第5話 雨も滴る青花

 今日は急遽、予定を変更していつもの魔法学園に足を運んだ。

 理由はただ一つ。雨だ......


 オニキス・オンラインはランダム天候システムが存在する。

 時には灼熱の太陽。時には竜巻が吹き荒れるなどなど。環境が最悪だけではない、その時の天候で入手できるアイテムが存在する。


 武器製作をタウロスに依頼した時。提案されたナイフ系統の片手剣に面白い武器を見つけた。ただ、ある素材が手元にない。情報収集した結果、目的の素材は雨の天候のみゲットできる。


 これまた運の良いことにヴィクトール魔法学園の教師NPCから目的物を採取するクエストが受注できた。


 っとここまでは非常に順調だった。


 私の左側にはカプリコーン。本当は全員で採取した方が手っ取り早いけど、大人数で魔法学園にも居たくない。視線が痛いから......


 なので、従者達にじゃんけんさせ、勝ったカプリコーンが今日の私のお供になった。


 手を顎に置き、微笑するカプリコーン。


「ふふん。無様に這いつくばる姿、滑稽でした」


「カプリコーン、顔」


 悦びのあまり、ヨダレを垂らすカプリコーン。

 見た目は麗人執事なのに、同族。星霊に対しては苛烈なまでにドS。

 お供ジャンケンに負けた星霊達はカプリコーンを見上げ、怒目をしていたが、なんか可愛かった。


「これは失礼しました、ご主人様」


 私達のやりとりを見つめる影は一つ。


「あの、ユミナ様」


「御免なさい、カレッタ姫」


 クエスト:《翠雨垂れる恵花》。ヴィクトール魔法学園が雨の時期に受注可能なクエスト。薬草学のシードレン先生から「青い花を見つけて欲しい」っと曖昧な言葉から始まった。



 私には大図書館があるから答えはすぐに見つかり、準備を済ませ、いざ、行こう!!

 だったんだけど、カレッタ・グランブ・ヴィクトールから「一緒に行ってもよろしいでしょうか」と申し出があった。


 姫であり、優秀な魔術師NPC、そして......ケンバーの子孫。興味があったので同行を許可した。


「姫はやめてください。で大丈夫です」


 私が泣き始め、オロオロするカレッタ。


「えっ!? どうかなさいましたか、ユミナ様」


「カレッタはいい子だ......」


 眼を逸らすカレッタ。ほのかに頬が赤く染まっていた。

「い、いきなり......何をおっしゃいますか」


「ご主人様、カレッタ嬢が困っていらっしゃいます」


「ごめん、嬉しくて」


 NPCは会う人会う人、私と色々あった。


「この感動を噛み締めよう......」


「えっと......」


「申し訳ありません、カレッタ様。ご主人様は本当に変な人なので」


「なかなか......個性的な方ですね、ユミナ様は」


 しているカレッタを見て、心でため息を吐いた。


(これは本格的に会議をした方がいいですね。ご主人様に欲情する女性の対処を)



 古今道材ここんとうざい古森ふるもりを北東に進む。奥へ足を踏み入れる度に暗い森林が広がる。


 疑惑が浮上した。

「本当に、こんな森の奥にあるのかな」


「大図書館の書物から得た情報をまとめると目的の青い花———魔雨の花シャクヤク


 シャクヤクね......漢方などで使われる薬用の花だったかな。リアルで咲いているシャクヤクをベースにゲームオリジナルの青いシャクヤクを誕生させたのかもしれない。


「あの、ユミナ様」


 カレッタがユミナに質問しようと口を開く。


「どうかしました?」


 カレッタは地面を見渡す。

「い、いえ......お強いんですね」


 素材の山。数は覚えていないけど、接近してきたMobを片っ端から倒してきた。

 タウロスへの新しい武具の依頼にはやっぱり素材がないと始まらない。


「大丈夫ですよ、後でカレッタにもお渡ししますから」


「えっ!? あの......私、何もしていませんので」


「遠慮しなくてもいいよ。今は同じパーティーなんだから平等にドロップ品を分けるよ」


「それでは......いただきます」


「それにしても、何回も古今道材ここんとうざい古森ふるもりに来ていてモンスターの行動パターンは判明しているから、正直作業になっている!!」


 カプリコーンは熾星の細剣セラフィムを鞘に仕舞う。


「ご主人様、もう少し意識して戦っていただけると助かります」


「ごめんよ、でもさ〜」


「『でも』ではありません」


「ブゥ! ......カプリコーンのいじわる」


「簡単に倒せるからと侮ると......後々、大変になります。ご主人様は昨日も全身が剣山のアナコンダに......」


「あぁー......聞こえない、聞こえない。わかりました、わかりました。意識しまーーす」


「はぁー......ヴァルゴが苦労するはずです」



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