第88話 山羊は休息し、色眼鏡はクリティカルヒット!
オフィュキュースは星霊でありながら、ヴァルゴたちを石化した裏切り者。
一ヶ月前に、現聖女であるアシリアさんを誘拐し、廃墟と化したディラオド城で私とヴァルゴはオフィュキュースと対決した。ヴァルゴの正体を知ったのもディラオド城だった。最後は私がオフィュキュースを刺して、朽ち果てた。
そう、もうオニキス・オンラインには存在していない。なのに......
「相変わらず、間抜けな顔で安心したわ!!」
空中に浮かぶ本。開きっぱなしの本は
開きっぱなしの本の中心に
「生きていたわね......」
「おわぁ〜お!! 怖い怖い。ほら、スマイル、スマイル!! それしか取り柄がないんだから。小娘ちゃんは〜」
今のオフィュキュースは最初にあった老婆姿でもなく【接触禁止(メデューサ)】で変化したラミアのような蛇女姿でもなく、教会で再会した20代後半の見た目だった。
「今更、何? また私たちの邪魔をするの?」
「う〜〜ん。それも面白いけど、生憎、この姿では喋るしかできないんだ〜 ごめんね☆」
「じゃあ......なんで」
「この図書館はね。魔力に満ちているの。魔法で作られた物には少なからず魔力がある。この本とかね!!」
「いつの間に......」
オフィュキュースの下にある本。見覚えがあると思ったら、私が果てるオフィュキュースから貰った本だった。
「ユミナちゃ〜んに渡した本は、私が魔法学園で作った本なんだ〜 活性化したんだね、文字に刻まれた私の残留思念がこうして具現化されるくらいに」
「じゃあ......」
「勿論、覚えているわよ。ユミナちゃ〜んに倒されたことも、本を渡す瞬間に残った魔力を注いだからね〜 それにしても......」
オフィュキュースは私が持っている『
「うんうん。随分成長したね〜
「それはどうも。どっかの蛇女さんから熱い洗礼を受けたんでね。強くならないといけないから」
「でも、魔法は弱い......だから魔法学園に来たのか〜」
「そうよ、”魔術師”になってみんなを守れる存在になる!!」
「熱いね〜 熱血はほどほどがいいのよ〜 だるくなるし〜」
「今ここでアナタを燃やすこともできる」
「やめといた方がいいわよ」
「何、命乞い?」
「いや、大図書館で魔法を使えば身を滅ぼすわよ。特に魔法を碌にできない今のユミナちゃんでは」
「どういうこと?」
「言ったでしょう! このヴィクトール大図書館は魔力で満ちているってね。本に刻んだ私の魔力まで活性化して、私が霊体擬きとして復活したようにね。私は超優秀だから制御できている。でも、未熟なヒナドリのユミナちゃんは制御できるだけの器が完成していない。不安定な状態で魔法を使用すれば......何かしら? 私の美貌に惚れた?」
「誰がアンタの美貌に惚れるかっ!? いや、饒舌だな〜って」
「言ったでしょう! 『アンタを見てると危なっかしい』ってね。知恵を授けてあげているのよ、感謝しなさい!!」
「はいはい、感謝感謝」
「めっちゃ適当〜〜!!」
本と睨み合う人生は早々、ない経験。いや、こんな経験しても大して意味がない。
金属が落ちる音が聞こえた。
私とオフィュキュースは視線を変える。
向いた方向には......体を震わせているカプリコーンがいた。大図書館に入れたことから扉からの攻撃はなかったということ。
「どうして......お前がここにいる」
一度落ちた『
カプリコーンの瞳は鋭く、オフィュキュースを射抜く。
地面を駆け、レイピアを構えていた。
「待ってぇええ!!」
即座に『
視認がやっとのスピード。ほぼ勘でパリィしたが上手く動けた。
「なぜ庇うのですか......ご主人様」
「落ち着いて、カプリコーン」
「私は落ち着いています。もう一度質問します。なぜ庇うのですか......」
「カプリコーンが攻撃しても無駄だからよ」
「『無駄』」
「半透明の存在を突くのは不可能。今のオフィュキュースは本に残った残留思念が具現化した姿。いわば過去の存在。話したよね、本物のオフィュキュースは私が倒したって。いったん冷静になりなさい、カプリコーン」
『
大きく息を吸い、吐く。
「お見苦しい姿をお見せてしまい申し訳ありませんでした、ご主人様」
深々とお辞儀をしたカプリコーン。
「城に戻りましょう!!」
私は空中に浮く本を掴む。
黙って本を閉じた。
みんなを呼び、ヴィクトール魔法学園の大図書館の出来事を説明した。
