第16話 蠱惑な妖精ちゃん〜

 二振りの短剣で邪魔な木々を切り払いながら走る。


「待ってよ!!!!」


 前方に飛んでいる妖精に呼びかけをするが一向に速度を緩めない。


「ユミナ様」


「ごめんって。だって仕方がないじゃん」


「これからは見ず知らずに相手との会話を鍛えた方がいいですね」


「説教は、あの妖精を捕まえたらね」


 振り向き、手のひらを私たちに向ける。


「来るなぁあ!!」


 雷鳴が聞こえた。凄まじい破裂音が轟き、ジグザクと鋭い形状へ変化しながら一直線に伸びる。


「『ジブヌーリ』」


 私とアリエスの前に薄い黄色の膜が出現。雷攻撃を防いでくれた。


 アリエスの防御魔法、『ジブヌーリ』。アリエスの保有する魔法はほとんどが回復系統と防御系統。


 回復魔法は『イヌーレ』、『スーリエ』、『テラス』、『ソフィーア』の四つ。


 残りが全て防御魔法となっている。


 魔法での攻撃魔法は『エリミカス』と『マニフィーカ』らしい。


 構成だけ見れば完全なる支援型のアリエス。だから、アリエスと一緒に戦闘する時は魔術師の私が必然的に前に出ることになる。


 仮に私を突破し、後方にいるアリエスに攻撃しようとするモンスターとかがいてもアリエスの凶悪拳スキルで一発爆散してしまう。


 話が脱線したけど、多くの防御魔法を有しているアリエス。謎の妖精からの雷撃攻撃も簡単に防いでくれた。


「ありがとう、アリエス!!」


「いきなり攻撃とは関心しませんね」


 アリエスの瞳は木と木の間を器用に飛んでいる妖精を睨み始める。


「わかっていると思うけど、殺さないでよ」


「心得ています」







 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「力加減を間違えないようにしない」


 翅を摘む。妖精との逃走劇に時間をかける必要性はないので『覇銀の襟飾ヴァイセ・エーゲン』を使った。


 もがく妖精。


「逃げる動作やめないと、翅もぐわよ」


 電池が切れた人形みたいに大人しくなった妖精さん。


「で、私に何かようなの?」


 ようやく会話が始まる。


「私はユミナ。隣にいるのが従者のアリエス。貴女のお名前は?」


「私は......フェーネ」


「急に驚かしてごめんえ、フェーネ」


 翅を掴むのをやめ、私達は研究所へ向かう。



 ......

 ............

 ........................



「で、気づいたら絶海の孤島に来たってわけ」


 私とアリエスに起きた体験を話し終え、フェーネの口が開く。


「事情はわかった。にしても、偶然だね。実は私も大波に巻き込まれてこの島に来たんだ」


 なんと、同じ境遇でしたか。


「フェーネは私達とは違い、空を飛べるから脱出は容易じゃないの?」


 私の疑問に苦笑いをするフェーネ。


「初めは即、飛ぼうっとしていたんだけど......無理だった」


 フェーネの話では、今いる無人島を覆うようにバリアが張られているらしい。


 砂浜から飛んで一定の地点までは飛行できるがそれ以降はバリアに阻まれて脱出は困難。


 我慢して水中を泳ぐ手段もとったらしいが......


「変な魚類モンスター達に行手を邪魔されてね。お手上げだったの」


 フェーネ自身も私達と遭遇したのは幸運だったと。


 いつ脱出できるかわからない状況下での活路。


 さすがにいきなり現れた事には行天したので無我夢中で逃げていた、ここまではお互いの身に起きた経緯。


「脱出は無理っぽいか......」


「実はな、一つだけあるんだ」


 フェーネが出したのは薄い板。


 明らかにフェーネよりも大きい薄い板。


 妖精の体は神秘だっと思考してしまった私。


「それは?」


「ユミナ達が向かっている研究所に入るためのアイテムよ」


 渡りに船とはこのことかもしれない。


「入れるならどうして、脱出しないの?」


 難しい顔をするフェーネ。


「おっかないんだ、あの研究所は」


 フェーネの指差す方角にそびえる白き建物。


「何度か入ろうとしたんだが、侵入者を迎撃する罠だらけなんだ」


 なんで、無人なのに罠なんて搭載する必要があるんだ。いや、もしかしたら......研究所に保管されている物体を外部に漏れないようにするためなのか。


「一人では、危険だけど......ユミナ達と一緒に入ればいけるかもしれない。どうです、ここは手を組みませんか」


 フェーネからの提案。


「アタシ達を肉壁にするつもりじゃないですか、ユミナ様」


「あっ、アリエスも思った」


「お〜い。二人とも、何変なこと言ってるんだ」


「いやね、この会話も罠に可能性が......」


「......お前達、今までどんな生活をしてきたんだ。100%は言い過ぎだが、少しは信頼してもいいと思うぞ」


「まぁ、背に腹はかえられぬってことかな」


「なんか仕方がないって顔をされたんだが......それじゃあ」


 フェーネは自分の首に魔法をかけた。


 細い首輪がフェーネの首周りに出現した。


 紫色の紋章は電光掲示板の様に行ったり来たり首輪を移動している。


「それは?」


「『蠱惑の天性ハイチャーム』って魔法でな」


「『蠱惑の天性ハイチャーム』?」


「感覚を強制的に繋げる魔法だね」

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