第49話 演技もイける従者たち......?

「全く、何やってるんですか?」


 ヴァルゴの長いため息が部屋に漂う。


「捕まった!」


「すみません......いけると思ったのに」


 豪快な笑いと涙目な表情を持つ同じ種族を見下しているヴァルゴ。


「お嬢様、二人とも解雇しましょう」


 ヴァルゴの提案に『待った』をかけた。


「それは、一旦保留で」


 言葉では言いつつも手放す理由は微塵もない。なのだが、床に座っている拘束済の従者二人は青ざめていた。


「効果的面って事ですね」


 振り向き、奥のテーブルで両肘をつき私たちを見ているヴェラを見た。


「ふふん、仲が良いことね!」


 ヴェラの笑顔は心からの笑みだと気づくのにそう時間は掛からなかった。


「長話は好きではないの。ユミナ様、貴方様の従者が失った損害......払ってください」


「一応、聞きますが。本当に二人ですか?」


「えっ、真実です。まずはアリエス様。ルーレットで全敗。金額は先ほどお渡しした紙に記載されている通りです」


「へぇ〜」


 アリエスは目も合わせない。体がプルプル震えていた。合わせたら最後だと考えているのかもしれない。


「次にレオ様。ポーカーで大負け。勢いよくベットするのはディーラーをしていた私も心躍りましたが、もう少し頭を使うことをお勧めします」


 アリエス同様に、レオに負債額が記されている紙に目を通す。


「レ〜オ〜」


 下を向き、私と目線を合わせない。


「それに加えて」


 えっ!? まだあるの??


「私が経営しているこのカジノは、如何なる者も拒みません。なので、ライオン姿で入店したり、勇猛果敢な女傑になって、アルコール度数が高いお酒を多く飲み続けても問題ありません。その結果、秘蔵のコレクションが粉々になっても、私はちっとも怒っていきませんので」


