第90話 資格を得た三人、邂逅する

 意外にも簡単に『グリーンコドラの心臓』を入手した私たち。定番といえば定番だった、魔法使いのゴロツキにからまれ撃退した。恐縮し始め、姐さん呼ばわりされたので『グリーンコドラの心臓』を売ってる店の情報を教えてもらい無事に確保できた。そして、クエストを実行する前にヴァルゴと一度、ヴィクトール大図書館へ向かう。


「久しぶりですね、オフィ」


 また、勝手に本が私のストレージから飛び出す。開きっぱなしの本の上であぐらをかいているオフィュキュースはヴァルゴを見下ろしていた。


「久しぶりね、ヴァルゴ......お城以来だね〜」


「二人とも............暴れないでよ」


「「やりません」よ〜」


 上を向く。興味はある、けど最上階まで行くのは時間がかかる。なので、二階を一回りして満足して一階に下った。

 面白い本をオフィュキュースが嬉々として私たちに語り出していた。なんか可愛かった......無邪気な子どもって感じで。





 夜になった。


 月明かりに照らされている大図書館の一階。椅子に座り、対面した。


「それで、カプリコーンは元気〜」


「休息中だよ」


「ふ〜ん。そっか」


「オフィ、本当にですか?」


「意味が......そうね〜 小娘ちゃんの目の前でヴァルゴの本来の姿を解放した者だよ!」


「悪びれないのは......いつもですね。はぁ〜」


「で、二人は何しに来たのよ」


「何もない」


 オフィュキュースが間の抜けた顔をした。意外にもレアだ。


「はぁ!?」


「実際、この大図書館ですることないし」



「ねぇ、ユミナちゃん。人を貶めるのはやめてよ」


「アンタがいうか!?」


「もしかして......素面なの」


 私とヴァルゴは顔を見合わせる。首を傾け、疑問顔になった。


「全く......じゃあ、なんで大図書館に入ったのよ」


「人が飛んでいたから、興味があっただけ」


「『飛んでいた』?」


「ヴィクトール大図書館には限られた人しか入れない。大抵の人は入口にある扉にビンタ攻撃を喰らう。ヴィクトール魔法学園に在籍している人には常識だよ」


「う〜〜ん。私は扉と戦闘した経験はないけど......いつの間に戦闘狂になったのよ、大扉くん」


「『いつの間に』って、ヴィクトール魔法学園が創立してからだよ。しかも、ヴィクトール大図書館入れたのは過去に二人だけ......だよ......??」


「何よ、人の顔をじっくり見て。悪いけど、変態ヴァルゴみたいにほだされないからね。私はそんな軽い女じゃありません〜」


「おいっ!? 誰が『変態』だ」


「ヴァルゴ......少し黙ってて。ねぇ、オフィュキュース。アナタなの。二人のうちの一人は」


「そんなに不思議なの。昔、私は面白そうな図書館があるって情報を得てね。興味本意で入ったけど......まぁ、三十年くらいは住み着いていたかな〜」


「こんなのが二人目なんて......防犯どうなっているのよ。いや、どうせ【カンムリ】を使用して強制的に扉を従わせたんでしょうね」












『そいつは無理なのだわさ』


「無理じゃないでしょう? 【カンムリ】の支配力は強力。いや、『呪縛(ロック)』を使った」


「残念〜 【カンムリ】も『呪縛(ロック)』も生命体にしか使用できません〜 それにドアを開けるのにわざわざ黄道(ホロスコープ)スキルや魔法を使う訳ないでしょう、ユミナちゃ〜ん。それに、黄道(ホロスコープ)スキルならともかく......『呪縛(ロック)』は」


『ソヤツの言う通りだわさ。そもそも『呪縛(ロック)』の魔法は大図書館に保管されている私が創造した魔法。外部に漏れてはいない。漏れる心配もない、扉はドアノブに触れた者に強制的に『呪縛(ロック)』をかけている。だから純粋に扉に選ばれた強者だけが図書館に入れる。特別な条件を一つ仕込んでいるがな』


「へぇ〜 オフィュキュースが初めから持っている魔法じゃないんだ、知らなかった。それに、扉に『呪縛(ロック)』の魔法が......付与......されて......いたんだ!??!?!?」







 私はいったい、誰と喋っていたんだ? オフィュキュースも私と同じ顔だった。



『上、だわさ』



 私はゆっくり上を見上げる。影が迫る。長方形の影は頭上に存在していた。影は徐々に広くなる。エスカレーターよりも遅いスピードで影は落ちてくる。

 私の目の前に着いたのはオフィュキュースと同じく開きっぱなしの本。

 本の上にはサンライトイエロー色の光を放ちながら、ビスクドール人形の大きさの者が立っていた。柔らかい顔立ちの女性。オフィュキュース同様、半透明だが高貴な服を身に纏っている。所持している杖もなかなかなモノだと断言できる。


「えっと。アナタは?」


「うん? 魔法学園の生徒だろう? 私の肖像画くらいは学園にあるはずだが」


 肖像画ねぇ〜 魔法学園内には無数の額縁が壁にあったが、クエストで知った肖像以外は覚えていない。生憎、『だわさ』口調の人物を見たことはない。



 一度あることは二度あるともいう......そんなことわざないか......


 私はストレージを確認した。オフィュキュースから貰った本は当然、ない。対面にあるから。それよりもずっと前。取得順にしているのでスクロールしていく。一番下まで辿り着いたが目的のアイテムは消失していた。もっとも古く売却していないアイテムは二つ。


 一つは解読不可能な魔導書、もう一つはエヴィリオン・ヴィクトールの日記。



「やっぱり、ないか......」


 どれだけ探しても、アイテム欄の一番下にあったのは解読不可能な魔導書だけ。エヴィリオン・ヴィクトールの日記は消失していた。因みに捨ててはいない。てか、捨てれなかった。勿論、売却もできなかった。だからストレージの肥やしとして存在していたが、晴れて消滅したと歓喜するはずだった。


 だけど、どうやら喜びは保留にしないといけない。



「エヴィリオン・ヴィクトール......」


「やっとわかったようだわさ。いかにも、私こそヴィクトール魔法学園の創立者でもあるエヴィリオン・ヴィクトール。よろしくだわさ、未来の魔法使い!!」



 アクイローネ、私は魔法学園を退学したい。厄介ごとしか受け持っていない......



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