第84話 麗人天使、品定をする

「ヴァルゴ、アリエス......ご主人様のことが少しわかった気がします」


 ヤギの角を生やし、執事服を着ている麗人がため息を漏らす。

 私の両隣にいるヴァルゴとアリエスも嘆き悲しんでいた。


「いつもは、かわいいんですけどね」


「夢の中で何かあったんでしょう。恐ろしい......」






「ちょっと、二人とも......」


「「なんでもありません」」


「よろしい、それに


「はい......」


「貴女はこうならないでよ。本気で信じているから」






 主からの切実な願いだった。


「かしこまりました。私はご主人様の執事。ご主人様の命令は絶対です」


 私はベットの端で腰を下ろした姿勢をとる。自分の手をカプリコーンの前にだし、膝をつき、私の指輪。赫々たる道標ゴールド・ティアーズに口づけをするカプリコーン。






「ヴァルゴ......」


「なんですか、アリエス」


「カプリコーンはどれくらい保つかしら」


「賭けになりませんね。顔を下にしているのでお嬢様には見えていませんが......」


「顔、赤いですね」


「お嬢様の前では誰もが夢中になるってことですね......」







 今私の指輪にキスしているのは、カプリコーン。

 名前から察せられる通り、山羊座に就任していた星霊。


 アリエスは羊の耳だったが、カプリコーンはヤギの耳を生やしていた。薄い赤みの灰黄色のミディアムヘア。

 私も従者の星霊もロングヘアが主だったから。肩から鎖骨くらいまでの長さであるミディアムヘアは新鮮。


 見た目は完璧に麗人。これが見るものを虜にする魔力なのかとうっとりしてしまう。年上の魅力が詰まっているカプリコーン。執事服なのはカプリコーンが昔から愛用しており、彼女自身執事の仕事に誇りを持っているので私の従者になっても執事を進んでやってくれた。







 実はカプリコーンの石像が置かれていたのは秘境の山や絶海の孤島にはなく、『セルパン』に向かう途中。それも余程運がないと見つけれない森の奥。


『ラパン』、『ドラゴン』の街中にも星霊石像は一つもいなかった。フレンド登録したプレイヤーからの情報もなかった。


 道中を隈なく探しつつ、ニッカとの出会いで私の成長の方向性が決まった。私の強化を図るために『セルパン』に向かっている途中の山奥に小屋が設置されていた。


 偶然にも山道で足を滑らせてしまった私。坂を下り続け、ようやく滑り終わり到着した先にカプリコーンの石像が置かれていた小屋があった。


 小屋の前に守り神のように置かれていたカプリコーンの石像。小屋の持ち主に訳を説明して譲ってもらおうと中に入ったが、誰もいなかった。どこに行ったかの手がかりを探すために小屋の中を調べていると。


「私、お礼を言えず仕舞いでした」


「カプリコーンにとっては命の恩人だからね」


 小屋の持ち主の物と思われる日記があった。居場所を探るために内容を読み、持ち主はもういないことが判明した。

 それからカプリコーンの石像は小屋から更に奥、暗い森の中に元々置かれていた。蔦や苔がぎっしり。例え、石化が解けていたとしても森を抜け出すのは困難な場所だった。たまたま見つけた小屋の持ち主さんが少しずつ石像を引きずりながら自分の家まで持ち帰ったと日記には記されていた。


「私の命を救ってくれた御仁と石化を解いてくれたユミナお嬢様。私はお二人のために生きます」


「今更感はあるけど、今後ともよろしくね!!」


「よろしくお願い致します、ご主人様」







「う〜〜ん、まだなれないな。そもそもご主人様って......」


「石化から解放されてから先ほどの状況までで得た情報をまとめた結果です」


「どう、まとめたのよ」


「見目麗しい女性二人と寝ているお方を形式として”ご主人様”と」


「私はいつから、男になったのよ!? ま、いっか」


 ダメだ、星霊との会話はキャッチボールができている風だ。急に投げた野球ボールが別種のボールとして帰ってくるみたいな。わからないときはわかっている感じを出しておけばなんとか成立する。




 両隣にいるヴァルゴとアリエスは喜びがはじけた顔をしていた。


「カプリコーンも言うようになったのね。『理知的で色気のある女性』だなんて!!」


「『眩しいほど美しい女性』なんて。嬉しい!!」


 二人はよほど、都合の良い耳と脳を持っていらっしゃる。いや、高度なAIと処理システムって解釈で合っているのかな。まあ、女性たるものやはり綺麗や美人を連想させる言葉を言われると嬉しくなるのは常だ。


「それにしても、カプリコーンって不思議だよね?」


「急にどうしました、ご主人様」


「いや、星霊って喧嘩腰で会話しているから。ちゃんとした会話が見れてホッとしている」


「そうですか? それは誤解です」


「『誤解』?」


「はい、先ほど私が言った『見目麗しい女性二人と寝ているお方』はあくまでユミナ様を中心に見た私の感想です」


「ほうほう......??」


「従って、敬愛するユミナ様以外を中心に見た場合......ユミナ様の両隣にがいる、が感想になります」


 寝室が凍るのを感じた。ゾッとするような眼と冷酷そうな眼をした者たちが私の両隣にいる。


「今、なんて言いましたか? カプリコーン」


「あれ〜 おかしいな、先ほど意味がわからない単語が聞こえた気がするんだけど......」




 ヴァルゴとアリエスは満面の笑みだが目は笑っていなかった。

 カプリコーンが呆れたため息をした。非常に気に入らなかったのか遂に阿修羅のごとく怒っている二人。


「一度、言ったことを理解できないとは......二人は愚人になったんですね。同じ種族として恥ずかしいです」




「「なんですってぇぇえええ!!!」」




「冷静さも欠けている......はぁ〜 脳ミソが腐っている者がご主人様の従者を名乗っているとは。まぁ、服もまともに着れない嘆かわしい存在ですから仕方がありませんが......はぁ〜」


「言いたい放題言ってくるじゃないですか」


「......ヴァルゴ、貴女の生き方は目を見張るモノでした。それが今やこんな品のない格好をするとは」


「どこが品のない格好なのかしら。この溢れる魅力、お嬢様を喜ばすのにこれほどの容姿は存在しません」


 ヴァルゴ......自分で言わないほうが。


「ただ、服を脱いでインナー姿だけなら猿でもできます。『溢れる魅力』? はっ、巨大すぎるのも不憫ですね」


「カプリコーンには一生分からない悩みです」


「アリエス以上あるので心配はありません」


「はぁ、どう言う意味ですか??」


「言葉通りですが、理解に必要なエネルギーはどこに行ったんですか」


「癒しの天使様は王に肌も見せれないのですか」


「肌を見せることが全てではありません。これだから、浅薄な悪魔や元人間は困ります」


「欲に制限がかけられている天使はさぞ、生きにくいでしょうね」


「自由に生きれなくて、大丈夫ですか〜〜」


「私はこれで満足していますので。むしろ際どく、露骨な姿になってもご主人様とナニもないとは。本当に魅力があるんですか(鼻で笑う)」


「お前の翼をもいでやろうかァアアア!!!」


「貴女に欲を覚えさせ、堕天させる......」


「かかってきなさい、瞬間発情期ども!!」



 私は窓を開けて、バルコニーに出た。手すりに腕を置き、アイリスが作った庭園を見つつ奥に広がる湖の景色を堪能していた。


「......天気、いいな〜」

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