第55話 頭脳プレイは似合わない人もいる
「おいっ!」
私から発せられたドスの効いた声が響く。
四人ともビクつく。私を見た四人は小刻みに震えていた。
「正座」
一糸乱れない動きで私の前に正座になる四人。
仁王立ちになった私は四人を見下した。
「まずは私の言葉を聞きなさい」
私が声を出す度に震えが増幅していった四人。
「始めにヴァルゴ。私が言ったのはこれ以上、人目につくと貴女との旅が困難になるから、解決策を用意しよう、ということです。決して貴女を見捨てたりしません」
「はい......」
そこから皆に冷酷な声で時間をかけてしゃべったが、自分が何を言ったのか覚えていなかった。
「そこで待ってなさい」
なんか苦笑いをしているクイーンさん。
「すみません、お見苦しい光景を見せてしまって」
「いや、私は気にしていないが......なんというかスゴいな。ユミナは」
「慣れれば......誰でもできますよ。まぁ、時々適当にあしらっていることもありますけど」
「あと......すまないな。私のせいで」
「いえ、私がもっと用心すればよかったんです」
ヴァルゴたちとの旅。口では言うのは簡単だ。三番目の街での人集り。先程戦ったレッドプレイヤー。現時点ではなんとか対処できているが、この先どうなるのか私でも分からない。
下手したらみんなが危険に晒される可能性だってある。人里離れてのゲーム生活もサバイバル感があってまた別の楽しみもあるが......やっぱりクイーンさんのように別のプレイヤーとも一緒に楽しみたい。
それを言うならヴァルゴたちと新しい街の散策もしたい。同時に叶う方法はないのか。要はどちらかがどちらを見られず楽しめればいい。
見られず......見えない......視(み)えない。透明人間ならどうだ。
このゲームのプレイヤー総人口は分からない。NPCもしかり。なので、全ての人間を透明人間にすることは現実的に不可能。まぁ、みんながかくれんぼガチ勢で毎日やれるなら可能かもしれない、が。兎に角、全員はできなくても数人なら......条件次第でできるかも。
で、今私がいる場所はまさにうってつけの場所。タイミング良すぎるのも困り者。
と、なれば私の最優先事項は......やっぱり。
「タウロス」
後ろ向きでもタウロスがビクッと体を揺らすのが分かる。
未だに私が怖くて、動けずにいる。少しやり過ぎたと感じているけど......まぁ、いいか。
「な、なんでしょうか。ユミナ様......」
「いつも通りで良いわ。相談なんだけど、あの洋館にいる幽霊モンスターからドロップするアイテムで忍者......人から隠れれる装備品とか生産できたりは可能?」
「お化けみたいに完全に透けることが可能な装備品はできないけど、時間制限アリの程度は」
「なら、今から今後の行動をお伝えします」
振り返った私を見て、背筋を伸ばす。正座姿だけど......
「みんなにはあの洋館に生息している幽霊モンスターのドロップ品並びに回収可能なアイテムを全て回収します」
「全てですか......」
「そうよ、アリエス。数が多ければ多いほど。透明人間になれる装備が作れる。それをみんなに着させれば、街中でも私と散策ができる。人目を気にせずに、ね」
みんなには申し訳ないと思っている。現状はこれを軸にプレイヤーからの捜索を回避していく。もしも、より効率的な解決法ができたときにはそれも取り入れる。
「ですが、今のみんなは少々落ち込んでいます」
まぁ、私が完全に主犯なんだけど。
「そこで、だれが多くドロップ品や採取可能なアイテムを獲得できるか勝負をしてもらいます」
私のゲームに三人の目に精気が宿る。
「一位の人には私が
三人の圧がスゴい。やる気に満ちている。分かりやすいといえばそうなんだけど。ムチを与えたんだ、次はアメを与えなくてはモチベーションがだだ下がりとなる。
本当は順番が逆だけど。三人が元気になったのでどうでも良い。
「でもよ、お嬢。アタイは......」
「大丈夫よ。『ウラニア』が使用不能だったとしても通常のストレージは使えるでしょう。それにタウロスにはその後の作業を加点するから」
「お嬢が求めている装備を作ることができれば......」
「優勝よ!!」
「頑張るぜ」
「二人は......アイテム一つにつき、一点。一種類を何個回収しても問題ありません」
「あの洋館のモンスターを根絶やしにしても」
「可能なら」
「どうやら、私の勝ちのようですね」
「アタシの聖なる力があればアイテムなんて楽勝です」
「では、用意はいいですか」
上半身は元気一杯だが、下半身は生まれたての子鹿みたいだけどなんとかなるでしょう。
「仁義なき戦い。スタート」
三人は己のスキルで洋館へ走り出す。
「ユ、ユミナ」
今も正座しているアクイローネ。
「あのさ、私も」
「良いけど、このままじゃ最下位よ」
「それって」
「当然、罰ゲームを用意しているから。覚悟していてね」
「覚えてろぉぉおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
奇行じみた動きを出しながらアクイローネも走り出す。足の焦点が定まっていないのか真っ直ぐ歩けないでいた。
「ユミナ」
「はい、クイーンさん」
「君は行かなくても良いのか?」
「私は......ここにいます」
だって、怖いし......なんて最低な発想なのか。我ながら恐ろしい。
「もしもだが、彼女たちが共謀して同点ならどうするんだ? 監視とかはしないのか?」
「ならないですよ。みんな、私
「同点ってことはみんな同率一位になればそれぞれ、ユミナに命令ができるんじゃないのか」
あれ? もしかして......私の現状って。
「タウロスというNPCはユミナに最高の装備品を作る手筈となっている。しかし、ユミナは加点方式を採用した。彼女たちが多分、ユミナならこのくらいの点数を付けるとある程度予想するかもしれない」
あれ? 結構ヤバめな展開か、これ......
「NPCが予想を立てなくても、あのアクイローネはプレイヤーで君のリア友なんだろ。なら、当然リアルのユミナを十分理解しているはず。自らの知識をNPCに与えてしまうかもしれない」
「と、言うことは......」
「ここで油を売っていると最悪の展開になるんじゃないのか、勿論ユミナがそれを望んでいるのなら私の話は聞かなかったフリをしてくれて構わない」
私はクイーンさんに小者ムーブを発動。偉い立場の人に対して行うご機嫌取りのように手を動かす。
人生で初めてゴマスリすることになるとは夢にも思わなかった。
「あの、物は相談なんですが......私と一緒にあの洋館に入ってくれませんか。勿論報酬は弾みますので」
「それは、遠慮しておくよ。元を辿れば私がユミナたちの前にで出てしまったことが原因だ。これでチャラと言うことでどうだ」
「はい!! それで大丈夫です」
「分かった。改めてよろしく」
私はクイーンさんとフレンド登録とパーティー申請を行い、洋館内に入ることになった。
私に頭脳プレイは似合わないか、と実感したのであった。
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