第17話 ハーピィーと缶つまと京都麦酒と

「うっはー! ここがカナの新居? やばくない? 広い! 綺麗! 高い! ボクもここにすんじゃおうかなー」


 そう、私は止めたのだけど、いろはさんがどうしても来るというので押し切られてしまった。デュラさんの事も話しておいたんだけど、


「あー、あれがデュラさん? こんちゃー、ボクはカナの同僚で先輩のいろはでぇーす! ほんと首だけぢゃん! すっげー!」


 コイツ、モンスターとかを見ても動じないのである。すげぇー。

 デュラさんはいろはさんを見て、首を置く座布団から浮かび上がると、


「これはこれは、金糸雀殿の上長と。我は悪魔の侯爵デュラハン、理由あって首から下のみ元の世界に戻ってしまったが故、このような姿で申し訳ない」

「よろよろー! てか、浮いてんじゃん! まぁ、いいや! お近づきの印に飲も飲も! 今日はボクが色々買ってきてあげたからよきにはかえー!」


 いろはさん、美容院帰りなのか、毛先部分をハワイアンブルーに染めているツートングラデーションになっている。

 コイツ。毎回髪の色変えたりウィッグ使ったり、私より千倍はお洒落なのである。そしてこの不思議ちゃんでありながら、リーダーシップを取れる性格から従業員にもお客さんからも人気を射止め、人生楽しいんだろうなーと私はやや凹む。


「いろはさん、何買ってきてくれたんですか?」

「よくぞ聞いてくれたね。カナ、デュラさん。今日はねクラフトビールを買ってきたぜぇ! 京都のビールだってさ! 京都麦酒ゴールドエールという名前に惹かれたよ」


 そう言ってトントントンと緑色の缶ビールを並べていくいろはさん。続いてビニール袋からいろはさんが出した物は、缶詰。缶詰。缶詰。


「缶詰パーティーしようぜ! 酒つま系を適当に買ってきたっ」


 これは……ガチの酒つま専用缶詰達。缶つま! 

 100円~200円で売っている普通の缶詰で私も宅飲みする事はあるけど、これらは高くて自ら買う時に躊躇してしまう……そんな物を沢山。


「いろはさん、ありがとうございます! デュラさん、高級缶詰ですよ!」

「いろは殿、かたじけない」

「えぇ……普段何喰ってんだ君達……まぁいいや! 今日はじゃんじゃんやってくれよ!」


 京都麦酒ゴールドエールを手元に置いた時、


 ガチャガチャ! ガチャガチャ!

 とドアから音がする。なんだろうと思った時。


「やった、誰かきたー!」


 凄い嬉しそうな顔でいろはさんが玄関に走っていく。この人、これ目当てだな……というか凄いな。


 しかしいろはさんから悲鳴。


「ぎゃーー! 痛い痛い!」

「ニンゲン……タベル」


 ガジガジといろはさんの腕に噛みついている小さい子……手が、鳥の羽みたいで……


「ハーピィーとは珍しい。幻獣までやってくるとはな」

「へぇ、天使みたいで可愛いねぇ!」

「ちょっとぉ! 助けてよー、痛い痛い!」


 すっごい美少女。

 ハーピィーちゃん。真っ白いウェーブがかかった髪に真っ赤な瞳。


 だけど、噛みつかれているいろはさんはそれどころではなさそうなので、私が手伝ってハーピィーちゃんをいろはさんから引きはがす。腕に歯形。血は出ていないのでそこまで顎の力が強いわけではないみたい。


「幻獣種、ハーピィーよ。ここで殺生は控えよ」


 きっと身体の方もあれば威厳もあっただろうけど、すっごいシュール。本当にシュール。ハーピィーちゃんはデュラさんを見て、


「アクマ……タベル」


 と私の手の中から飛び立ってデュラさんの頭にかじりついた。だけど、デュラさんは甲冑。いかに噛みついても固くて食べられない。


「ふふっ、我が鎧は魔王様より賜りし物。幻獣ごときが食べられると思うな! ふはははははは!」


 凄いシュールだ。ハーピィーちゃんがデュラさんの首を抱きかかえて齧っている。本来であればホラーのハズなんだけど、


「ぎゃははははは! どういう! どういう状況ぉ! もうやめて、おなか痛っ!」


 と、いろはさんが転げまわる。要するにハーピィーちゃんはお腹がすいているんでしょ?

 私も食べた事のない缶つまシリーズ、


「いろはさん、こちら開けますね?」


 色々買ってきてくれている中から、広島県産かき燻製醤油漬けを開ける。そしてそれをお皿に持って、お箸で一つ摘まむ。


「ほらほら、ハーピィーちゃん! 高級缶詰の牡蠣よ! デュラさんよりきっと美味しいんだから!」


 鼻をすんすんさせてハーピィーちゃんはデュラさんを放すと、私のところまできてじっと見つめる。


「タベモノ?」

「そうよ。はい、あーん!」


 あーと口を開けるので、ハーピィーちゃんの口の中に牡蠣を入れてあげる。もっちゃもっちゃとと租借すると、テーブルをダン!ダン! と羽根の手でたたいて。


「うきゅぅう! モット! タベル! タベル!」


 というので……こりゃたまらないわね。凄い可愛い。鳥の雛に餌を上げている時ってこんな感じなのかしら?


