第22話 極黒炎よ、燃やせ

薄暗い。が、暗視でも敵を視覚できるスキル、『ヴィジョン・スコープ』を発動したことで迷いなく接近できる。



『ヴィジョン・スコープ』で見る限り、皮膚がないモンスターは目がない。


 図体がでかい分、小回りは効かない。


 その点、私はデカい巨体は持ち合わせていないが、怪物の体を隙間をすり抜け、攻撃ができる。


 振り下ろされた爪を青色の短剣で弾く。追撃の爪に足を乗せ、体の軌道を変え、回避する。


 壁に足を置く。


「キューちゃん!!」


 私の音声に反応した妖狐。九つの尻尾の先端に禍々しい火の玉を生み出す。


 放出された黒炎に体を変える怪物。

 見えなくても感じることはできる。自分がいる場所に僅かに風が変化している。


 その隙に、壁を踏みつけ、怪物へ駆けた。


 怪物の体は燃える。もがき苦しみを見せる怪物の前足右側を切断した。


「まずは、一本!!」


 床に落ちる前足はミイラの如く、乾涸びていた。

 敵が生物で助かったと安堵する。



 タウロスが製作してくれた婥約水月剣プルウィア・カリバーは、カレッタと一緒に採取した魔雨の花シャクヤクと武器生成に適した魔石を組み合わせた短剣型の双剣。


 二振りの刀身の背にはくぼみ部分がある、晴天の澄んだ空のような鮮やかな青色が特徴の婥約水月剣プルウィア・カリバーは、斬った者の内部の水分を奪う能力がある。


 元々、雨を吸収して咲く魔雨の花シャクヤクを素材にしているので、そのまま引き継いだ。


 水分を吸収することで婥約水月剣プルウィア・カリバーは蒼く輝くと同時に威力も上昇する。


 今は地下空間にいる。


 外で、しかも雨の状態で婥約水月剣プルウィア・カリバーを使い続ければ、限定的な無限攻撃力を得られる。


 生憎、地下にいるのでその真価は発揮されたのが残念。



 壁から壁へ交差移動すれば、怪物はダルマ状態になり頭部を破壊して終了が私の作戦だった。


「えっ!?」


 HPが七割削られる。背後にある壁には二つの線。壁は大きく抉られ、中にある配線が外へ出てきた。


 どうやら、正体不明の怪物はキューちゃんの【祟呪たたりび】と相性がいいのか。


 むき出しになっている筋肉が焼けていた。


 今尚、もがいている。でも、壁に切ったのは私が切断した前足右側は。


「再生持ち......」


 元の筋肉がむき出しになっている前足が生えている。


 ニヤリッ!


 さっきの魚類達はそれほど、耐久力がなかったのか即座に倒された。


 でも、再生能力を有している怪物。


 今度戦う敵に同じ能力がいるかもしれない想定を込めて、口約束した封印を解除する。


「キューちゃん。 譲渡変化ギフト!!」


 走り出す妖狐は黒炎を纏い、婥約水月剣プルウィア・カリバーへ入る。


 譲渡変化ギフトの発動条件は、武具が魔法素材でできているか。


 婥約水月剣プルウィア・カリバーは魔法石と呼ばれる鉱石で、同じ色を持つ魔法を浴びせれば石のレベルが上がる代物。


 ただの魔法石と水魔法を長時間浴びた魔法石の違いは完成された武具の耐久力や付属能力が増える。



 鮮やかな青色はなくなり、紅と黒を基調とした色合いの双剣へと変貌した。



 リキャストタイムが終了した加速スキルを即座に使用。急速に発進した私の体に怪物の体が追いつかない。


 胴体部分に詰め寄り、双剣を振り切った。怪物の中身がさらにむき出しになる。斬られた箇所から赤いエフェクトが出現。


「『五月雨連撃』発動」


 剣系統スキル、『五月雨連撃』。名前の通り、剣攻撃を放つことで連撃を可能にする。一度に放たれる攻撃は10HIT。


 スキル解除まで、連撃可能な数は全部で10回。10回目だけが1回目から9回目と違い、クリティカルと威力が上乗せされる効果となっている。


 連撃技スキルだけなら、目の前の盲目グロ怪物は即座に肉体を再生するだろう。


 でも、今の婥約水月剣プルウィア・カリバーは一味違う。


 キューちゃんを 譲渡変化ギフトした結果、婥約水月剣プルウィア・カリバーにも【祟呪たたりび】が付与されている。


 元々、敵の水分を奪う能力を持つ婥約水月剣プルウィア・カリバー


 水分を奪うだけでも強力なのに、追加で消せない怨念の炎が体に刻まれるんだ。


 奪われた水分は即座に回復するがまた奪われる。


 内部から黒い炎が体を蝕むが、削られた部分から速攻で再生。


 そして、また体を蝕む邪悪の焔。再生持ちの敵にはまさに、終わりのない地獄。



 腕、脚が胴体から分離する。


 今までなら胴体から新たな四肢が生えてくるが限界なのか再生されなかった。


 胴体は床に倒れる。


 首を切断。足元に転がる頭部は徐々に溶けていく。


 次第に再生は完全になくなり、怪物は四散した。


 戦闘終了と同時に元の鮮やかな青色へ戻る。


 振り向き、勝利の喜びを分かち合おうとするが——————






「これがユミナか......背後から刺されないよね」


「多分、大丈夫かと。なのでフェーネ。ユミナ様へ、不逞な対応は控えた方がよろしいです」


「わかった。肝に銘じるよ......」


 二人が私を見る顔は今でも頭から離れなかった。

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