第62話 アイリス・イニティウム・シルヴァ・ティマンドラ・ルーナ

 棺の中身を確認する前に上にいるみんなを招集した。決して道連れではない。もしも棺を開けた瞬間に中にいるかもしれない奴らがアクティブモードになり即戦闘になれば数は圧倒的にこちらに分がある。


「さてと......どうする?」


 私の質問にみんなは頭を抱えていた。


「どうするって......ユミナが開けなよ」


「いやよ、何が起きるか判明しない以上迂闊には開けれないわ」


「ならば、私が人柱になろう」


「それはやめておいた方が......何もクイーンさんが体を張る必要はありません」


「しかし、だな......」


「ヴァルゴかアリエスの『ウラニア』に突っ込めばいいんじゃねえか」


「今から指輪を破壊するから......ヴァルゴよろしくね」


「まぁ、私は問題ありませんが......お嬢様に後で怒られますよ、アリエス」


「そもそも、これ。持ち上げれるのか」


 立てかけられている黒い棺は持ち上げることで移動可能。問題は床に置かれている棺だ。


「おっ!! 上がるぜ」


 持てるなら......それにこんな狭い場所で開封するより、広い場所で開けた方が何かと有利かもしれない。


「あっ!?」


 タウロスは指が滑ったのか持ち上げていた棺がひっくり帰りながら落ちた。

 どんだけ掃除していないのか床に付着していた大量のホコリ舞い、顔にかかる。


「もぉ......タウロス」


ワリワリい、お嬢」


 元の位置に戻そうと棺を持った瞬間————————


『誰じゃあ』


 棺の中から白い腕が抜き出てきた。声質から女性と判明する。同時に私の腕を掴まれ、小さい口が開く。歯が牙みたい......? あっ、もしかして......


「妾の眠りを妨げた罰じゃ」



「......えっ!?」


『いただきます!』


 変な語尾の奴に腕を噛みつかれた。

 HPが徐々に減少していく。棺の隙間から覗いていたのは、私のHPを栄養源として目が赤く光る謎の女性。

 掴まれている白い肌が若干だが生気を取り戻したかのような色合いになっていく。






「「「離れろぉおおおおおおおおお!!!!!!」」」





 三本の足。それぞれ利き足なのだろう。空を切り、棺を勢いよく蹴ったのはヴァルゴ、アリエス、タウロス。

 怒りを露わにしながら蹴ったことで棺は回転した。そのまま部屋を縦横無尽に跳弾のように跳び続ける。本来なら木製の棺なのですぐに壊れると思っていたが耐久力があるのか傷一つ付いていない。


 やっと跳ぶのを終了した棺から......銀髪の少女が方向感覚がバグる時に見せる歩行をしていた。

 泡を吹きながら大の字で倒れたボロボロの服を着ていた少女を見下ろす姿勢を取る星霊三人。


 噛まれた箇所に黒い煙みたいなエフェクトが発生していた。攻撃扱いだったのか噛まれていなくても私のHPがじわじわ減っていく。アリエスから発生するダメージ量に比べれば微々たるもの。アリエスの場合は対処法があるが、謎の少女に噛みつかれた箇所に対して回復魔法でどうにかなるか不安だったけど、問題なく黒い煙は消えた。念のために『清浄なる世界へヴィム・エブリエント』で私の体を清いままの姿にした。


「三人とも......私は大丈夫だから。その圧を解除して」


 これ、三人とも聞いていないな......確信が持ててしまうのは付き合いがアクイローネとクイーンさんより長いからだと思う。眉間に皺をよせ、絶対に人に見せてはいけない顔を出している三人。女の人が怒ると怖いのは同性でもある私が一番分かる。でも、間近でしかも美女・美少女で構成されているハイクオリティな容姿の星霊族が怒り顔になると怒られてもいない筈なのに涙が出てきそう。


「アタイが落ちしてしまったのが原因だ。だが、それとこれは関係ない。コイツ......バラすか」


「バラすと少しの時間しか苦痛を味わえないでしょう。ここはじっくり長い時間をかけて生きていたことを後悔させます」


「まずはお嬢様を噛みついた不逞な牙でも全部抜きますか」


 ヴァルゴは彼岸の星剣ノヴァ・ブラッド赫岸の星劍デモニック・ステラを、タウロスとアリエスは製造の金槌ビルド・アップ星光の祝杖ウィンディメイを出さず、拳をポキポキ鳴らしていた。タウロスの場合は武器カテゴリーとはいえ、鍛治に使用する製造の金槌ビルド・アップを処刑の道具として使いたくないのかもしれない。それはアリエスも同様なのだと思う。それにアリエスの場合は拳系統スキルなのか物騒な名称のスキルを持っている。【剛腕の巨人デストラクション】は見たことがあるけど、【会心のクリティカル鉄拳フィスト】はまだ見せて貰っていない。どういう性能なのか確認したい気持ちはあるが......


