第61話 ユミナ様とお食事!? ユミナ様とお風呂!? いえ、初めは......ユミナ様と

「息ができる。これ、幸せのひととき」


 息を吸って、深く吐く。体に空気が巡る感覚。生きているって証拠。ゲーム内なのに、自分はちゃんと生命として活動できている。不思議な気分だ。

 

 数分前の自分が抜け出せない地獄にいたことなんて頭から消去した。そう、決してされ、された事実は存在しない。



カプリコーンはを見上げ、アクエリアスに解説した。


「イモナちゃんって、バカなの」


「良い機会です。覚えておいた方がいいですよ、アクエリアス。ご主人様は墓穴を掘るのが最もお得意の方なのです。常にご主人様の体を狙っている我々従者はご主人様のミスをいち早く察知し、行動を起こさないと遅れるのです」


「脳内に無駄な知識を入れないと決めているの。だから、カプちゃんのどうでもいいイモナちゃん雑学はいらない......。本当に何故、惚れているのか分からないんだけど。集団催眠されていないよね?」


 で盟友たちを心から心配しているアクエリアス。


 アクエリアスさん。私もわかりません。そして......なんか、すみません。


 やれやれポーズを取るヴァルゴ。


「アクエリアス、貴女にはお嬢様の美しさが分からないのですか。”美”を追い求めている者なのに......目が節穴なのではないのですか?」


 肌が妙にツヤがでて、しているが気のせいだろう。何もなかった、これ大事。


「ヴァルゴは余程、イモナちゃんにご執心なのはこの数十分で嫌ってほど理解した。呆れしかないから、特に何も言わない。言ったら、こっちの正気が削れるからね」


 私はを見上げた。


「ねぇ、アクエリアス」


「何よ、いやらしいイモナちゃん?」



 声を荒げてしまった。



「やめろっ!!! 今のアクエリアスで私のことを言うと面倒なことになるのよ」



 今のアクエリアスは、ヴェラの部屋にいた時の身長ではない。海底都市でであったままの状態。つまり、巨大な人魚姫。

 そして、私たちが歩いているのはカジノ会場を出た、街中。


 時間はもうすぐ夕方になる。だから、プレイヤーのログイン率が増えていってる。

 だからなのか、余計に目立っている。前から非常に目立っている私たち。ここにきて、巨大人魚が街の上空を移動している。正体不明の巨大人魚は、何者かは周りのプレイヤーは考え出す。でも、ある一点だけはプレイヤーたちは理解している。


「また、私の従者ってことで拡散されるだろうな〜」


「なんで、イモナちゃんの従者に私がなっているのよ!? 意味が分からない」


「仕方がないじゃん。私と喋っているんだから」


「なんて不名誉な。あのね、言っておくけど、私はヴァルゴたちがイモナちゃんを求愛している理由を探るために行動を共にしているだけで決して、イモナちゃんの軍門に降ってないわ。勘違いしないでよ」


 それ、なんてツンデレ。


「はいはい。アクエリアスはそのままでいてよ。一人でも別枠が欲しいから」


 アクエリアスが即、求めてくる星霊じゃなくて実は嬉しい自分がいる。アシリアさんが私の想像を超えるヤバいNPCに認定されたことで、私の癒しが誰もいない。そこへ現れたアクエリアス。大事にしないと。いつまた狂人星霊が誕生するか分からない。



 説明しよう!


 狂人星霊たちの特性は、隙ならば私の寝込みを襲ったり、キスしたり、胸を揉んだり、尻を揉みしだくなど、だ。

 私に嫌らしい秘め事をするのに命を賭けている。

 

 その都度、お仕置きを与えている。






「う〜ん」


 目を細め、手を傘にして遠くを見るアクエリアス。


「どうしたの?」


「なんか、もの凄い勢いで走ってくる者がいるんだけど」


 周囲がざわつく。私も目線を正面に向ける。本当だ、何者かがこちら目がけて走ってくる。

 きっとカジノをやりたすぎるプレイヤーなのだろう。にしても、中々な装備。錫杖を持ちながら全力疾走。

 高貴な神官服。隣にいるアリエスと同等のレベルな衣装......? 長い髪にブロンド、緑色の瞳は狂気を逸した目つき。例えるなら、獲物を発見した捕食者の眼。あれに襲われたら、誰だって一発ケイオーだな。


 うん、私の知り合い。NPCやプレイヤーには該当する存在はいない。いないよね......。一人だけ全ての条件に一致している人物がいる。でも、ここは彼女のホームではない。イベントは当分ないのは攻略サイトを確認済。だから、巡礼はないはず......。だから、目の前で走っている聖女はきっとアシリアさんの次の聖女なのだろう......?


(聖女って、現役で働いているの何人いるんだろう?)





「ユミナ様ぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」






 可愛らしい声を全力でボリュームを上げている。聞き覚えのある声。うん、私の癒し......。


 満面の笑みを浮かべるアシリアさん。声に反応し、ブロンド美少女が全力で駆けている姿に周囲のプレイヤーやNPCが釘付け。


 当のアシリアさんは、恥を捨て、周囲の反応を無視し、生涯の伴侶の元へ。私が硬直しているのを確認して私にダイブしてきた。


 微かにスキルを発動した形跡を察知した。足にバフを与える系を踏んでいる。躊躇いもなく飛び込み。状況は異なるが初めてヴァルゴと出会ったと似ている。あの時と違うのはヴァルゴは下から。アシリアさんは弾丸の如く私へ向かっている点。


(これ、逃げれないやつだ)


 アシリアさんは私の胸に顔を埋める。対して私はバランスを崩し、後ろへ。聖女に傷を負わすとそれはそれで面倒ごとが増える。何より、女の子に傷をつけては女が廃るってもの。なので、抱き抱えながら、回転する私とアシリアさん。


 威力がなくなった回転体の私とアシリアさんは地面に倒れ込む。



「久しぶり、アシリアさん」


 私の上で四つん這いになっているアシリアさんの呼吸は乱れている。

 疾走してなのか別の要因なのか分からない。


「お久しぶりです、ユミナ様。、到着しました♡♡」


「ひぃ」


 悲鳴を洩らし、身をすくめたい気持ちでいっぱい。だが、逃げ場はない。


「私たちの”愛の巣”にご招待します」


「..................はい」


 私のゲームプレイは今日も別ルートを歩むのだった。






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