第390話 トントゥとサウナとラピン・クルタと

「次の遊戯っててっきりデスゲームかと思ったんだけど、なんかごっつい人がいるわね」

「うむ。神……ではないようであるが」

「格式の高い、ジンだけど」

 

 そこには2メートルくらいのマッチョの緑色の人がいるわ。ゴブリンさん的な感じにしては少し品があるというか、ミカンちゃんが物おじせずにその人の方にむかっていき、じーっと見つめる。

 

「魔物なりにけり?」

「やだもー! ノット魔物! アタシはー! ロウリュウの女神と言われたぁ、サウナの精霊トントゥよ!」

「女神じゃないけど、自分から精霊って言ってるけど」


 トントゥさんはにゅっとケートスさん顔とくっつきそうなくらい顔を近づけて、上から下まで見つめると、

 

「偉そうな物言いだと思ったら海の下位神ケートス様じゃなぁい!」

「貴様も精霊風情が下位神に向かってすぎた言葉遣いだけど?」

「すぐに女神に昇格してあげるわん!」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ!

 

 って音が聞こえそうなくらい睨み合ってるわ。でもこのトントゥさん、どう考えても、

 

「無理ー! マッチョ精霊、男なりにけり! 女神にはなれず! 勇者、悲壮感を隠しきれず!」

「勇者、最近は男だ女だという事にややこしいらしいであるぞ! ニュースでやっていたである。しかし、トントゥ殿が女神になろうとするのであらば、神の領域すら超えし奇跡を持たねばならぬであろうな」

 

 たまーに思うのよね。日本人って本音と建前で生きてきた歴史があるけど、異世界の人ってたまーにそういうのぶっとばして相手の神経逆撫でるのよね。ほら、トントゥさん。茹で蛸みたいにバチキレてるの気づかないかなぁ。ケートスさんに関しては、

 

「ガルルルルル!」

 

 元々サメなんだっけ? 普段とは違ってかなり好戦的だし、

 

「あなた達、本気であたしを怒らせたみたいねぇ? 覚悟は良い? サウナ勝負よん! 好きなサウナウェアとサウナハットを選びなさぁい! サウナゲートオープン!」

 

 突然目の前に扉。

 デスゲームじゃなくて、サウナ勝負なのね。

 

 という事で私たちはサウナウェアに着替えて、トントゥさんが出現させた扉の中に入るとむあっとした、普通より高温のサウナね。

 

「さぁ、始まったわよん!」

 

 トントゥさんは砂時計をひっくり返して我慢くらべの宣言を始めたわ。私はサウナに行く事はあんまりないけど、ミカンちゃんは毎週、従姉妹姪の飛鳥ちゃんとよくスーパー銭湯に行ってるわね。

 デュラさんは……首だけだから部屋のお風呂しか経験がないわね。

 

 それにしても……熱いわね。

 

「ひぃ、ひぃ、はぁはぁ……やばいけど」

 

 ケートスさんは限界っぽいわね。


「あらん? あれだけ言っておいてぇ、もう限界なのぉ?」

「別に……限界じゃないけど」

 

 とはいえ、ケートスさん。もう目が回ってるわ。我慢くらべ中だけど、我慢は身体に悪くないわね。

 

「ケートスさん、外出て水風呂に入ってください」

「大丈……」

「私たちに任せて」

「……任せるけど」

 

 ギィ、と扉を出てそしてざぶんと水風呂にダイブするケートスさんの姿。その表情は気持ち良さそう。

 ゴクリ、なんか私も出ようかしら?

 

「かなりあー、勇者水風呂をしょもー」

「うん、私も」

 

 私とミカンちゃんはざぶんとサウナ後の水風呂に入り生き返ったわ。

 

「気持ちえええええ!」

「うん、速攻でデュラさん一人にしたけど大丈夫かしら?」

 

 1時間以上サウナの中から出てこない二人、そして決着はトートつについたわ。

 

 ガラガラガラ。

 

「デュラさん」

「トントゥさんを水風呂へ」

 

 そう、デュラさんが戻ってきたのよね。サウナでのぼせたトントゥさんを超能力で浮かせて運んできたわ。私たちはトントゥさんを水風呂に入れてあげると、意識が戻ってきた。

 

「負けたわ……サウナの精霊がかたなしね。大悪魔がこんなにサウナに強いだなんて」

「我、魔王様達とよく火山で蒸し風呂を楽しんだものであるからなー!」

 

 火山ってもうサウナとかいうレベルじゃないものね。デュラさんからすればサウナって少し温度と湿度が高い室内くらいなんでしょうね。

 トントゥさんの顔色も戻ってきたところで、なんか飲みたいわね。

 

「水風呂の底に何か沈んでいるあるな? 箱のようであるが」


 私たちがデュラさんから受け取った箱を開けてみると、そこには……海外の缶ビール。

 

「ラピン・クルタね。フィンランドのビールよ。そういえば、サウナもフィンランドが有名だから合うかもしれないわね。というか、このビール。私の部屋の冷蔵庫に入ってたやつでしょ。まぁいいわ。これ、飲みましょうか?トントゥさんもどうぞ」

「あたしも飲んでいいの?」

 

 何を言ってるのかしら?

 

「一緒にサウナを味わった中じゃないですか! じゃあ、サウナ後の最高の一杯に乾杯!」

「乾杯なり!」

「乾杯であるぞ!」

「乾杯だけど!」

 

 トントゥさんはぎこちなくわらって缶を掲げたわ。

 

「かんぱいー」

 

 んっんっん!

 

 私たちは火照った身体に染み渡るビール。ラピン・クルタで満たされる。サウナの後は水、それが一番身体に良いと言われているけど、一番心に良い物は? 

 

 私たちは、サウナの外でこう叫んだ。

 

 うんみゃああああああああああ!


 ビール一強時代はいつまで続くの? 本当に美味しいビールを飲みたかったらサウナに入れとサウナおじさん達が言ってたけど、ある意味至宝の一杯である事は認めざるおえないわね。

 サウナ後だから、回りやすくてもう一杯! とならずにこのラピン・クルタを堪能できるのもポイントが高いわ! 自律神経が整った事で味もよく感じられる気がする。

 

「トントゥさん、伺いたいんですが、これって誰の仕業なんですか?」

 

 私がそう尋ねると、トントゥさんはビールを飲む手を止めて、少し暗い表情でこう言ったわ。

 

「勝利の女神に恨みを持つ者達」

 

 私たちは驚愕する事もなく、あぁ! あぁ……となんとなく今回の黒幕がニケ様にいわれのある恨みを持った誰かなんでしょうねと分かったわ。

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