「あー、笑った。そろそろ乾杯しよーよ!」


 そうだった。まだお酒を飲んでなかったわ。デュラさんにはプルトップを開けてデュラさんの前に置き、缶つまの牡蠣を食べているハーピィーちゃんには、さすがにお酒は……


「タベタイ……」


 とつぶらな瞳で私を見つめてくる。でもだめよ! 未成年に飲酒なんて……


「人間じゃないんだし、いいんじゃない? 酔ったら面白そうだし」

「幼い見た目をしてはいるが幻獣。優に数百年はいきておろうな。人間の言葉を話せるのもそういう理由だ。金糸雀殿。見た目に騙されてはならんぞ! はっはっは!」

「そう……なんですか? じゃあ、ちょっとだけ、お猪口でいいかな?」

「ノム……カナリア……ノム!」

「ちょっと聞きましたぁ? 今、私の事名前で呼びましたよぅ!」


 そう、ハーピィーちゃん。ひたすらに可愛いのである。気分をよくした私は、京都麦酒をかかげ、とりあえず異世界も共通の!


「「「かんぱーい!」」」

「ターイ……」


 とお猪口に入った京都麦酒を舐めるハーピィーちゃん。そして私達は喉を鳴らして……


「うわー、クラフトビールって美味しいんですね!」


 ホップ感が少なくて、凄い飲みやすい。なんというかこの缶つまで食べるとカジュアルな宅飲み感が凄いわね。いろはさんがコンビーフのユッケ風缶つまを開けているので横からつつからせてもらう。


「なんか清酒酵母っての使ってるらしいよー、エールよりラガーっぽいけどね」

「ほうほう、麦酒か! これは魔王城でもよく飲んだが、こんなに口当たりの良いものははじめてだな」


 ビールってすごい昔からあるから異世界でも再現性はあるんでしょうね。ビールのコスパが悪すぎて基本第三のビールしか飲まない私からすると脳がとろけそうな程美味しい。


しかもおつまみの缶つまも想像以上に美味しいし、日本の缶詰技術って本当に凄いわよね。


「カナリア。お酒!」

「あー、ハーピィーちゃんごめんねぇ! じゃあちょっとだけ」


 お猪口にまた京都麦酒を入れてあげると、嬉しそうに笑うハーピィーちゃん。

 なんだか少し活舌がよくなったような気がするけど、気のせいよね。


 缶つまウマー! 

 1個400円くらいするこの高級缶詰。こんなのをポンポン買ってくるっていろはさんはきっと貯金とかしてないんだろうなー

 おっと、ハーピィーちゃんが私の服を引っ張って、


「ねぇ、金糸雀。もっとお酒頂戴! その緑の入れ物ごとがいいわ」

「あれ、ハーピィーちゃん。なんだか少し大きくなったような」

「金糸雀が、優しくしてくれたからよ。金糸雀……ママみたい」


 はい、京都麦酒だろうと、私の秘蔵のポールジロー(高級ブランデー)だって飲ませてあげますとも!

 私は京都麦酒のプルトップを開けると、それをハーピィーちゃんに渡す。

 まぁ、もうこの時は酔っていたのかもしれないわね。


「んぐんぐ、ぷはー。美味しいお酒。それにこの食べ物も美味しい!」


 牛肉のバルサミコ酢を手づかみじゃなくてフォークを使って上手に食べられるようになってる! それもちょっと色っぽくなっちゃって。きゃわわわ! 


 私は女だけど、キャバクラとか、メイド喫茶とかにハマる男の人の気持ちがちょっと分かったような気がするわね。


「ちょー、ハーピィーなんか成長してね? ぎゃはははは」

「うむ、ハーピィーという幻獣種は幼体の時に別種族に自らを育てさせて成獣になると聞いた事があるからな、成長途中なのであろう!」

「そうなの? それヤバくない? どうでもいいけど、デュラさん飲んでるぅ?」

「ふはははは! 愉快愉快! 飲んでおるぞ! していろは殿の呑みっぷりも中々だが、ハーピィー。貴殿も相当であるな! 」


 両手で缶を持って美味しそうに京都麦酒を飲んでいるハーピーちゃん、なんだかすごいスタイルもよくなってソファーで足を組んでるけど、デュラさんに話しかけられて、


「はぁああ? 悪魔ごときが私に気安くはなしかけないでもらえる?」

「えぇ……ハーピィーちゃん。なんか凄い変わって、声まで大人っぽくなっちゃって」


 そう言うと、ハーピィーちゃんは私の首に甘噛み。


「きゃっ!」

「金糸雀ママ、ありがと! これで人間共を滅ぼせるくらいに成長できたわ。人間共を滅ぼしても金糸雀ママだけは殺さないでいてあげる。じゃあねぇ! お酒も食べ物も結構おいしかったわ!」


 そう言って、羽根の手をひらひらと振って私達の元の不適に去っていくハーピィーちゃん。いろはさんは「ばいばーい! また飲もうぜ!」とか言ってお見送り、そしてハーピィーちゃんが帰った後、何事も無かったように残りの京都麦酒とまだ開けていない缶つまを開封すると、いろはさんがドアを指さしてウィンク、


「あれやばくね? なんか人間滅ぼす的な事言ってたけど」

「うむ、我の見立てではあのハーピィー、邪神クラスの力を得たとみてよいかもしれぬな。恐ろしい者を育ててしまったな。金糸雀殿」


 えっ、私? 私のせい? いや、勝手に部屋にきたし……私は目の前にある京都麦酒のプルトップを開けて、他の缶つまも開封する、一気飲み。


「二人とも手止まってるよ!」


 とりあえず、飲んで忘れようと思います。うん、きっとハーピィーちゃんが戻った世界にはチートを持った勇者とかがいて、ハーピィーちゃんはヒロイン枠で活躍する事を祈りながら! 異世界に、乾杯!


 

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