第9話 新たな閲覧者はなぜ、火照るのか

 「ありがとうね、キューちゃん!!」


 アリエスに腕の中で抱きつかれている妖狐は主に褒められて嬉しそうだった。


 ジェノサイド玉藻ノ前【魔術本:No.4】から召喚されるのは九つの尻尾の白赤狐を模した使い魔。元は《イグニス・アニムス・ウルペース》という巨大なキツネの魔獣だった。

 火炎攻撃と武器などの物理攻撃を無効化できる能力を持っていた。無効化されるのは武器使用時の攻撃だけなので『戰麗アドバンス』モードになって、足技で討伐できた。


 巨大な魔獣からマスコットサイズにまで縮んだが、小型の狐だからと侮ってはいけない。尻尾から放たれる火の玉に触れた者は一定時間、武器やアイテムを使用不可にする能力を有していた。


 火の玉には【祟呪たたりび】を付与させられる。【祟呪】を受けた者は体外に黒炎が生え、死んでからも燃え続けるというおっかない状態異常だ。武器だけではなくアイテムも使用不可になるから解呪もできない。


 黙って黒炎を浴びせられる。護衛にはうってつけ。



 いたたまれない表情のアリエス。


「もしかして......キュウちゃん、やった?」


「はい、アタシに近づく輩が多くて......以前、ユミナ様が話してくれた現聖女のアシリアと双子ですかって息や鼻が荒くて、非常に困りました」


「あはは......ご愁傷様」


「まぁ、キュウのおかげで問題解決は容易でしたので。それに、もしもの時は......」


 拳を握り、怖い笑顔のアリエスだった。仮にキューちゃんがいなくても撃退できたかもしれない。アリエスの拳スキルが凶悪の極みだから......


 その後、主である私に当然、事後の話が伝えられた。キューちゃんの【祟呪】入りの火の玉に当てられたプレイヤーたちは悶えながら女性プレイヤーに袋叩きにあっていたとか......それはまた別のお話。











 爆音が消えた。視線を向けるとビンタ大扉は攻撃を辞め、開きっぱなしの状態だった。

 攻撃する気配は微塵も感じられない。あるのは大図書館に入る許可を得た者への招待だけ。



 自分のことの様に喜んだ私。


「これで、二人目」


 内心、一人でもいいけどっとは思ったが、一人で扱うのは大図書館は広い。

 それに、誰かと一緒に魔法を学べるのは素直に嬉しい。


 立ち上がり、カレッタに近づく。


「おめでとう!!」


 肩で息をし、膝に手を置いているカレッタが私を見つめた。


「ありがとうございます、ユミナ様」


「”様”はやめてよ。ユミナでいい」


 笑顔になるカレッタ。やはりというべきか第一王女の立ち振る舞い。気品に溢れ、人々に幸福をもたらす美しさ。さっきまで激しい戦闘をしていたとは思えない淑やかさ。


 私の顔が少し緩んだのは黙っておこう!!













「............」


 す、すごい圧を感じる。


 振り向くと、ジト目で睨みながら私とカレッタを見ていたアリエス。


「......キ゛ュ、キ゛ューン......」


 キューちゃん、力強く握られている。だ、大丈夫だよね......あとで労おう......



「さぁ!! カレッタ入りましょう!! 歓迎するよ、って私の家じゃないけど〜」


 鼻唄を歌いながらカレッタと大図書館へ入室した。






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