第43話 愛に、タイミングはいらない。伝えたら勝ちなのだから

『殺す、クソ賢者ぁぁああ!!』


「ぎゃあー......来るな!!!!!」


 本を小さいドラゴンが追っている図。なんか、可愛い。


 大図書館に向かう道中にドランに聞いたが、どうやら私だけを狙ったのは私の身体に付着していたケンバーの魔力に反応して、攻撃してきた。大図書館に長いこといた結果が......こんな厄災を招くとは。まー、結果的にドラゴンと契約したからよしとしますか。



『貴様のせいで何百年も封印される羽目になったんだ!!!!』


「お前が私の邪魔をしたからだろうが!!!!」


「ねぇ、ケンバー」


 私に呼ばれたケンバー。その隙に、本を殴るドラン。


 ケンバー本は天高く飛び、書棚に激突。床に落ちていく多くの書物。


『獲ったぜ。今日は気分がいい。ユミナ、これをやろう』


 ドランがテーブルに出したのは......表紙が消え、全体がズタボロの黒色の五冊の本だった。



 不気味さと怪しげさしかなかった。

「えっ、遠慮します」


『何故だ?』


「触るのが怖い」


 ため息をするドラン。ミニ龍になっても可愛くない。


 陰湿なオーラを放つ黒一色の本たちに向かったのはケンバー。


「やっぱり、お前が倒していたか......トカゲ」


『もう一度、戦えて心が震えたぞ』


「ねぇ、ケンバー。この本って......」


「ユミナが倒すはずだった魔獣、五匹」


「はぁ!? ちょっと、ドラン!?」


 ドランとケンバーの話をまとめると、ケンバーが封印するはずだった魔獣の何体かを横取りしたのがドラン。自分がやるはずだった仕事を奪われた生前のケンバーは怒り、ドランを魔獣と一緒に封印したとか。で、私がクエスト開始した瞬間に、封印された魔獣とドランが解き放たれた。ドランは倒した好敵手達が再び、蘇ったことに舞い上がり再決闘、再封印した後に、私と遭遇した。そして、今に至るらしい。


「ユミナと契約しているんだ。問題なかろう」


「んな、バカな......」


 そう思い、《魔獣リスト》を確認する。未発見だった魔術本が新たなに五冊追加されていた。五冊とも、名称が一部バグっているのか見えない。使い魔とし召喚はできない。召喚できないから譲渡変化ギフトも使用できない。


 詰んでいる。でも、ちゃんと私が討伐したことになっている。クエスト未達成にはならないのが唯一の救いでもある。


 怪しげな五冊の魔術本を素早くストレージに入れた。


「にしても......」


 私は視界に映る光景にため息しか出ない。


 復活? したケンバーを切り刻もうと躍起になるドラン。ドランから生命の危機を感じ、猛スピードで飛翔するケンバー。ヴァルゴとレオは一触即発。カプリコーンとアリエスは自分の胸に手は置いて、何やら話し合っている。顔に全く幸福はないけど......


 カレッタは今、授業中。タウロスは工房へ引き篭もり状態。つまり、仲裁係が誰一人としていない空間が出来上がっている。



「癒しが欲しい......」


 いつの間に私の周りは荒くれ者しかいない。もうねぇ、武闘家しかいないよ。戦闘民族ですかって思えてくるよ。


 えっ!? 私? 私はいいのよ。お淑やかに過ごし、時にはマジで戦うやる時はやる人だから!!

 毎日、血気盛んな人ではない。ここ大事......


 テーブルでうなだれ、想うのは金髪の聖女だった。


「アシリアさん.......会いたいな〜」


 アシリアさんは、本当にいい子だよ。まさに天使!! 行動一つ一つが可愛くて仕方がない。

 うん。やっぱり癒し系は清純派一択。アシリアさんに会ったらまずは抱きつこう。アシリアさん成分を補給すれば、魔王だって、素手で倒せる気がする......


