第75話 お姫様と江崎グリコ・CRATZとハイネケンと
「金糸雀ちゃん、いいですか? 恥を知りなさい!」
「はいごめんなさい」
「勇者もですよ!」
「ごめんかもー」
「デュラハン、貴方もです!」
「うむ、正直大人げなかったであるな」
勇者パーティーのアクさんが残していった結界を玄関に張ったところ、しばらくニケ様が来なくなったんだけど、やはり人間の張る結界ごときニケ様に破れないわけはなかったみたいで、邪神と戦った時の神々が鍛えたとかいう武器で結界をぶった切って入ってきたのよね。そして、事の顛末を聞いてニケ様大激怒。
「別世界から金糸雀ちゃんの部屋に誰かがくるという事はそれは縁なのです!」
いや、別に異世界から誰か来るのは別にいいのよね。実際ニケ様封じをした事でここ数日異世界からの人が誰もやってこない弊害はあったのだけど……口が裂けてもニケ様が煩わしくて結界を貼ったなんて言えないわね。
「今回は私が偶然金糸雀ちゃんと知り合いだったからいいものの! 助けを求めてここに迷い込む者もいるのですよ! その事をしっかり反省してください!」
指を一本立てて前のめりに私達に分かりましたか? 「はい」「はいかも」「うむ」と素直に返事をすると、「分かればそれでいいです!」と女神スマイル。ほんとお酒が回ってなければどこに出しても恥ずかしくない女神様なんだけどなー、いかんせん酒癖が私の知人の中でもトップクラスに悪いのよね。
「ところで本日のごはんは?」
「もう食べちゃいまして、ニケ様に是非こちらを」
「なんですかこれは? かっぷらあめんですか?」
「いえ、カルビーじゃがりこです。是非、お持ち返ってお楽しみください。ははー!」
私とミカンちゃんは土下座で、デュラさんは頭を床につけて直訴。食べた事のない食べ物にニケ様は目を輝かせて、
「是非頂きます! 明日はちゃんと私をまっててくださいよー!」
とか言って帰っていった。ふぅ……ご飯はさっきデリバリーの割引でタダみたいな値段のお弁当を食べたのは事実なのよ。さて、晩酌という時に今のお説教。
「今日はかるーく、ビールにしましょうか? どっと疲れたし」
「さんせいかも」
「うむ、して銘柄は?」
そりゃ、私のフェイバリットよ! 緑色の瓶を三本取り出して、そして栓抜きも用意。そう、オランダのビール。
「今日はハイネケンね!」
エールの国、オランダで作られたラガービール。旧麒麟赤ラベルがなくなってから(新もおいしいけど、苦みと辛味の強かった旧が好きなのよね)は私はこのビールが一番好きね。
「おつまみはなんか……あぁ! 画期的なオツマミお菓子があったわ!」
がちゃり、まさかニケ様? こんなところ見られたらまた怒られるという空気になった時、そこには青を基調とした気品溢れるドレスを来た女性。もとい少女かもしれない。
「お城を抜け出したらこんなところに、使用人のお手洗いかな?」
この異世界の人の私の部屋ディスりいつもなんか凄いわよね。どんだけ土地余ってるのよ。こんな広いお手洗いいらないでしょう。
「あのー。この使用人の便所みたいな広さの部屋に住む家主の犬神金糸雀です。貴女はお姫様ですか?」
「私は、シルヴァニア第三王女のソフィアでありません! そう、村娘のソフィーです」
「うん、そんな恰好の村娘がいたら私移住するわよ。その国の事は知らないけど、ソフィアさんはお姫様なのね? でどうしてこんなところに?」
私はソフィアさんの話を聞いて、心の底からニケ様に叱られた事を反省した。
「どうやら金糸雀さんは私の国の事は知らないようですね。実の姉に命を狙われ、護衛の者もみな途中で襲われ、私も殺されると思ったその時、ここに迷い込んだの」
あの結界が今も生きてたらソフィアさん殺されてたってことね。そんなソフィアさんの話を聞いて、ミカンちゃんとデュラさん登場。
「全くいつの時代も人間は愚か極まりないであるな!」
「勇者ちょっとひくかもー」
「ゆ、勇者様と魔物!」
はいはいはい、いつもの反応ありがとうございます。状況の説明もお手のもの、ここは貴女達の世界とは違うのよ! だからここでは争い事と、女神と名乗る酒乱の立ち入りは禁止。それをソフィアさんは理解してくれると、改めて。
「何かの縁なのかな? 私はあの軍事魔法国家シルヴァニア帝国第三王女、ソフィア・ファミリー・シルヴァニアよ」
なんか国の民、うさぎとかりすとかくまとかいそうね。住んでる家は森の大きなお家みたいな。
「……なんと! あの魔法軍事国家シルヴァニアの姫君とは、げに恐ろしい運命であるな。魔王軍とガチンコで戦える魔道士が大勢いると聞き及んでいる」
「ふふ、デュラハンさん。それは姉上が率いる帝国魔法師団のことね。私はできれば平和に進めたい穏健派。ですがあの国ではそれは異端なのです。戻れば私の処刑は免れないかな?」
それでもソフィアさんはここに匿って欲しいとは一言も言わない。多分、それが国を守る王族という者の宿命なのね。親兄弟でも殺し合うなんて日本の戦国時代でも行われてきた事だし、
でもそれを聞いた涙脆い二人は、
「ゆるさん! 姉に命を狙われり姫が不憫と勇者は知る!」
「うむ。なんの因果で家族兄弟と殺し合う必要があるのか、人間は愚かであるな」
「勇者様、それに……魔王軍なのに優しいデュラハンさん。ありがとうかな。その気持ちだけで十分よ。じゃあ、私は行行きます」
まぁ、そんな話聞いてはいさようならと私が言えるわけないじゃない。
「ちょぉおっと待ったぁ! 今からちょい飲みなんだけどソフィアさんも付き合ってくださいよ。もし、ここが気に入ればいつまででもいてくれていいですから」
「ふふっ、金糸雀さんはきっとこんなところに住んでいるから道士様ね。お優しい言葉ありがとうかな。でもそれはできないよ。私も帝国の姫なんだから、だけど最後の晩餐のお誘いはお受けしますね」
意思は固いみたい。私はそれ以上は引き止められないと、頷いて、ハイネケンを瓶ごと用意した。静かにグラッツをお皿に二袋分ザラザラと入れて、
「私の国では同じ釜の飯を食べればそれは家族兄弟に近しい間柄と言います。ぜひ、ソフィアさんも」
ニッコリと笑うとソフィアさんはハイネケンの瓶を持ってそれを掲げる。
「私の時代でh叶わずとも! 必ず帝国を豊かで戦のない幸せな国になると願って! 乾杯!」
貴賓あるわねぇえええ!
