第61話 パンドラの箱って言うより棺だよね

 体は問題なく動かせる。

 バットステータスを受け続けると倦怠感みたいな動きをアバターにまで反映されるとは。




「今度は......水晶ドクロ。売れるわね」


「お嬢様......お顔が気持ち悪いですよ」


 こんな可愛くてプリティーな顔を気持ち悪いですって!! そりゃあ、ヴァルゴみたいな強者にしか許されない顔を持っている人たちに比べれば私の作った......


 アクイローネの指示か。ともかくミジンコでもやる時はやるのよって......変な方向へ思考してしまっていた。


 まぁ、ヴァルゴが哀れんだ表情をしてしまうのは分からんでもないけど、だって、水晶だよ。こんな透き通るようなアイテム、高値で売れない方がおかしいってものよ。


 街に戻ったら、早速換金作業に入らないと。お金の使い道は......初めはタウロスにかな。


 私が提案したゲームでタウロスに防具類を生産してもらうことになっているが、お金が必要らしい。

 腕はあるタウロスなのでそれなりの額を揃えないといけな

 い。


 そのためにはこの地下室にある物をなんとしても根こそぎ回収しなくては。古びたシャツに煤だらけのスカーフ。血がこべりついている靴とかもあった。なんとヴァーラエティーにとんだ品物なのかしら。未知の物への興奮、呪物だったかもと不安が半々の期待。





 それにしても不思議な場所。ホラーゲームの洋館で、しかも地下室となるとより陰湿な罠やいやらしい強敵モンスターが蔓延っていると思っていたけどそうでもなかった。


 罠は何もなく、出現するモンスターもお馴染みのお化けたち。上にいたモンスターよりかは守る姿勢で向かってきたが、防御しかしていないので対応は楽だった。両手に盾はないと思ったが盾の防御力が貧弱耐久値しかなかったので問題なく地下室を探索できる。


「やっぱり......二色ヤロウがレアだったってことなのかな」


 アリエスと一緒に戦った抹楯の悪霊ダーク・スピリットはまあまあの強敵だった。剣から放つ斬撃は当たったモノ全てを呪いの状態異常にしてしまう性能。盾の方は見た目に反せず高い防御力を持っていた。飛ぶ呪いは私とアリエスに直撃しても安全に行動ができていた。


 結果的に両手に持っていた武器防具が強くて本体の抹竪の悪霊ダーク・スピリットは簡単にダメージを与えれる敵だった。









 それなりに広く長い地下室を歩いていたが、足を止めた。仰々しい扉があった。装飾もかなり凝っていて100%お城の標準装備の方がしっくりくる。絶対にこんなお化けパニックハウスには似つかない不自然でしかない真紅扉の前に中世の甲冑騎士のような見た目のモンスターが待ち構えていた。


 私は隣にいるヴァルゴを見た。キョトンとした顔を浮かべるヴァルゴを一旦無視する。ヴァルゴもまたは騎士となっている。


 もしかしたらヴァルゴも馬に乗っていたのかもしれない。優雅に乗馬しているヴァルゴを見たいが生憎私と出会ってから頭がお花畑になっているのでギャップ変化で私自身がどうにかなってしまう。


 何故こんなことをそう考えてしまうのは目の前にいるお化け騎士が馬に跨っていたからだ。お化け騎士は穏やかな雰囲気で馬は気性が荒いのか今にも私たちに向かう勢いだった。

 あんな凶暴な馬の蹴りを喰らうのは避けつつ隙をついて攻撃していくしかない。






 私たちが武器を構ると同時に敵が動き出す。


 騎士から繰り出される槍での突き。ヴァルゴは彼岸の星剣ノヴァ・ブラッド赫岸の星劍デモニック・ステラで騎士の槍攻撃をクロスして防御した。


 三つの得物がぶつかり合い金属音と花火が生まれる。


 つば迫り合いをしているヴァルゴとお化け騎士......名前は赫血の霊騎士ランスロット。どこかの円卓の騎士たちの一人と同じ名前だった。


 暴れ馬は頭だけ動かし被っている馬専用の甲冑でヴァルゴに頭突きをしてきた。ヴァルゴもまたランスを弾き、迫る馬の額に足を置き、後方へ体を反らしながらジャンプした。


 暴れ馬こと宮血騎団の急馬は、敵をふっ飛ばした筈が逆に自分が発生させたエネルギーを利用して後ろにふっ飛び最小限のダメージだけに留めたことに更に暴れていた。





 赫血の霊騎士ランスロットが槍を頭上に掲げると、上から血の雨が降ってきた。こちらの動きを制限するための行動なのだろうが悪手だ。


 ヴァルゴが持っている彼岸の星剣ノヴァ・ブラッド赫岸の星劍デモニック・ステラはあらゆる生物の血を吸うことで攻撃力が増す効果を有している。


 本来は元のヴァルゴの姿に合わせた武器効果。長きに渡り戦闘に明け暮れた弊害なのか元の姿でいると身体中から血が流れているようになった。そのままでは戦闘に支障をきたすと言うことで吸血鬼族に製作して貰ったのが今のヴァルゴの武器らしい。


