第32話 極寒の地が愛の巣

「なんか、モンスターが怯えてるんだけど」


 ライオンの背に乗っている私は、率直な感想を出した。


「気にするな。ユミナの強さだよ」


 いつもなら、我先に襲ってくる古今道材ここんとうざい古森ふるもりの魔法モンスター達。


「てか、ヴァルゴも乗ったら」


 ヴァルゴはレオの背に乗らず、自分で走っている。


「私の方が疾いので」


「言ってくれるな、勝負だ。ヴァルゴ!!!!!!」


「受けて立ちます!!」


 初めはいつも通り、一斉に攻撃を仕掛けてきたが、レオが体当たりした吹き飛ばしたり、ヴァルゴの斬撃で切り刻まれたりと猛攻した結果、Modは誰も出現しなくなった。



 それなら好都合と、風を感じながら、順調に進んでいく。


「しかし、ユミナを見た奴の顔が驚き一つだったな」


「あれは......多分、レオが原因だよ」


 いきなり、魔法学園にライオンが登場したんだ。しかも主に近づく者に吠え、ひれ伏せていた光景は”すみません”の言葉しか思いつかなかった。


「毛並みふさふさ」


 レオに立髪があるのは何かあるだろうが触っていて気持ちいいから問題ない。


「それで、どこまで行けばいいんだ?」


 そうだった、具体的な目的地教えてなかった。


「向かうのは「シュヴァル」って街、極寒の地らしいよ」


 なんか嫌そうな顔をするレオ。嬉しそうな顔のヴァルゴ。両極端だな、こいつら......


「もしかして、寒いの苦手」


「う〜〜ん。まぁ、ユミナのためだ。腹をくくる」


「いや、そんなに気張らなくても......ちゃんと対策は考えているから」


「なら......問題ねっか。じゃあ、加速するっぜ!!」


「えっ!? きゃあああああ!!!!!!!!」



 私の体はレオのスキルで守られている。レオの速さは進むに連れて、スピードが上がる。美しく綺麗な直線。加速されたレオの地面は抉れていた。巻き込まれたモンスター達はレオが発生させた衝撃波によって大量のポリゴンへ生まれ変わっていった。後方で甚大な被害が出ていることなど知らずに私たちは凍える地へ向かうのだった。



















「寒い」


 強い風が襲いかかる。やまない風の音。雪や氷かけらが視界を奪う。


 雪道を歩く三つの影。先頭は主を吹雪から守るべく、盾として進む。後ろにはフードを深く被り、吹雪が顔にかからないように歩く影が一つ。最後は防寒具を重ね着した結果、歩く洋服の怪物となっている。


 巨躯を縮こませながら、自分よりも一回り小さい少女の後ろを歩いている女性から白い息と吐きながら苦笑していた。


「タウロス......もう少しなんとかならなかったのか」


 体を震わせ、防寒具を作った者の名前を呼びながら願わくば吹雪を完全に防げる防具に改良してくれっと漏らすレオ。外気に触れ、ところどころ小さなつららができているレオの毛。ライオンで進むと、滑る可能性もあると考えたので、人間態に戻ってもらった。


 積雪の中、重くなった足を無理して動かす私たち。


「火魔法が意味をなさないなんて......」


 雪が積もっている、歩くのに邪魔。なら火で雪を溶かし、通りやすい環境を整えればいいのではないのかっと思うかもしれない。しかし、それは叶わない。溶かしても数秒も経つと、火魔法を使う前の道となる。MPの無駄遣い。


 これから入る「シュヴァル」は雪の中に存在する街。オニキス・オンラインにはランダム天候が適用されている。しかし、「シュヴァル」がある地域ではランダム天候は適用されない。


 常時猛吹雪が発生しているからだ。絶え間なく吹き荒れる雪に雨や雷が負けている。そんなおかしな現象はあるのかっと疑問に思うのもごもっとも。しかし、目の前に光景こそが現実。雨が降れば、忽ち凍り、大雨降ってた? っとなる。雷が降れば、雷吸収持ちのモンスターやフィールドに普通に生えているが吸ってしまう。





 だから、「シュヴァル」へ向かうプレイヤーは止むことがない吹雪を防寒具を着て進むしか選択肢がない。


 空一面、灰色。猛烈な雪が降っている。


「お嬢様、もしもの時は私が暖めてあげます」


「ありがたいけど、ヴァルゴが苦しくなるよ」


「何を言ってるんですか、お嬢様に抱きつくことで私の活力は漲り歩くスピードも上がります。なので抱っこしながら歩くなんて私には苦ではありません!!」


「あ、はい。そうですか」


「ユミナ。嫌なら嫌って言うんだぞ」


「そうする」


 通常通りハイテンションのヴァルゴを見て、寒さも吹き飛んだ。

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