第7話 火力重視の魔女っ子 VS 凶暴な巨人

「久しぶり……? であってるのかな」




 視線の先には、ほんの数時間前に友人と一緒に討伐した自分の身長より三倍はある。目の前にいるのは暗然あんぜんの洞窟に棲むゴブリントロール。洞窟のおさが鎮座している。


 初めて見た時も思ったけど……ゴブリントロールが持つ巨大な棍棒。直撃すれば生身の人間なんて一気にミンチに成り変わってしまうよね。決して比喩でもなく簡単に実行されるほどまでに大きな棍棒だった。棍棒の剣身? と呼べばいいのか知識のない自分は別称しているけど、大きな突起物がとう間隔に棍棒に付属していた。


 一時期マイブームとなった足ツボグッズを思い出す。初めはなんとも言えない激痛だったけど、徐々に気持ち良くなっていたのもいい思い出。当時を思い返すと自分でもバカだと思える、毎日、竹踏みグッズをやっていた。指圧の代わりで血行良くなるし、こりもほぐれて最高だったな〜


 友人たちに足ツボを熱く語った。結果、真凪まなと残りの悪友二人が満場一致で私をドM認定された。不名誉な称号が許せなくて仕返しとばかりに私が習得したマッサージをフルコースでプレゼントした。真凪まなの家でやったから近所の人たちがケモノの鳴き声したけど大丈夫って心配していたっけ……



 思考がマッサージ足ツボ一色に染まっていたので洗い流した。待ち構えているアイツを倒さないといけない。







「私、一人でやれるかな……」


 圧倒される大きさを持つゴブリントロール。アイツと私がいるのは洞窟の最深部。駆け抜けた洞窟内より広大な空間。改めて感じるが……ゴブリントロールと同じ場所にいると自分が小人になった気分がしてならない。


 薄暗がりの中、燃える赤い眼が私を捉える。



「戦います! えっ!?」


 私が戦闘準備をしかけた瞬間……風圧で横へ飛ばされた。



「きゃあぁああああ!!!!!!!」





 跪く格好にはなったが着地に成功し状況を確認する。


「……何?」


 まず自分のHPが風圧であってもダメージが入ってしまった。土煙が舞い視界が非常に悪い状態。

 地震に似た大きな揺れで立のが困難な状況だった。

 そして……私が先ほどまで立っていた地点の少し上。壁にゴツゴツした物体がめり込んでいた。


「嘘でしょう……!?」


 目線をゴブリントロールに向き直した私。アイツは自分が投げた棍棒で非力な人間ユミナに当たってないのを直感していると思う。ゴブリントロールの思考は即座に理解したのか後ろで地面に置かれていた予備の棍棒を持っていた。


 鋭い眼光が獲物を殺すモーションに入り、走り出す。

 振り下された棍棒。


 今度はちゃんと体を捻って回避した。ゴブリントロールの一撃が空振りとなり、地面が砕ける。

 再び土煙が発生したが影でおおよその位置は把握できた。


 アイスを発動。細くて脆く人の手でも簡単に折れる棒状の氷をゴブリントロールの胴体へ発射させる。


(効いてるのかな……?)


 何十発も放たれた棒状の氷は分厚く硬い皮膚を持っているゴブリントロールに直撃したが与えたダメージは少量だった。


燃やす命テンション】で魔法威力をあげているとはいえ、あまり手応えがないのに腹が立っていた。もしかしたら、場所によってダメージ量が違うのではないのか。考えた私は戦闘中であってもダメージ量の情報集めに試行錯誤する。


 ゴブリントロールは単純な攻撃力も高いので乱暴に武器を振り回すだけでもプレイヤーが受けるダメージも大きい。さらに武器を薙ぎ払いや叩きつけるモーションをしても発生する余波でもダメージを与える能力を持っている。


 何度か棍棒が擦りはしたが薄いけど意外と丈夫な【緑鬼の衣装】装備のおかげで全損しなかった。

 元々、コイツの素材から作った【緑鬼の衣装】装備だから硬い皮膚が引き継がれたと思う。


 私もただダメージを受けるだけでは終わらない。ゴブリントロールは攻撃が粗い。さらに自分の前しか攻撃モーションを出していない。左右は反応が遅いが対応してくる。


 しかし一点のみ。全く反応しない場所がある......背中だ。

 至近距離からのファイヤーボールを放ったが見向きもしないまま直撃した。


 なので、ゴブリントロールの攻略方法は安全圏で背中を狙い撃ちするのが正解かもしれない。

 しかし、私に背中を見せているゴブリントロールは簡単に言えば暴れ馬に近い存在。まずは動きを封じる。私の行動が決まったので早速、始めた。


 まずは打撃しかしていないのであるか不明だが吸魔を発動。攻略法を見つけるために攻撃呪文を多く使用したのでMPを激しく消費していた。残りMP9の段階で全て吸魔に捧げた。

 三回吸魔を受けたゴブリントロールの身体から白いモヤが排出され、私の体内に入る。


「気持ち悪い……」


 いくら自分のMPを回復させるためとはいえ、敵のモノが自分の体内に入り、毎回悪寒がする感覚は慣れない。おかげで半分まで回復に成功した。


 新たに手に入れたMPで吸血を発動。三回分をゴブリントロールに与え、追加で先ほど入手したゴブリンたちが持っていた毒瓶をゴブリントロールの足元に投げた。わずかな水溜まり程度に広がる毒液。そして、瓶の中に入っている毒液が少なかったのかあまり有効ではなかったが私の頭脳が面白い考えは思い付いた。





「水使えばいけるのではないか……」


 試したい気持ちの抑えが出来ず、ウォーターを発動。威力が小さい水鉄砲はゴブリントロールの足元にある毒液と混ざる。薄まるが広範囲に毒液が広がる。


「ついでに……『ポイズン』を」


 私とゴブリントロールの間に水の道が形成されている。威力が弱く範囲も狭い毒攻撃を水の道へ発動した。ポイズンの毒は流水のように流れ、薄まっていた毒液と混ざる。


 大量の毒に侵されたゴブリントロールに最後の火通しをする。


 攻火炎アフ、強勢で魔力攻撃力を高める。


「さよなら、ゴブリンさん!!」


 杖の先端。轟音とともに強化された火焔弾ファイヤーボールが放たれた。

 周囲を焦がす大爆炎がゴブリントロールの身体を呑み込む。



 燃えるゴブリントロールは爆炎の中で、ポリゴンとして爆発した。

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