第76話 クラーケンとイカ刺しとキレイ系おっとり女子(日本酒)と
夜のスーパーは半額祭りなのよね。お惣菜だったり、お弁当だったり、そんな中でも私は半額の至宝はお刺身だと思っているわ。割引商品プロの主婦のおば様達を掻い潜り生き残っているお刺身は……
「今日はお刺身です! イカソーメンです! やはりここは日本酒が最高の相棒だから、少し珍しい物を用意しましたー!」
青いボトルに女の子のシルエットが印刷された日本酒のボトル。
「両関酒造のキレイ系おっとり女子でーす!」
キャラメルコーンを食べていたミカンちゃんがポロリとキャラメルコーンを落として放心したような目で私を見つめ、
「かなりあが壊れた……」
「むっ、新手の異世界ジョークかもしれぬぞ」
まぁ、そういう反応してくると思ったわ。
「私の事じゃなくて、日本酒の名前なのよ。姉妹品としてカワイイ系サバサバ女子ってのもあるんだけど、そっちはまた別の機会でね」
ガチャリ。
さぁ、今日は誰かしら?
「こんばんわー! なんだか呼ばれた気がしたので来ちゃった!」
キレイ系おっとり女子が来たわ。そうです。女神のニケ様登場。飲まなければまさにそうなんだけど、飲み出したらキレイ系説教女子に変わるのよね。
「げ! クソ女神なの」
「まぁ! 勇者。女神に向かってなんて口をきくんですか!」
デュラさんは顔を背けて絡まれないようにしてるの賢明ね。これから嫌でも絡まれるんだから今からわざわざ小言を聞かないようにしてる。
「金糸雀ちゃん。本日は何を食べるのかしら?」
「今日はですね。イカソーメンというお刺身です」
「あら! 私、お刺身大好きです!」
お刺身大好きな女神って何よ? 乙姫様? まぁ、お刺身の味も私の家で初めて知ったみたいだけど異世界の人。なまものも普通に食べるのよね。普通の刺身醤油に刻んだネギと大葉におろし生姜を混ぜてつけダレも完成。
イカそうめんの作り方は本当に簡単。イカの胴を引き抜いて骨を取ります。そのあと内臓を取り出して流水でキレイに洗います。イカの三角の部分と胴を引き剥がして皮を剥きます。三角の部分を等間隔に切り分けて、胴を包丁で開いて繊維を断つように切ってあげるとあら不思議! あの柔らかくてつるんとしたイカそうめんの完成よ!
「お待たせー!」
大きなお皿に2杯分のイカそうめんを用意した時、ドンドンと玄関をノック(?)する音が響く。
「ミカンちゃん見てきてー」
「はーい」
50%くらいの確率でミカンちゃん逃げるでしょうね。
「おぉ、イカ!」
「誰がイカよ! どう見てもクラーケンちゃろ?」
嫌な予感がするわ。とても、そうとても嫌な予感。ゆっくりとやってきたのは真っ白で綺麗なお姉さん。そして下半身は完全に触手だらけ、ミカンちゃんの言う通り完全にイカね。でも本人が言うには、あの世界でもトップクラスに有名な海の怪物。
「こんばんわ、この家の家主の犬神金糸雀です」
「女神に勇者に悪魔に人間? 珍しか組み合わしぇやなぁ」
「クラーケンじゃないですかぁ! お久しぶりです!」
わぁ! とか言いながら両手を振るあざとめのニケ様、お知り合いみたい。
「まぁーたアンタ、酒ば飲んで迷惑かけとらんやろね?」
「もう! 私がお酒で誰かに迷惑かけた事なんてありませんよぉ!」
「「「はぁ?」」」
私たちは同時に声を上げてしまった。でもクラーケンさんはとてもまともそう。私は少し安堵して、
「あの、クラーケンさん、良ければ今からお酒飲むんですけど、ご一緒にどうです?」
「酒ね? よかねー! ご一緒したっちゃよかか?」
「えぇ、もちろん。つまらない物ですが……あっ!」
「つまらない物?」
私はイカそうめんを見てそう言った。イカ=つまらない物、イカ=クラーケンととした時、クラーケン=何になるか、証明せよ!