「しぶといですね」
真っ先に口を開いたのはヴァルゴだった。
ヴァルゴだけがオフィュキュースの本体の最後を見た。
「二人はどう?」
私はタウロスとアリエスに質問する。
「上手く言葉が出ない、お嬢」
「アタシもタウロスと同じです......ユミナ様」
「そっか」
三角座りをしているカプリコーンに視線を向けた。
「落ち着いた、カプリコーン?」
「先ほどは、ご主人様に無礼を......」
カプリコーンの頭に手を置き、優しく撫でる。
「私は大丈夫。今はカプリコーンのことが心配」
「だ、大丈夫......いえ、まだダメです」
「わかった、ありがとう。当面はヴァルゴが私と魔法学園に行くってことで」
「かしこまりました、お嬢様」
「みんなは休息。いいわね!」
「「「わかりました」」」
ミマホシの雑貨屋の扉が開いた。買い物袋を抱えながら外に出た私。
「クエストに表示された薬の材料はこれで全部かな」
ウィンドウに表示されている魔法薬に必要な材料の個数を確認しながら歩き始める。
「あとは......コドラの心臓?」
心筋薬のリスト
・チョウチンチョウの鱗粉×3
・ペルトカゲの尻尾×5
・ニンニクヘッジの針×2
・アサアサガオの種子×4
・グリーンコドラの心臓×1
「コドラと言ってもトカゲの上位種か......」
「何軒か入りましたがありませんでしたね」
隣にいるヴァルゴに買い物袋を手渡した。受け取ったヴァルゴは『ウラニアの指輪』へ素材が入っている袋を収納した。
「まさかの別のクエストで収集かな。それとも......レア道具屋がどこかにあるとか」
道具屋でもほぼ専門店。コウモリだけ、トカゲだけ、スライムだけ、ヘビだけ。一種類だけを扱っているが品揃いは豊富。クエストに必要な素材はすぐ集まるから楽だけど、店を転々としないといけないのが少々、めんどい。
「修羅な学園だけど、プレイヤーの数は多いな」
すれ違う者の割合はプレイヤーが八割、NPCが二割だった。
ヴァルゴと一緒に武器屋に入る。ないとは思うが念のためにNPCの従業員に聞くことにした。
『さすがにウチには、コドラの心臓は売ってないわ』
「どこにあるか......わかる?」
『そうだね。裏通りにある店なら或いは』
「そうですか、ありがとうございます」
『悪いことは言わないから。やめたほうがいいわ』
魔法使いの道具や装備を購入できるエリア『魔法使いの集い場』。裏通りに進むと『魔法の暗場』と呼ばれる場所が存在する。通常では手に入らないアイテムが揃っている。限定品や一定周期で出現するNPCからレアな素材を購入できるエリアが『魔法の暗場』である。
「でも、怖いな」
サングラスをクイっとする、ヴァルゴ。
「ゴロツキは私が対処しましょう!!」
「ありがとう、その時が来たら
「......そうですね、ユミナ様!!」
「それにしても......」
「はい?」
「サングラス、似合うわね......タウロスに作ってもらって正解なんだけど......」
『
他人から見えなくなる性能で、ほとんど『
サングラスをとり、裸眼で私を見るヴァルゴ。
「お顔......真っ赤ですよ!」
「い、いや、これは......!?」
「最近は、ユミナ様に弄ばれていましたから。久々の勝利です!!」
「や、やめてよ。あと、腰に手を置かないで......は、恥ずかしい」
「今さら、これでドキドキしている? なるほど、カプリコーンの言葉もあながち間違いではないか」
「は、離してよ」
「私はユミナ様の従者です。カプリコーンたちも心配ですが、私はまずユミナ様を
「従者なら側にいてくれるだけで十分だよ。バレてた......んだ」
「ユミナ様は優しいです。でも、抱え込むのは悪手です」
「私を慰めるために......」
「本当はキスでもして落ち着かせようとしましたが」
「人が多い場所で何するつもりよ!?」
「............顔は
「か、勘違いよ......くぅぅぅ」
「そうですか♪」
公衆の面前で幸福感満載の風景に当てられ、周囲のプレイヤーやNPCが次々、倒れていく。
女性は目がハートマークになっているが気のせいだろう......
災害の跡地とかした『魔法使いの集い場』。ヴィクトール魔法学園にまた噂が一つ追加された。
『魔法使いの集い場に、イケメン女性騎士と魔法使いの少女、甘々デート』
噂なの?
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