第3話 見た目は身分証明でもある......限度はあるけど

目の前で巨躯モンスターが爆ぜた。生々しい表現はされないので代わりに鮮やかなガラスに似たものたちが光を帯びて散らばっていく。



 薄暗がりの洞窟が明るくなる。

「やっと、終わった!!!」


 私の前方には万歳する軽装備の少女。彼女は先ほどまでいた緑灰色のモンスターでもあるゴブリンがいた場所に向かう。そして、ゴブリンが落としたドロップアイテムをそそくさ回収していた。


「あのさぁ〜 ……」


 こちらに顔を見せてはいないがきっちり反応してくれた。

「何かしら〜 ?」


「そろそろ、ツッコンでもいいかな......」





「ユミナ……敵はいないし、【突進】スキルは魔法使いのユミナには習得は無理だよ。三つ目の街で新たなジョブ追加できる殿って施設があるからそこまで待つことね〜 あぁ、でも修練場に行けば初期ジョブならサブジョブとして手に入るか。でも、あの人厳ついし怖いし……」



【突進】は剣士系統が覚えるスキルで直進に突き進むだけのスキル。動き回るモンスターには有効ではない。主に用途は怯んでいるモンスターに当たることで更に怯ませる時間を増やすことができる。まれに敵モンスターが麻痺状態になるとか……



「いや、別にスキルの話を言いたいんじゃなくて……」


「あぁ!! ドロップ品のこと。大丈夫だよ、ちゃんと分配するから!!」


 今、倒したゴブリンとトロールを融合したような見た目の緑色モンスターが落とす素材は序盤のプレイヤーに大いに役に立つらしい。キャラメイクを終えた私は赤毛の剣士についていく感じで二時間くらい、この天然でできた洞窟にいる。


 お陰で私が必要な分の素材が手に入ったのはありがたい。何分、私はあまりゲームをしてないので右も左もわからない。なので、少々心得があるアクイローネ真凪は頼もしい。




 だが…………



「ちょっと、アクイローネさん……」


 ドロップ品を全て拾い終えたアクイローネに私は近づく。

 私は流麗な桃色の長い髪を靡かせながら、右目は緑色と左目は赤色のオッドアイで睨む。












「なんで……こんな姿にしたぁあああああああああああ!!!!!!!」



 私、弓永ゆみながせつなこと『ユミナ』は新藤真凪しんどうまなこと『アクイローネ』の胸ぐらを掴み、激しく揺らした。



 漸く私からの罰に解放されたアクイローネは女子高生らしからぬ動きを洞窟内で披露していた。例えるなら、何軒もハシゴしている酔っ払いな人たちのような。

 全くもって奇妙な動きを見せる友人が見れて謎の爽快を得た私。



「な、何するのよ……ユミナ」

 頭を抑えながら、その場にしゃがむアクイローネ。


「それはこっちのセリフよ!!! 何なの、この見た目は!?!?!?!??!」


 数時間前に私は真凪に言われるがままゲーム『オニキス・オンライン』を購入。指示通りのキャラメイクを終わらせたせつなは『ユミナ』は自分の分身となるキャラクターを見て驚愕した。


「あれほど、なんとも言えない顔をしたのは初めてだよ」


「よかったじゃん。初体験、おめでとう!!」


 悪びれもしないアクイローネはニヤニヤしながら私の容姿を観察していた。


「良いね〜 ユミナは元々が美少女だから素材は良いのよ。でも、頑なに冒険ファッションをしないから、歯痒かったのよね〜 でも、ついに私に好機が来たって確信したわ」


 自由に自分の分身を作ることができるゲームなら私をいじれると踏んだ悪友アクイローネは私なら絶対に似合うとリアルより少し高い身長と桃色の髪、オッドアイ。極みつけはジョブが魔法使い。


「私は魔女っ子になる予定ないんだけど?」


「人見知り攻略のためなんだから、リアルとほぼ同じだと周りも見向きしない。だからこそ人を惹きつけることができる容姿が必要なのだよ、ユミナ君〜〜!!」


 指を向けるな、指すな。そして、そのニヤケ面、鎮めろ……





 アクイローネが何かを発見し、安堵していた。

「……やっと出た!? さてと、素材を集め終わったし戻りますか」

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