 スキルなしで永遠に威力を上げれる性能を持っている武器とは従者ながら怖いものを感じる。




 ヴァルゴにヘイトが向いている隙に赫血の霊騎士ランスロットの真上に雷魔法『サンダー』を発動。頭上から落ちてきた落雷が直撃。煙が立ちこみ麻痺による怯みも発生。



「......双天打ちヴィンデミア!」


 ヴァルゴの剣から刃状の斬撃が幾重にも飛び出し、騎士と馬へ。

 麻痺状態にある赫血の霊騎士ランスロットと宮血騎団の急馬は行動速度が低下しているためヴァルゴの【双天打ちヴィンデミア】が直撃。


 双天打ちヴィンデミアは攻撃が一回当たる度に続く斬撃攻撃の倍率が上がる。


 身についていてる鎧がボロボロになっていく。破壊され防御力が低下している隙に魔法攻撃力に補正がかかるスキル類を多重に使用。お馴染みのスキルたちなので息を吸うように当たり前の行動を取った。


「『ハリケーン』」


 敵の位置に竜巻を発生させれる風魔法の『ハリケーン』。

 渦の中と地下室ということで低い天井が相まって思うように身動きが取れず脱出は困難な騎士と馬。未だヴァルゴのスキルが発動中ということで嵐の中に斬撃まで加わる。


 回避したくても怯んでいるので出来ない。例え、回避できたとしても竜巻の中では何もできない。自分が今、どの位置にいるのかも赫血の霊騎士ランスロットたちは把握できていない。


 上下左右斜め、あらゆる方向から飛んでくる倍増し続ける攻撃にダメージを受けていく。



 敵に少しだけ同情してしまう気持ちを押し殺して、無防備な赫血の霊騎士ランスロットへ私は『ファイディ』をヴァルゴは跳躍してわざわざ嵐の中へ侵入した。大丈夫なのでそのまま撃ってくださいと言う目をしていた。


「行くわよ!!」


 狙う位置を確認して【加速する弾丸イグナイト・バレット】でより正確に放たれた業炎の玉も嵐へ入る。



 渦の中でもヴァルゴは軽やかに移動していた。空中移動を可能にする【ムーンホッパー】と加速補正がかかる【ライトニング】によってジギザグに上へ登る。そこまで上があるわけでもないが威力を高めるために敢えての行動。


 地下室の天井に足を置く。辛うじてヴァルゴの存在を認識した赫血の霊騎士ランスロットは持っている槍をヴァルゴ目掛けて投擲しようとするが外から現れた火の弾が体に当たる。それにより、攻撃のモーションもキャンセルとなった。ユミナの攻撃が直撃したことでヴァルゴに笑みが生まれ、自身の体を真下へ跳ばした。



「【絶劍(スピカ】......」


 彼岸の星剣ノヴァ・ブラッド赫岸の星劍デモニック・ステラを重ねて一つの剣として構え、赫血の霊騎士ランスロットと宮血騎団の急馬は巨大な剣に刺されながら、地面へ叩きつけられた。クレーターとなった地下室の床。穴が開かないかヒヤヒヤしていたけどその心配も要らなかった。







「ヤッター!! レベルが”5”も上がった」


 伸びている赫血の霊騎士ランスロットと宮血騎団の急馬はポリゴン状になり、爆散した。報酬として得た経験値でレベルも上昇。私はあくまでヴァルゴのサポートしかしていないので経験値などを貰っても良いのかと考える時もある。決めたのもヴァルゴだし、私一人だけでは倒せていないだろう。ヴァルゴを守れるのはまだまだ先ってことなのかな。


「お疲れ様、ヴァルゴ」


「倒せて良かったです、ユミナ様」


 二人で倒した赫血の霊騎士ランスロットたちから落ちた素材を回収していた。それにしても上にいるお化けだけだと油断していると足元を掬われそうだ。


 この敵モンスターの名称にやたら赤。それも血を連想してしまいそうなものばかり。暴れ馬の名称は当て字として考えると”宮血騎”は多分、”キュウケツキ”と読めてしまう。

 ”キュウケツキ”なんて言葉が当てはまるのなんて私が知る限り、一つしかない。


「行きますか、ユミナ様」


 仮説は証明してこそ意味がある。

 ドアノブもまた豪華な仕様。触れるのが憚れるが楽しみでもある。



「いざ、扉の向こうへ!!」









 真紅の部屋だった。壁から床に至るまで全てが黒色を帯びた赤色一色となっていた。薄暗くてぼんやるとしか見えないが奥にはベットかな?


 目を凝らすとベットの正体は天蓋付きカーテンのキングサイズベットが置かれていた。独創的なベッドカーテンのデザインは、プリンセス的なファンタジーを満たすためのアートワークになり、優雅さの雰囲気を作り出ている。ロマンチックな寝室の装飾でこのベッドの天蓋をぶら下げて、部屋にロマンスと優雅さが際立つ。ベットととある物たち以外は赤いのでなんとも異質な空間。



「私も女王なんだし、これくらいのベットがあってもいんだろうけど」


 ベットよりもまずは自分だけのマイホームが必要になるか。クイーンさんが持っているセーブハウスアイテム。もしも中をカスタマイズできるのなら、行けるか。そのためにはまずは......って今は目の前の状況が最優先事項。


「ねぇ、ヴァルゴ。あれって......もしかして」


「はい、もしかしてですね」


 ベット以外にも物がある。ただ、その......普通に生活していたら絶対にお目にかかれない道具? かはおいといて。それらは存在していた。。


 部屋の中心に一つ。壁に二つ立てかけられていた。


「だから......叫の洋館だったんだね」











 真っ黒な棺が三つもあって、謎の恐怖を感じる私であった。



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