第81話 集まれ、奇行の名の元に

 私の攻撃手段はよくいえば遠距離から高火力の魔法を連発が主体。悪くいえば接近攻撃もできず、前に出る勇気もない小心者。ヴァルゴたちがいるから私は後衛に徹すればいい、と考えていた。


 でも、ヴァルゴたちの主である以上、従者だけを前線に出すのはいかがなものだろう。

 そこで私がとった行動はシンプル。自分が前に出ればいい。なんとも脳筋思考だけど、みんなを守れる主になればいいと、割り切った。

 接近戦といえば剣や拳での戦闘。剣は持っている、ならばとタウロスに依頼したのが拳武器に分類された鬼蜂の拳キラー・スティンガー


 黄色と黒色のストライプ模様が彫られているような巨大なグローブ武器。ボクサーがはめているグローブをそのまま巨大化させたような見た目。ザ・近距離武器だった。


 敵を殴れば威力が高い近距離武器でも攻撃範囲が狭い。

 そこで私の戦闘を見ているタウロスはもしものとき遠距離攻撃ができるような仕掛けを施した。

 グローブの外側、手で表現すれば甲部分には細く伸ばされた造形の飾りがある。任意で飾りを敵に向けることで細いが太く、先端が鋭利さを手に入れた。針を辿れば擬態大好きな蜂たち。オオスズメバチを思わせる擬態ミミック・群蜂クラスタービーの針は毒の塗れた針となっている。当然、鬼蜂の拳キラー・スティンガーから発射される針もまた猛毒を持つ針。


 刺されれば最後。非常に危険な飛び道具であり強力な武器でもある。


「ただ飛ばすなんて芸がないわ!!」


 ヨォーギャンの洞窟に着くまでの間に適当なモンスターで試行錯誤をしていた。

 体を左へ横回転しながら、毒針を飛ばす。同時に毒針には毎度お馴染みの螺旋状の乱射ジャイロ・マグナムを付与。一匹のプラーミア・ヂェースャチティースャチャ・スパイダーの胴体に突き刺さった。


 螺旋状の乱射ジャイロ・マグナムは敵に当たった瞬間に発生する余波で周りにいる別の敵を巻き込む。毒針の先端にはわずかに毒液が付いている。毒液は高速回転により飛び散り、周りのプラーミア・ヂェースャチティースャチャ・スパイダーに付着する。


 螺旋状の乱射ジャイロ・マグナムの余波攻撃と毒液攻撃が加わり、体が耐えれなくなったプラーミア・ヂェースャチティースャチャ・スパイダーは次々と爆散していく。


 さらに発射された毒針は毒だけが刺さったプラーミア・ヂェースャチティースャチャ・スパイダーの体内に侵入。蜘蛛なのに別種の毒に侵され、爆散した。


 私のMPを糧に即座に毒針は生えてくる。消費MPはたったの”5”。なんということでしょう、コスパの鬼見参。鬼蜂の拳キラー・スティンガーも鬼が含まれているけど......本当にタウロス様様だね〜


 鬼蜂の拳キラー・スティンガーどうしを垂直に突き合わせた。

「行くわよ!! 小蜘蛛さんたち〜」


 チャージング・アクセルフォースを起動して前に進む。自然と笑みが生まれた。


「【スクリュードライバー】!!」


 四方八方から私に向かってくるプラーミア・ヂェースャチティースャチャ・スパイダーたちを殴り続けた。



「なぁ、クイーン」


「みなまでいうな、ナーデン。ユミナも接近戦ができる証明になったんだから」


「ウエディングベールを被りながら蜘蛛を殴り続けるチャイナドレスの女魔法使い。情報過多なんだけど......」



















「「「ユミナ様......お許しを」」」


 プラーミア・スパイダーとの戦闘がひと段落した私たち。で、なぜか私はクイーンさん以外のニッカ、カトリナ、ナーデンの土下座を見る、奇妙な出来事を経験していた。


「生意気な言葉を言ってすみません、殴らないでください!」


「いや、殴りませんよ」


「毒針を飛ばさないでください。まだ死にたくないです」


「いや、飛ばしませんよ......」


「足技だけは勘弁してください、凹みたくない」


「いや、蹴りませんよ。次、何かいえばフルコースを実行しますけど」


 私の圧で演技をやめて本当に恐怖し始める三人。


「あはは!! 最高!!!!!」


「もおぉぉ、クイーンさん」


「いやぁ、ごめんごめん。それにしてもユミナ、私といた時よりも戦いなれていたな」


「従者の先生のおかげです」


「それにしても......空中で上下逆さまに体を回転しながら小蜘蛛を殴り蹴った時には......さすがの私も度肝を抜いたよ」


「ジャンプって、地面を手で蹴れば判定あるのかなってのが原点ですね」


 独楽のように高速回転しながらの攻撃は良かったけど、視界が非常に悪い。フォーカスアイズがあっても時々、見えないことがあった。敵に命中したのはただの偶然。これが私の運だ、といえばヴァルゴからの熱い説教が始まるけど。