 テーブルに置かれていた物だった存在。ヴェラのロングヘヤーの赤髪と同じ色をしているカケラたち。

 粉砕されていても、光沢は失っていないが、商品価値はないのに等しい。


 私が口を開いた瞬間にヴァルゴがレオの頭を殴った。頭を抱え、悶え始めるレオ。


「お嬢様、星霊の不始末は星霊がつけます」


「一旦、剣を納めてくれない」


 私からの命令に従い、赫岸の星劍デモニック・ステラが消えた。

 代わりに鋭い眼差しをレオに向けるヴァルゴ。


「レオ。命拾いしましたね。昔の私なら、即断罪していました」


「ユミナに感謝だぜ......」


「それで、ユミナ様。こちらの水晶玉:フェニキシオンと同等もしくはそれ以上のお宝をお願いします」


 ヴェラは笑顔で粉々に成り果てた大変高価な水晶を私の前に出した。今のヴェラの笑顔は何をしても崩れない。笑顔がとれた場合、残るのは怒りだけだから。


「お金は工面できる。問題は......」


 お金ノターには余裕がある。だから、一括でレオとアリエスが抱えてしまった負債金額を支払いはできる。


「高価な品物を所持していないのなら、探してきてください」


「探す、ですか?」


「『ムートン』や『サングリエ』周辺の海にはまだまだ未発見の遺跡が存在します」


 海の中か。行ったことないし、行ってみるのも一興か。


「わかりました。それじゃあ......」


「ただし、猶予は一日です」


 突然の宣言に驚きを隠しきれなかった。


「『一日』ですか」


「申し訳ありません。私の性分ですので、負債者に時間をかけたくはありません。それと、レオ様とアリエス様はここに拘束させていただきます」


「逃げられない状況と、人質もとるか......」


 こちらには拒否権はない。


「わかりました。では、早速行ってきます」


「お嬢様、私はここに残ります」


「えっ!? ヴァルゴ?」


「こんな無能なバカどもが遅れをとることはないですが、念の為です」


 さりげなくレオとアリエスを小馬鹿にするあたり、怒りは治っていないのだろう。


「そ、そうなんだ。それじゃあ、よろしくね」


 扉を閉める直前に私はヴェルを一言言った。


「こちらに非があるので、多くは言いません。もし、私の従者に、例え悪人になろうが......貴方を殺します」


 扉を閉め、私は廊下を駆けた。







 ◇


 ユミナがいなくなったヴェラ専用の部屋に脱力した姿が一つ。


「あー.........怖かった」


、ですか」


「あっ、バレました」


「まぁ、ヴァルゴなら速攻で分かっただろうぜ」


「レオさん、言う通りにしましたので」


 先ほどまでの威厳的な態度はどこへやらと心でため息を吐くヴァルゴ。


「ほれ!」


 拘束を解除したレオはヴェラに何かを投げた。


 受け取ったヴェラは嬉しさ全開。しまいには涙まで流す始末。


「良かった。ありがとうござます」


「机にあった水晶に似ていますね」


「あれは、模造品です。本物はこっちです」



「随分と小さい水晶玉ですね。水晶の中にイルカが入っていましたか」


「この世で二つしかない、貴重な水晶です。少し前、厳重な倉庫に賊は入りまして。盗まれた物の中に『フェニキシオン』もリストにありました......」


「賊はレオとアリエスが退治した、でいいですか」


「素材回収後に、遭遇しまして」


「初めは無視したんだが、アリエスに向ける邪な眼差しが気になってな」


「レオ、ありがとう!」


「お前を止めないと、死人しか出ないからな」


「酷いですね、レオ」


「で、水晶を探していたヴェラと出会ってな」


「わざわざ、あんなクサイ芝居までして......」


「後でユミナ様に謝ります」


「私、手伝いしませんので。それで、」


「『それで』とは?」


「何故、こんなことを」


「素材集め中にレオと話していたんです。ユミナ様行くところ、星霊アリっと」


「アリエスから聞いた情報から、街や古城、島に俺たちは石化状態で発見された。でも、ある場所がまだ行ってねっと思ってな」


「海......ですか」


「さすがに水中や深海にはないと考えられますが、海底都市は存在します」


「お嬢様を無理やり、海に出した、と」


「後で謝っておくよ」


「でしたら、私たちみんなで行けばいいと思いますが?」


 ヴァルゴの言葉に目を点にするレオとアリエス。


「なんですか、その奇妙奇天烈な顔は」


「アリエス。お前の言った通りだな」


「でしょう。ヴァルゴはいつも無関心なんですから」


「二人で完結しないで、話してください」


「ユミナ様がもしも、海底都市を発見し、石化状態の星霊を見つけた場合。誰が見つかる?」


「海に関係しているのは『蟹座』、『魚座』。そして、『水瓶座』??」


 まるで、分かっていないヴァルゴに呆れているレオとアリエス。


「三人以外も可能性はありますが、その通りです。ヴァルゴ......『アクエリアス』です」


 首を傾げるヴァルゴ。


「あの人魚姫がどうかしましたか?」


「絶対に、アクエリアスがオレたちと会ったら......」


「絶対に、装備やメイクのこと言いますので......めんどいです」


「オレたちと会う前に、ユミナに籠絡される作戦決行!!」




「......稚拙な作戦ですね。しかし、アクエリアスですか。私には、何もありませんでしたが」


「ヴァルゴに言うのは自殺行為ですから」


「......意味がわかりません?」


「バカはほっとけ」


「二人の作戦は上手くいきませんよ。お嬢様が行った場所に星霊がいて、アクエリアスが置かれているなんて......そんな確率」


 レオとアリエスは、お互いを見る。


「だよな」


「そうですよね、そんなラッキー現象、早々起きませんか」



「それにしても、二人の行動が全て演技なら、お嬢様が支払うものはありませんね」


 頬をかくレオとアリエス。


「えっと......」


「あのですね、ヴァルゴ。実は、少しだけカジノで負けまして」


「はぁ」


 怯えているヴェラが答えた。


「そうなんです。お二人がカジノで負けたのは事実......です」


 不敵な笑みを浮かべるヴァルゴ。

 両手には同族を処刑するための兇悪な二振りの剣。


「こいつらは血に、飢えています。お二人の血液、もらいますね?」




 レオは星希の皇望剣ホープ星未の戦来斧ネメア。アリエスは星光の祝杖ウィンディメイを構えた。


「抵抗するか」


「逃げるのは悪手ですね」




 ヴェラの部屋は爆音に包まれる。ヴェラは身を隠しつつ、星霊の死闘を目撃していた。同時にあのような最強の存在たちと従わせているとは、何者なのかっと熟考していた。

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