第29話 王女って、変態しかいないの

「ここなら、人も来ないね」


 何度も周囲を見渡し、確認した。

 幽天深綺のファンタズマ魅姫・ドレスから出た妖精フェーネ。


「さぁ、フェーネ。解除して」


「OK!! 契約だし」


 私の手首にフェーネは息を吐いた。


 刻印が徐々に消える。同時にフェーネの首にあった刻印も消滅する。蠱惑の天性ハイチャームが消えた証拠。

 晴れて私は自由人となったが、安心はできない。


「はい、おしまい」


「なんか、普通ね。騙してないよね」


「疑り深いな、ユミナは。そんなに疑うなら、アリエス」


「では、遠慮なく!」


 拳をポキポキ鳴らしているアリエス。本当に聖女時代に何があったのよ、完全に行動が武闘家そのものだけど......


 アリエスの行動に怯えているフェーネ。


「いやいや、軽いチョップでいい」


「ちっ。まぁ、いいでしょう」


「なんで、私......舌打ちされたんだ。いや、これもこれでアリか」


 アリエスの舌打ちと冷酷な目で恍惚とした表情のフェーネ。そうだった、あんな奇妙な体験。よくわからない言葉を言っていたフォンラス・アーテンなど。色々な出来事が重なって忘れていたけど、フェーネって弩級のドMだった。


 アリエスの軽いチョップを喰らい地面に倒れるフェーネ。


「痛そう......」


 フェーネの頭にタンコブができている。変な所に力を入れているよね、このゲーム。


 今までなら、フェーネが受けた痛みはそのまま私も受けるだった。時間が経ってもフェーネが感じた痛みは私に発生しなかった。


「ねぇ、大丈夫? フェーネ......」


「お、」


「『お』?」


「お願い、アリエス!! もっと叩いてぇぇえええ!!!!」


 アリエスの引き顔、この数時間で何回見たことか......


 私の後ろに移動するアリエス。

「ユミナ様、早くみんなのところに行きましょう」


 切実な願いだった。


「そ、それじゃあ、フェーネ。また、会おうね」


「待った」


 ドレスの裾を引っ張るフェーネ。


「何よ......」


「私もユミナの従者になりたい」


「えー......」


「なんでも言うこと聞くわ。ムカついたことがあったら遠慮なく私を殴って。絶対に良い解消物になるから。優良物件だよ、私は〜」


『ダメです』


 第三者の声。


 私とアリエスはハテナマークだけど、フェーネは驚愕一つ。


 虚空から小さい扉が出現した。


「どこに行ったかと思えば......随分、楽しいことをしているようね、フェーネ」


 翅を羽ばたかせ、私の背後に移動したフェーネ。


 扉から出てきたのはフェーネと同じ妖精。綺麗な翅ウェーブのかかった長い緑色の髪に金色のドレスを着た、美しい女性だった。


「嫌だ、帰りたくない」


「どちら様ですか」


「これは失礼しました。私はロベルティーナ。妖精の国ティターニアの女王です。以後お見知りおきを、若き女王よ」


「はじめまして、ユミナと申します。えっと、フェーネとは」


「同じ種族で、親子の関係でございます」


「フェーネ、良かったじゃん。お迎えだよ!」


「絶対に嫌だ」


 なんでそこまで頑なに嫌がるんだ......


「フェーネ。まずは無事で良かったです。貴方が国を出てから百年。もう希望はないと思っていました」


「......フェーネ、あの無人島に百年もいたの!?」


「脱出はできなかったから、ぼーっとしていてね。年数は知らなかったよ~」


「なんか、楽観的だね」


「嫌なことは忘れるに限る」


 ロベルティーナさんが近づく。


「なるほど......」


 うん? 何が『なるほど』なんだ???


「ユミナ様」


「はいっ!!」


「これも何かの縁です。そこのアホの娘をユミナ様の従者に加えていただけますか」


 えっ!? 何、急展開......なんだけど!?!?


「私は......いいですけど」


 私はアリエスに目を向ける。


「......ユミナ様が了承するなら、アタシは従います」


 アリエスの頭に手を置き、撫でる。


「苦労のお詫びに、するよ!!」



 目がキラキラし始めるアリエス。どこか狂的な瞳を宿しながら元気になっていた。


「わかりましたっ!!!!!! フェーネ、よろしくね」


「お、おう......よろしくね、アリエス」


 もしかして......地雷踏んだかもしれない。


「ユミナ様。これを」


 ロベルティーナさんから貰ったのは種と指輪だった。



万物なる宝樹の種子ユニバース・シード

 全ての可能性を掴み取るのは、永劫を超えた先へ。

 妖精女王に認められた証拠。悪しき者が使えば、無知の世界へ到達する。


 植えると即座に巨大な樹が生まれる。木に実るアイテムは使用者が求めるアイテムをランダム生成され、入手できる。

 葉や花も採取可能。巨大な樹は如何なる出来事があっても朽ちることはない。





薔薇襲の荊乙姫ブラック・ローズ

 小さき花は、困難を乗り越え、華開く強さは咲き誇れ。

 妖精女王に認められた証拠。悪しき者が使えば、花は堕ちる。


 花びらが装着者のダメージを肩代わりしてくれる。蓄積ダメージ量に応じて、花びらは装着者を守る巨大な盾となる。




 見た目は普通の種と、真っ赤な花びらの指輪となっている。『薔薇襲の荊乙姫ブラック・ローズ』のリング部分は荊があしらわれている。




「あ、ありがとうございます」


「アホの娘が迷惑したお詫びです。どうかユミナ様の、幸せの一役に役立ててください」


 小さい扉へ帰っていくロベルティーナさん。


「フェーネ」


「な、何......」


「時々でいいから、帰ってきなさい」


 ドアは閉まり、扉が消え去る。


 フェーネと対面する。


「これから、よろしくね」


 私の指にフェーネは口付けをした。


「よろしく、ユミナ!!」


「それじゃあ、家に帰りますか」


「ユミナ様、その前にビーチに向かわないと」


 あっ、そうだった。異空間転送の把手安住の地へを急いで取り出し、ビーチへ向かった。

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