答えはクラーケン=つまらない物。その場合、クラーケンさんの表情が、
「ひぇ! ごめんなさい! 違うんです違うんです!」
「あはは、金糸雀ちゃんは面白か娘ちゃね? ウチとイカは別もんばい!」
「そ、そうですかじゃあ日本酒を開けますね」
私はみんなのグイ呑みにキレイ系おっとり女子をあけてみんなに注いでいく。その時、気づいたの。ミカンちゃんの霊圧が……消えた。
要するにとんずらしたわね。まぁ、吉野家あたりにでもいるでしょ。
「じゃあ、本日は二人の美人に乾杯!」
「「乾杯!」」
「金糸雀ちゃんも美人ばい! はい、乾杯!」
いやぁ、美人に美人って言われるとなんか照れるなぁ、でへへ。にしてもさ! キレイ系おっとり女子、甘めで後味はゆっくりと無くなるのね。イメージを意識した味づくりってほんと、日本酒って奥が深いわね。どちらかといえば日本酒もクセ強めの辛口が好きなんだけど、こういうフルーティーなのも全然悪くない。
「うまか! なんねこのお酒!」
「伝説の海底の王クラーケン、酒の味が分かるであるな。香りも味も主張しすぎず、されどその存在感は口の中で広がるである。我も数種類しか飲んだ事はないが日本酒という特異なワインの味わいであるな」
「悪魔やのにようしっちょるねぇ!」
「あらあら、本当に口に甘いですねぇ」
乾杯が終われば、おつまみのイカそうめんを私はみんなに食べ方をレクチャーする。食べ方って言ってもタレにつけて食べるだけなんだけど、
「お好みでツマの大根や山葵をちょっとのせて食べてみてください。つるんと、イカの味わいがある間に、キレイ系おっとり女子を追っかけてあげると! んんっ! たまらん」
つるんと食べられるのにねっとりとした食感がもうね。という事で異世界の皆さんの反応を聞いてみましょうか、
「うむ。美味いである! 物の良さ以外にも鮮度を殺さぬように金糸雀殿が素早く仕上げた事も美味さの秘訣であるな。冷えた日本酒がイカと喧嘩せずに入ってくるである」
モニュモニュと食べて、クイっと日本酒を流すニケ様。この人お刺身好きなのよね。ニンマリと笑って、
「いいですか金糸雀ちゃん。食は命を奪う事です。それ故、この一口一口、謝罪と感謝の気持ちを噛み締めてですね!」
嫌ですよそんな重い食事、まぁ食の感謝は大事ですけどね。あーはいはいと話を聞き流していると、クラーケンさんは、
「うん。ごげんうまか物、海底神殿にもなかばってん! ウチの盟主さんのウルスラにも食べさせてやりたかねー! 口の中で特有の味わいに、このお酒がじゅんと胸が高まるばい!」
少し頬を赤て私にそう話しかけてくれるクラーケンさん。うん、やっぱ美人に見つめられて飲む酒ってたまらないわね。
「さぁ、もう一献どうぞ!」
「ありがとうね?」
「金糸雀ちゃん、私の話聞いてますぅ? むぎゅっ……」
ウザ絡みするニケ様をクラーケンさんの触手で押さえ付けて私への被害の飛び火を止めてくれた! そんなクラーケンさんはウィンク。
「このクソ女神を静止できるとは、やはりクラーケン殿は神域の存在であるな!」
「そげん事なかよー! ただお酒はゆたっと飲みたか! 外のまるか星も綺麗ね?」
月を見て片目を瞑るクラーケンさん、いやぁ様になるわね。月見て一杯、お酒は静かに飲みたい。うん、確かにそういう気分のお酒もあるわよね。
不思議な間に包まれて私たちはイカそうめんを肴にキレイ系おっとり女子を楽しむ。時折、喚くニケ様の雑音は気にならない。クラーケンさんの海の話、デュラさんの魔王軍の話、私の大学の話、そんなお話でも気の合う仲間だと盛り上がるもので、私とデュラさんもすっかり回ったところで、
「こん駄女神ば連れて帰るけん、ありがとうね? これ、よかったらもろうてくれん?」
「はい? えっ! こんなの貰えませんよ!」
「いいから、またね? 金糸雀ちゃん」
触手でバイバイしてくれたクラーケンさんは拳大の水晶みたいな大きさの真珠を私に渡してニケ様を引きずって帰って行ったの。この真珠、もしかしたら億以上の価値あるんじゃないかしら? ヤバすぎて絶対この部屋から出せないわね。
にしても、どうしてクラーケンさんは博多弁っぽい話し方だったのかしら? 呼子のイカなのかしら? まぁ、そんな事より美人と楽しくお話しして飲めた私とデュラさんは逃げたミカンちゃんにザマーミロ! と妙に勝ち誇った気持ちで寝る準備を始めたの。
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