「うん? クイーン?」


 クイーンからのメール。クイーンは私と冒険した後、そのまま「サングリエ」に戻って行った。

 ログアウトしたら、ちゃんと話し合わないと。




「えっと、何......何......はぁああああああああああ!!!!!!!!!!!」




 私の絶叫にみんなが反応する。


「どうかしましたか、お嬢様」


「ヴァルゴ......アシリアさんが」


 神妙な面持ちのヴァルゴ。


「アシリアの身に何かありましたか?」






「いや、その......私と結婚するらしい」




 ハニワみたいな顔面になるヴァルゴ。レア度が高い絵だ、スクショっと。じゃなくて......


「お嬢様、もう一回言ってください。誰が誰と何するらしいですか」


 自分の手をこねくり動かし、前にいるヴァルゴへ真実を語った。


「だから、アシリアさんが......結婚するのよ。しかも」


 私はヴァルゴにクイーンのメールを見せた。


「私と......」



 ヴァルゴは倒れた。口から泡を吹き、白目をむいている。体は金縛りの如く動かない。






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ユミナへ


「サングリエ」で聖女アシリアが宣言した。


『冒険者ユミナ様と結婚致します』っと。





 後で、恋人会議しよう......


             親愛なるクイーンより


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜













 私、どこへ引きこもればいいですか?































 教会内の音は一つしかなかった。


「ふふん、順調に事が進むとは」


 高貴さと美しさを兼ね備えた純白の神官衣を身にまとう少女は笑っていた。


「聖女様、もう少し声を抑えてください」


 少女を叱るのは、司教のカトレア。


「教皇の顔、傑作でした」


「仮にも聖女の身。そのような事を口に出してはなりません」


 カトレアは周りに目を向ける。


「大丈夫よ、司教。この聖教教会、ひいては『サングリエ』は既に私の手中です。仮に」


 アシリアは振り返す。仰々しい顔をした男性が剣を構えて自分たちへ向かってくる。



 アシリアは持っている錫杖に魔力を込める。飛び出してきた近衛騎士団長の胴体へ錫杖を突き刺す。

 白金色の鎧は粉々になり、近衛騎士団長でもあるデーボックは後方へ吹っ飛ばされていった。



「仮に、私を殺そうとする者がいれば、私自ら対処します。もう......」


 アシリアは笑顔で前を見て歩く。何も出来ない、不甲斐ない自分とはおさらばし、自分から研鑽と構築を重ねた。


「もう、守られるだけの女ではありません」


 準備は完璧です。ユミナ様、貴女を向かいに行きます!!






「どうして、こうなったんでしょう......はぁ~」


 カトレアは、一人、ため息を吐いた。


























 ボルス城、工房。



「リーナ、ありがとな」


 タウロスは工房の端で座り込んでいる吸血鬼のリーナにお礼していた。


「いいわよ、貴女からも血、もらったから」


 タウロスは自分の手を虚空に置いた。はめている指輪が光出す。


「いよいよだ」


 黒い渦が出現する。タウロスは渦に腕を突っ込み、目的の物を探す。


「確か......ここに。おっ!?」


 亜空間から排出されたは、武器として無価値なモノだった。錆びて、何も反応しない。


「たくっ。あのクソ親父が」


 かつて自分に鍛治のイロハを教えた親父から託されたなまくら


「何が、『これをお前に託す。お前が本当に信頼できる奴に渡せ』っだ。クソ親父が修復できなかった武器をアタイができる......わけ」



 鍛治の神でも完璧に修復できなかった武器を中途半端な自分にはできないっと卑屈になるタウロス。でも......



 手に持っている短剣を握る。口角を上げ、ニヤけるタウロス。


「へっ!! やってやるぜ!!!!!! そして、これを託す相手はもう決まっている」


 アタイが心の底から愛しているお嬢へ。


「覚悟しろよ! 【裁紅の短剣】ピュニ・レガ




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