

 やらかした子どもを叱る母親の顔。


「ユミナ様はお祖母様のご友人と言えば、理解しますか?」


 私に対する呆れ顔は消失し、恐怖でリーナさんの顔が蒼くなる。


 アイリス......一体、女王時代何やっていたのよ。


 リーナさんに近づくマリアさん。


「もう一度、貴女に使命を与えます。ユミナ様と共に外へ行きなさい」


「..................はい、女王様」


 リーナさんが狼狽した声を出す。

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