「「「かんぱーい!」」」
「かーーーーーっこれよ!私のフェイバリットビール。ハイネケン。さいっこぉ!」
「ぷはーなの! ちょっとビリビリしてウマーなの!」
「うむ、金糸雀殿はパンチの効いた酒が好みであるな!」
「……これが軍人や民草が飲む麦酒というお酒かな? なんと力強く、そして甘い……美味しい物なのね。麦酒というものも」
えっ? という顔を私たちがする。そして私は瞬時に理解した。私たちの世界は食が飽和しすぎているけど、異世界だとラガービールでも糖度がかなり高いんだ。
「ソフィアさん、いくらでも飲んで! それにビールに一番合うお菓子、グラッツよ! サクサクして美味しいんだから! ほら、ミカンちゃんを見てご覧なさい」
ミカンちゃんは本当に物を美味しそうに食べてくれる。三つほどつまんで口の中にポイと放り込み、ボリボリとしばらく咀嚼。ただでさえ大きい目が見開き、ビールで流し込むと瞳孔が開く。
「うんみゃあああああああああ!!」
「はい、こんな感じね! ミカンちゃんは感受性が強いから脳がイッちゃってるけど、ソフィアさんもきっと気にいるわ」
「で、ではお一つ。手掴みなんて少し悪い事をしているようでワクワクするかな」
なにこの子可愛い。門限を超えて遊ぶお嬢様みたいぢゃん! お嬢様どころかお姫様なんだけど……
「あっ! 塩味の中に、ふんだんにスパイスが使われてあり、味わいの深いパンを揚げているのね! 美味しい! 潰してスープに入れても美味しそうかな」
どうでしょう? 江崎グリコさん、王宮料理のスープに使ってみては? と私が思うくらい王族が食べても豪華な食べ物なのね。日本の駄菓子やばいわね。
「んっ、ふぅ! この瓶のままお酒を飲むなんてはしたなくもときめく飲み方、皆様に合わなければ知れなかったかな。ソフィアはもう思い残す事はありません」
まだいっぱいハイネケンはあるのに、グラッツだってまだ全然、でも楽しい時間を引き延ばしにするとソフィアさんは私たちの別れが辛くなると思ったのね。
ガタン! ミカンちゃんが立ち上がり、デュラさんがハイネケンの瓶を咥えてラッパのみ。
「んっんっんっ、はー! うまいである! 待たれよシルヴァニアの姫、いや……あえてこう言わしてもらうである。我らの呑み友よ!」
「勇者もみすみす呑み友を死地に向かわせないかもー」
「ありがとうございます。でもお二人にはやるべき事があるでしょう? 手出しは無用かな。私の家族の問題だから」
そう言われればもう私たちには何もできない。
でも異世界の二人はそんな事関係ないみたい。
「我は魔王軍、大幹部デュラハンである! 我が、召喚魔獣ヒュドラをソフィア殿に授けるである! この力、一度解き放てば国一つを沈める対勇者用の決戦魔獣である」
えっ、そんなのあげていいの? というかそれ解き放って大丈夫?
「勇者も、ソフィアに伝説のフェニックスブレードをあげるのー! ヒュドラでも勇者の力には慄くの!」
あぁ、めちゃくちゃ沢山ストック持ってる勇者の剣ね。私も一本包丁代わりにもらったわ。骨でもみじん切りにできる優れ物なのよね。
「勇者様、デュラハンさん……」
私もなんかあげた方がいい流れよね……どうしようかしら、兄貴。ごめん今度弁償するわ。
「これ、平和を取り戻した暁にはこのグラスでお酒飲んで! バカラって言ってこっちでは凄い高いグラスなの!」
「金糸雀道士様。ありがとうかな!」
いえいえ、というかなんで私道士なのかしら? 私たちはハイネケンの瓶をかち合わせて飲みながらソフィアさんに勝鬨を伝える。
「さようなら、不思議で優しい私の友人達!」
ソフィアさんはお姫様らしい威風堂々とした佇まいで私の部屋から去って行った。私たちがソフィアさんの事を思い出として懐かしむ頃、邪悪なヒュドラを駆る魔剣使う実の妹が美しい神々が作ったかのようなグラスでワインを飲みながら軍事帝国シルヴァニアをぺんぺん草一本も生えないくらいに壊滅させた話を、元シルヴァニア第一王女という女性から話を聞いたけど、私たちは全力で知らんふりをする事にしたわ。
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