第54話 私、処刑されるよ!!
「ユミナ、君はあたしの命の恩人だ。だからこんな事は言いたくない。何処のまわし者だ。
よくよく考えれば、ユミナたちが海底都市にいること事態、おかしい。
あたしたちは都市を抜けた海棲人の協力を得て、人間のままでも海底都市に来れた魔法を付与して貰って漸く到着したんだ。
だが、君たちは違う。
見た目は高価な装備をしているが、海中を生身で移動したとは思えない。どうなんだ?」
「————まず、初めに。私はただの冒険者。隣の牢屋にいるのは私の従者たち。
この海底都市:アトランティスに来たのは仕事の依頼です。
依頼主はヴェラ・モヘング。
依頼内容は…………その、なんと言いますか」
依頼内容を話さないもんだから、ミランダの眉間が険しい。
素直に言ってもいいのだが、従者の恥を他人に教えてしまう。どうしたもんか......
カプリコーンは私の沈黙が分かったのか、口を開いた。
「ご主人様、言えばいいのです。それに、いい機会ですから第三者のミランダ様にもご指摘をいただきましょう」
「どういう意味だ?」
「......わかったよ、カプリコーン。ミランダ、依頼内容は、ヴェラ・モヘングが経営しているカジノで大損した分のお金集めと会場に置かれていた建造物やヴェラのコレクションの代わりを回収するため」
「ユミナは、そんなに不幸体質なのか。でも、そうか。こんな場所に囚われているんだから、仕方がないな」
やめて、謎の納得感を出さないで。これじゃあ、まるで私が哀れな人みたいじゃない……
「私は何も損はしていないの。大損したのは……私の従者なの」
「............!!?」
口が開っきぱなしのミランダ。こうなったら、開いた口を閉じさせないぞ。
「建造物やヴェラのコレクションを破壊したのは……別の従者なの。
いうなら、私は二人の従者の尻拭いをしているって訳。
情報収集をした中で、近くに海底都市があることがわかったの。
深海でも移動できる手段があったから、いざ、ゴォー!!
着いた早々、捕まってここにいる。で、合っているよね……カプリコーン」
「申し訳ありません、ご主人様。私の同胞が不甲斐ないばかりに、主のお手を煩わせてしまって。
ミランダ様にもご教授いただき、あのバカどもに裁きの鉄槌を下さなくては……はぁ〜」
「あはは……ミランダ?」
「どうかしましたか、ご主人様?」
「ミランダ……目と口を開いたまま動かないんだけど」
「呆れたんでしょう。全く……アイツらときたら。いつかヤルと思っていました」
「そんなに言わなくても……今頃、ヴァルゴに
ミランダを見ていると、徐々に人形から人になっていくが如く生気が蘇る。瞬きを数回したのち、私を視界に捉えたミランダ。
「あぁ、すまない。ユミナも従者に苦労しているんだな。あたしと一緒だな……こんな事を言えた義理ではないが、ドンマイ」
「ありがとうございます? お金の方は何とか工面できるんのですが。問題は……」
「カジノ会場内に置いても大丈夫な品物か。
ヴェラは目も良いからな。
良い物と悪い物の区別はちゃんとできる……あたしも昔は……いや、何でもない」
ミランダの一言で、さらに品定めをしないといけないのが判明した。ヴェラは品物の鑑定も一流。目に映る物を回収して査定しても価値がつかない物ばかりと判断されれば、時間だけが過ぎるだけで無駄な行動。
「しかも期限が明日のお昼までなんです。それまでにあの真っ赤な水晶玉:フェニキシアンと同じ価値の物を……って、ミランダ?」
大きな水晶玉のフェニキシアンの名前を言った時からミランダの顔は、下を向いていた。暗く気分が沈んだ表情。
「そうか……壊れたんだな。フェニキシアンが……」
「ミランダはフェニキシアンを知っているんですか?」
自分の口に手を突っ込むミランダ。外れる音がした後、突っ込んだ手を外に出した。手のひらに乗っていたのは歯と同じ形状に加工された真っ赤な石だった。
「これだけは、奪われないように隠していたんだ」
「えっ!? 石が……」
さっきまで、歯と同じ形だったフェニキシアンが、独りでに動き始めた。延べ棒になったり、四角になったりと様々な形状に変化していく。そして、最後は
「不思議だろ。これは亡き父から譲り受けた物なんだ。
周りの物と同じ形になる特性を持つんだ。流石に巨大な物は無理でな。
元の大きさがビー玉だから、同じ小さい物限定だけど……」
「……ごめんなさい。そんな大切な物を壊してしまって……」
「本来は、壊れることがないんだが。何かの拍子に効果が切れたんだろう。
ユミナが気にすることではないよ。物にだって寿命はある。フェニキシアンが壊れたのは天命だ」
「ありがとうございます。うん? 」
『譲り受けた物』?
『元の大きさがビー玉』?
『本来、壊れることがない』?
何か引っ掛かる。私がヴェラの机で見たのは、壊れた大きな水晶玉だった物。
壊れたのが原因で周りの物と同じ形状になる特性は無くなったと考えられるのはまぁーそんな仕様なんだろうと納得がいく。
いや、簡単に納得しては行けない気がする。仮にヴェラの持っていたのが大きな水晶玉なら、会場内にある他のコレクションと同じ形状に勝手に変形しているはず。
それに、ミランダが話した内容が真実であるなら、なぜそんな貴重な物をカジノ会場内に設置したんだ。
「怒ってはいたが、涙を流していなかった……」
私の中である答えが出た。なら、私がこんな場所にいる意味がない。
「確かめないと」
「えっ!?」
準備運動をした。座りっぱなしだったからね。アバターだから、関係ないか……
「ミランダ。私は今すぐにでもヴェラの元に行く。貴方はどうする?」
「あたしは……」
「会えるのに会わないのは、会えなくなった時に初めて後悔する。
だから————————もう一度、家族に会ってから、死に場所を考えてとも遅くはないよ」
差し出した手をミランダは掴む。
「..................そうだな。後悔のない人生を送るよ」
「良しっ!! そうと決まれば、脱出よ」
再び、牢屋内を歩き回った。何処かに秘密の抜け道とかボロい箇所はないのか徹底的に探した。
「ないか……うーん、どうしよう」
「無駄に硬いからな、この鉄格子も壁も……」
「手持ちのスキルや魔法も重い制約かけられているし、私を殺したいのか」
「ご主人様、気を確かに……死んでは何も手に入りませんよ」
「わかっているけど……魔法もダメ、スキルも使えない。今の私って
あるじゃん、脱出する方法。一歩間違えたら終わりの策が。
「決めました!!」
胸を張り、私はみんなに宣言した。
「————————私、処刑されるよ!!」
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