第15話 岩投げの猛攻撃

 咀嚼音が聞こえた。岩を盾にして、音をする方向を見ると......


 うわぁ、私を追いかけるのを辞めて岩の上で餌をバリバリ喰っている。モンスターとはいえ、食べ物を食べている顔はなかなかに強烈だった。美味そうに食べているわね、あのねず公。


 でもね、余裕顔もここまでよ。こっからは私のターン……永続行動一直線よ!!



 星刻の錫杖アストロ・ワンドを地面に突き刺す。突き刺したのは検証の結果で起こした行動。星刻の錫杖アストロ・ワンドのステータス強制強化の数値は装備欄にあれば剥がれることはない。今私の手元にないが装備欄には残っている。戦闘中に一時的武器を戦闘エリア内においても問題なく効果を発揮する。なぜ魔法使いなのに魔法を撃つための媒介としての杖を手から離すのか。答えは簡単。両手で持たないとバランスを崩してしまうモノがあるからだ。


「お返しよ!!」


 星刻の錫杖アストロ・ワンドさんが月エネルギーをもらう前の古びた錫杖。初期装備以下だった時代に私は試しにモンスター相手に杖を投擲していた。散々投擲した結果、得たスキルがある——投げ弾イクイップ・シュートです。


 一応、攻撃系統スキルに分類されている。投げ弾イクイップ・シュートの効果は非常にシンプル。自身の命中率を上昇させるスキル。

 命中率というものは通常100%となっている。でも敵の回避率が高いとかわされてしまう。敵に攻撃を当てるには敵の回避率を低下させるか自分の命中率を上げるしかない。


 生憎現状のユミナの魔法でデバフ、相手のステータスを低下させる魔法は【ポイズマ】・【吸血】・【吸魔】しかない。習得している魔法は敵のHPやMPを減らす効果しかなく、回避率に必要なAGI値を低下させる魔法の類は持っていない。なら答えは簡単。



「投球初心者でもなんとかなるのがゲームなのよっ!!!!!」



 尨大の鼠二世は私の行動を見て攻撃体勢を取っていた。やはり私の行動で食事をやめて迎撃しにきてる。

 でも、遅いんだな〜



 両手で持っている大きな岩。離れている尨大の鼠二世を的にして放物線を描くように山なりに岩を投げた。イメージはサッカーのゴールキーパーがボールを投げる感覚。持っているモノが敵に命中した時、徐々に命中率とダメージ量が上がる。以上が投げ弾イクイップ・シュートの効果。


 熊サイズの大きな岩が空から降ってきた。


「少々、卑怯な手ではあるけど許してね!」


 最高到達点に達した岩たちはそのまま重力という絶対的な真理に則り落下していく。

 速さを得た岩たちは、巨大なネズミに向かう。


 敵さんは落下対策を取っていないのか見事に岩でできた牢獄に収容された。

 岩に阻まれた尨大の鼠二世は次第に動きが制限される。ご自慢の足も狭い空間では発揮できない。


 空中から落下してきた岩たちは地面と接触した瞬間亀裂を生じさせ一部は岩が砕けた。砕けた岩が引き寄せられるように尨大の鼠二世へ向かう。動きを封じられた尨大の鼠二世が鋭い刃物へ変貌した岩に皮膚を抉られる。いくら硬い皮膚を持っていても限度はある。


 皮膚が剥がれた結果で、防御力も低下している尨大の鼠二世。すかさず星刻の錫杖アストロ・ワンドを構え攻撃魔法を発動。


【ウォーター】もまた【アイス】と同じで強化された魔法。名称は【ウォーマー】。水量が増え、水流の威力も上がっている。


 新たに獲得した【攻流水(アウ)】。特定の呪文に対して威力を上げるスキル。水系統の魔法の攻撃力を上げる効果がある。強化された【ウォーマー】は勢いのまま発射され尨大の鼠二世を攻撃した。水浸しになった尨大の鼠二世にすかさず【アイマ】を発動。【攻氷結(アフグ)】も再利用可能となっているので間髪入れずに起動。


 水と氷。全身に水を浴びた尨大の鼠二世は急速に冷やされた。足から胴体。最後には頭まで凍ってしまい氷の彫刻が出来上がる。中にいる尨大の鼠二世は次第に体力を消耗していき、ポリゴンが飛び散った。


 正直、周りに岩たちがなければソロで突破することはできなかった。過程がどうであれ、結果は変わらない。勝利の二文字は揺るがない。


 魔法使いたる者、魔法でトドメを刺すことに使命を感じている。











「お嬢様。すごいキメ顔でガッツポーズしている所、申し訳ないですが……」


「おぉ!! 素材がドロップしている。回収回収……何かしら、ヴァルゴ?」


「もう少しお淑やかに戦闘していただけると助かるのですが」


 開始に見えた草原は今は見る影もない。破壊の限りを尽くされたボスエリア。


「……ごめんなさい」


 真面目な顔、嬉し泣顔。さまざまな表情を見てきたが絶句しているヴァルゴの顔は初めましてだった。



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