 私は三人の前に出て、謎の少女を庇う。


「ストップ。三人とも......」


「退いてくれ、お嬢」


「アタシの愛しているお方に牙を剥く奴を生かしておけません」


「昔は昔。今は全力でお嬢様をお守りすると誓っています」


 噛まれた腕を見せて傷もなければ体に異常をないことを証明した。


「だから、私は無事だし。なんともないから」


「そういう問題ではありません」


 三人が一歩ずつ近づいてくる。押さえても後退する私の体。

 ヴァルゴには効いたが二人が効くかは賭けだ。女を見せろ、ユミナ!!





「止まって、ね!」


 必殺潤んだ瞳で静止させる作戦。良しっ! 怯んだな、追撃じゃあ!!

 ヴァルゴの武器を一つ手から離す。

 武器を持っていないアリエスとタウロスの手をヴァルゴの手に引き寄せ、両手で覆い被せる。


 三人に艶っぽく囁く。

「こんなことで貴女たちの手が汚れるのを望んでいないわ」


「「「............」」」


「三人とも私の言うことを聞かないと......嫌いになるわ」

 そっぽを向く私を見て、脱力マックス状態へ生まれ変わった星霊三人。


「「「やめます!!!」」」


 悪巧み成功の笑みを浮かべ、言うことを聞いてくれた報酬としてむぎゅーっと抱きつく。


「ありがとう————————っ!」




 三人の顔が真っ赤になる。涙を流す者もいた、


「お嬢の目がキラキラしている......なんかクるぜ」


「これが”愛”なんですね。愛して良かった」


「私が愚かでした。大好きです、お嬢様」



 私たちの光景を目撃したアクイローネとクイーンさんはポカンとしていた。


「私たちは何を見させられているんだ、あのユミナが口説いている」


「これがユミナの技。恐ろしい子......これは流石にヴェインに言えないな。アイツ、あんな恥ずかしい言葉......口が裂けても無視だし」




(作戦成功......ヴァルゴ含めてチョロくて良かったわ。さてと......)



「私の従者が失礼したわね」


「『従者」って、貴女も王族か何かなのかじゃ?」


 無理がありそうな語尾には戸惑うけど、こういうキャラだと決めつけ話を進める。


「王族ではないですが......一応、女王をやっています」


 嘘は言っていない。星刻の錫杖アストロ・ワンドを装備すれば強制的に【星霜せいそうの女王】が職業として組み込まれる。例え女王らしかぬ行動を取ったとしても肩書きが女王と公式認定されているので決して嘘は言っていない。後ろで私からの満面の笑みでノックアウトしていた星霊三人が嘘はよくないって顔をしているが無視する。人は時として都合の良いことだけを心に留めておく生き物である。


「『貴女も』ってことは?」


 怯え切っている女の子が立ち上がる。


「妾はアイリス・イニティウム・シルヴァ・ティマンドラ・ルーナ。吸血鬼族の女王じゃ!!」


 なるほど......女王としては先輩って訳か。しかし、こんな地下室で寝ていることから何かしらあるかもしれない。

 関わりたくないと関わりたいが半々の気持ち。さて、どうしたものか。


「吸血鬼って......初めて見た」


「私も初めてだ」


 アクイローネとクイーンさんの言葉を聞いて驚いた。

「そうなの?」


「そうだね、中盤の街では見たことがない」


「同じく、最前線でも見たことがない。文献での記載はあるが、実物は今回が初」


 銀髪に赤眼、アニメや漫画などで登場するヴァンパイアの特徴がモロ出ている。更に小さい見た目で一人称が”妾”。語尾に”じゃ”を使い老婆みたい。これはかなりマニアックな性癖を持っている人にはささると思う。予想だけど......



 次なる行動を考えているとヴァルゴがアイリス・イニティ......覚えきれない。”アイリス”って呼ぼう。身長差があるのでヴァルゴが見下ろす形でお互いがお互いを見ていた。


「もしかして......アイリスですか?」


 ヴァンパイアのアイリスが目を細め、じっーとヴァルゴを凝視する。首を傾け、悩むこと数秒間。

 目が見開く。驚き、信じられない顔で壁に背中が当たるまで後退していた。


「貴女......ヴァルゴなの?」


「どうして…………ここに」


 なんと突然現れたヴァンパイアのアイリスは癖のあるキャラでヴァルゴの知り合いらしい。

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