3章 時へのパスポート:下

第99話 香りエモーション

 ”香り”は起源を辿れば、遥か昔まで遡る。香水やフレグランスなど様々な香りが存在している。


 基本は人間に搭載されている嗅覚で、つまりは鼻でニオイを嗅ぐ事ができる。

 いい匂いもあれば、不快感の匂いもある。香りには多くの種類があり、種類によってはリラックス感や覚醒感がある。

 人は香りを役割ごとに分類できる。区分された香りたちにより、感情にも変化が起きる。香りによって生じる感情の変化が、心理的に影響する。


 生物にはなくてはならない視覚、聴覚の二大巨塔。同様に嗅覚もまた、情緒に対して重要な役割を持っている。

 香りは光や音、その他感覚系の刺激に比べて生物の感情面との結びつきが非常に強い。



 生物には一つ一つ自分を表す香りを持っている。生物にとっては他人の香りを嗅ぐことで幸せになる、嫌悪する。得た情報で価値を評価する生物も存在する。


 リアルでは厄介な事に香りの快・不快をダイレクトに受ける。鼻をつまんでも逃げれない。


 いや、訂正します。逃げれる場所は存在する。それがゲームの中である。

 いくらリアルを追求されたゲームでも諸々の事情で鼻から吸収できる情報を極力カットしているのだろう。

 情報量を少々にしないと不快感が倍増し、楽しむはずのゲームにストレスを感じたりするからだ。


 でも、当然欲しい瞬間はある。


 今の私のように、リアルで精神的に消耗している者は欲しい。


 なので、隣で無尽蔵に幸せ成分マックス香りを噴射してるだろう者の香りを嗅げば、私の心労も改善するかもしれない。



 だから、運営さん。次のアップデートでも修正でもいいのでを嗅ぎたいです。











「ヴァルゴって......どんな香りするのかな?」


 私はヴァルゴの体に抱きつき、嗅いでいた。


「クンクンッ!!」


「あの......お嬢様」


 ヴァルゴの香りならなんだろう?? 候補としては、まずは甘い香りかな。次候補は玲瓏な声だし、爽やかな香りかな? もしくは......


「でも、幸せの香りは外れないかな」


 ヴァルゴの首筋に鼻を当てる。スゥ〜スゥ〜


「く、くすぐったいです......あっ、あっ......おやめ......」


「もぉ〜 小刻みに動かないでよ。嗅げないじゃん。気が散る」


「......な、な、なんで怒るんですか? り、理不尽です!?」


「従者なら主の要望に応えるモノよ!!」


「変態の主の命令は、ちょっと......」


 ヴァルゴを押し倒した。私も倒れ、顔面からヴェルゴの胸力きょうりょくなスイカへダイブした。


「マシュマロの如く柔らかい......スゥ〜ハァ〜」


「ほ、ほんとぉうに......お、おやめ......ください」


「あ゛っ!!」


「すみません......」


「よろしい。では、実食。ハァハァ〜 スゥー〜〜〜〜〜!!」


「あ、あの......ほんとうに。息が荒いですよ!?!?」


「う〜〜ん。やっぱり、無理か。はぁ〜」


「酷くないですか!? なぜ、残念顔を!?」


 やっぱり、嗅ぐことはできなかった。ヴァルゴのスイカ胸ならもしかして、とは考えたが実装されていなかった。

 使ったことはないけど運営にメールでもしてみようかな......


「そうなると戻らないといけないか。でも、今は......」


「どうして、悲しげな顔で私に乗り続けるんですか!?」


「ヴァルゴも無理だった」


 私は視線を変える。


「みんな〜 起きなさい!! また嗅ぐから」


 倒れているアリエス・タウロス・カプリコーンを呼ぶが返事がない。


 ベットから出て、奥にいる従者へ向かう。


「起きなさい!! さぁ!! 私を癒しなさい〜」


 無反応だった。


「だらしないわね!!」


 意識を取り戻した私の従者達。


「ユミナ様......ご勘弁を」


「お嬢、ダメ......です」


「ご主人様......お、お許しください」


 ぐったりしている。


「美人たちの汗は......いいかも!!」


 私のIQはアィキュ〜♡へと低下していた。


 膝をつき、抱きしめる体勢へ


「幸せにして〜〜」




 その時だった。扉が開いた。


「ユミナ様。アイリス様がお呼びです!!」



 ラグーンが現れた。きっと主人であるアイリスの命令で私たちを呼びに来たのだろう。


 息を荒げ、手をくねくね動作をし、従者の香りを嗅ごうと迫る超弩級の変態でもある私、ユミナちゃん。

 涙目で貞操の危機に直面しているアリエス・タウロス・カプリコーン。

 ベットでドキドキが止まらない顔をしているインナー姿のヴァルゴ。


 そして、目が点になったジェミニのメイド、ラグーン。



「............え、ええとー..................」


 静かに扉が閉まる。

 絶叫が聞こえた。たぶん、気のせいだろう。





 一呼吸して、震えている従者たちに目を向けた。


「みんな〜 緊張しないで〜 大丈夫よ、さっきみたいに一瞬よ。さぁ、私の幸せのために匂いをちょ〜だい〜!!」


「「「お断りします!!!!!!!」」」



 一応、言っておきます。夢中になっていただけで通常モードのユミナちゃんは普通の人です。

 突然のセクハラ案件は仕方がない。美人たちの香りを嗅げば、せつなの心と体は穏やかに回復するはず。

 なので、芳香療法を実行するため前へ出る!!



「アイリスが来るまで、延長コースの旅......!!」


 ベットの上で難しい顔をしているヴァルゴ。


「お嬢様は、ときどき......本気のケダモノになるっと記憶しておこう。それにしても、お嬢様の身に何があったのでしょう??」






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