第56話 似た物同士

 「貴方は、行かないの」


 私の隣にいるグッダグ将軍に尋ねた。彼以外は空中でカプリコーンと戦闘を始めている。カプリコーンと対峙している兵士たちの表情は険しいものだった。カプリコーンの放つプレッシャーに打ち勝つ精神力を持っているが、同時に繰り出される隙のない剣技に翻弄されている。一人また一人と戦場から離脱していく。


「貴様が、何をするか分からないからな。あの者があの様な姿で戦場を駆けている。強大な力を有しているなら、初めから実行すればよかったはず。なら、主でもある貴様の指示だろう。あの者に皆が視線を集めている隙に何かを行う、と踏んでいる」


 この将軍、気づいていた? なかなか鋭いわね。でも……


「その通り、正解です!!」


 満面な笑みをグッダグ将軍に見せる。


「随分、あっさりだな」


「生憎、嘘が嫌いなもので。正直者って奴です!!」



 手のひらに星刻の錫杖アストロ・ワンドを出現させた。

 咄嗟に三叉の先端を私に向けるグッダグ将軍。


「正直者なので、今から起きる事は全て真実の出来事!!」



 満面の笑みは徐々に不敵な笑みへ移り変わる。グッダグ将軍の殺意が伝わる。


「何をする気だッ!!」


 星刻の錫杖アストロ・ワンドを投擲と同時にグッダグ将軍の三叉の刃先が私に迫る。


 得物同士がぶつかりあう。けたたましい金属音が鳴り、火花が散る。

 婥約水月剣プルウィア・カリバーで突技を防御。



 グッダグ将軍の三叉、バハムートが青く輝く。


「剣を通して、貴様を行動不能にする」


 グッダグ将軍が発動したのはバハムート専用スキル『海吸ドレイン』。

 対象のHP、MPを吸収し、自分の物にできるスキル。『海吸ドレイン』の利点は、対象に直接、刃先を当てても発動する以外に対象が持つ武器経由でもスキルが発動できる点と三叉槍のどこかに武器が当てても発動できる点の二点がある。


 長槍に分類されているバハムートは、接近すると小回りの効かない武器なので、懐に入られたら対処が難しい。三叉槍は穂先が殺傷能力があるけど、それ以外の部分はあまり役に立たない。せいぜい、柄部分を敵に向かって、殴る位。


海吸ドレイン』はバハムート、元より三叉槍のデメリット部分を解消してくれるスキルとも言える。


「何故だ......」


 ユミナへ睨む目が濃くなる。

 時間が経過しても、囚人の女が倒れないことにグッダグ将軍は怪訝な顔をしてしまう。


「貴女の持つ武器、スキルは彼女から教えてもらっているわ」


 ユミナの視線の先にいる赤髪の女性。アリスを守る傍ら、ユミナが騒動発生後に渡しておいた、武器を使って、海棲人の兵士たちと交戦していた。


「エフェクトで分かったわ。それ、私の体力などを奪うスキルだよね」


 婥約水月剣プルウィア・カリバーの剣先とバハムートの穂先、鍔迫り合いはなくなり、お互い一定距離離れた。


「ふふう!!」



 ユミナのニヤケずらがグッダグ将軍の癇癪に触ったのだろう。バハムートの持ち柄を力強く握っていた。

 婥約水月剣プルウィア・カリバーが輝く。


「この武器、婥約水月剣プルウィア・カリバーっていうだ。能力は非常にシンプル。対象の水分を奪う、それだけ」


「俺のバハムートと似ている......」


「敵が私の何かを奪うなら、こっちも敵から奪おうってね!!」


「相殺されたっということか」


 納得した表情を見せるグッダグ将軍。このままユミナとやり合っても勝ち負けのない戦いにしかならない。


(警戒は解かないか......)

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