「それにしても......あれだけいたプラーミア・ヂェースャチティースャチャ・スパイダーでも入手した糸が......100個なんて」


「『炎耐撚糸』のドロップ率は低くてね......」


「だがしかし、今の私たちにはユミナ大先生がいらっしゃる。連戦くらい屁でもない」


「蜘蛛の屁という糸に捕まった間抜けな剣士ナーデンがいたっけ〜」


「ニッカ。剣身を研ぐから首くれない。切れ味が回復するから......」


「きゃあ(棒読み)、こわ〜い。にっー......げろ!!」


「首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首」


「何やってるんだアイツらは?」


 私たちは次なるプラーミア・スパイダーが湧くまで休憩を続けた。








『プラーミア・スパイダー』や『プラーミア・ヂェースャチティースャチャ・スパイダー』との戦闘を三回繰り返した。必要個数に達した『炎耐撚糸』。あとは帰るだけだ。


「そういえば、五階層目は何があるんですか?」


「うん? そうだった。ユミナは初めての場所だったね」


「四層は三層の地形と同じ。若干マグマの量が増えるくらい。で、五層だけど......」


「『ヨォーギャンの洞窟』専用のボスモンスターがいるんだ。巨大な燃えるゴーレム」


 専用ボス。『暗然あんぜんの洞窟』にいたトロミシール・ゴブリンと同じ括りかな。


「二層にいたヴゥルカーン・ゴーレムよりも巨大なんですか?」


「もう、それはも〜〜う。巨大なゴーレム。全身はマグマに覆われているクソモン」


「パンチで腕に付いているマグマが飛び散るし」


「マグマが地面に接触すれば、溶けてマグマだまりができる。私たちの行動範囲が制限されるんだ」


「足をジタバタすれば地面が地震並みに揺れるし」


「ドロップ品もそこまで上手くない。『プラーミア・スパイダー』の方が何倍もマシ!!」


「じゃあ、やめようかな〜」


 私たちは階段を上がっていった。



 ヨォーギャンの洞窟の入り口。


「みんな、よろしくね」


『炎耐撚糸』をそのまま船の材料には使えない。加工するには船大工の職業を持つプレイヤーかNPCの職人に頼むしかない。三人の共通のフレンドに船大工の職業をとった変わり者がいるとかで、そのプレイヤーに頼むために三人だけ「サングリエ」へ向かった。


「またね、ユミナ!!」


「楽しかったよ、ユミナ!!」


「クイーン、ちゃんとユミナを送り届けろよ!!」


 三人は集めた『炎耐撚糸』を持って「サングリエ」へ向かった。






「良かったんですか、クイーンさん?」


「うん? 私は顔見知り程度だから、馴染みのある三人がいった方がいいしな」


「そうじゃなくて......どうして、私と一緒に」


「あぁ、いいんだ。私も疲れてね、温泉でも入ろうって」


「クイーンさんが温泉......」


「おかしいか?」


「い、いえ。ただ......絵になるなって」


「そ、そ、そんなこといっても何も出ないぞ、私から。それにユミナには美女の従者が三人もいるじゃないか」


「みんなは別格です。毎日、ため息しか出ませんよ。さっきも......スイカ」


「スイカ? ユミナの従者に勝てる女性はいるのかと思ってしまうよ。ところで......ユミナの方こそよいのか?」


「えっ、何がですか?」


んだろう?」


 クイーンさんの眼差しは私の表情を変えた。


「わ、わかりましたか......」


「『やめようかな』と口では笑ってはいたが顔は違った」


「う〜〜ん。どうせなら、一度くらいは挑んでみたいと思ってしまって」


「行くか?」


「い、いんですか。せっかくの温泉が......」


「な〜に。サウナヨォーギャンで体をととのえてから温泉に入るのもアリだな!!」


「アハハ!! 灼熱エリアをサウナって、いうなんて!!」


 たわいもない会話をして、私たちは並びながらがヨォーギャンの洞窟へと歩き続けた。







⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

そりゃあ、いきなりピンクロングストレートのオッドアイの美少女魔法使いがウェディングベールを被りながら、チャイナドレスで、空中を上下逆さま移動しながら四肢を武器にしてモンスターを殴る・蹴るをやれば、周りのプレイヤーは頭がパンクするよね~

毒針持ちのグローブで殴り、白いハイヒールで蹴る...

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