第18話 ドワーフとチーズフォンデュといいちこと

 いよいよ年の瀬ですね。犬神金糸雀です。下の階の人が雨漏りの為、その天井、要するに私の部屋の床の修繕工事の為、年末年始を広いコンドミニアムで過ごせるわけなんだけど、食費の支給が1日2000円頂いているので、本日はピクルス作りをして明日のおつまみに、残った具材は本日のおつまみにしたいと思います。


「野菜の酢漬けとは、金糸雀殿は実に物知りであるな」

「それほどでも! デュラさん、じゃあ野菜を同じ大きさに細長くきってください」

「任された!」


 デュラハンの首の部分だけのデュラさんが魔法なのか超能力なのかで包丁を上手に扱う。


 ピクルスは本当に簡単に作れるの。手ごろな瓶を用意してそれを消毒の為、沸騰したお湯で湯銭。その間にピクルス液を作ります。酢1カップ、水も1カップ、砂糖大匙5,塩小さじ2、ニンニクチューブ少量、黒コショウ適量。そして……


「本来は鷹の爪のところを、ハバネロをガールズバーのお客さんに貰ったので入れます」


 パプリカ、ズッキーニ、キャベツ、ナス、レンコン、ニンジン。これを瓶の中に入れて、魔法の言葉をかけます。


「「美味しくなーれ! 萌え萌えキュン!!」」


 私とデュラさんのシンクロ、凄いと思うのね。デュラさん、きっと元の世界ではノリのいい上司とかに違いないわ!


「魔法の言葉とは……魔力を一切感じはしないが、金糸雀殿が言うのであれば間違いないのであろう。明日が楽しみであるな! してこれらの残りをいかようにして?」

「はい、その言葉待ってましたデュラさん、ここに食パンと安売りしていたベーコンを足して、チーズフォンデュを作ります。もちろんチーズを溶かす白ワインなんてここにはありませんので、これを使います」


 ドンと私がおいた物、下町のナポレオン。麦100%。いいちこです。

 そう、ストレートで飲んでもいい意味で焼酎らしくないすっきりとした味わい。世界で親しまれている麦焼酎いいちこ。最近は海外でも焼酎カクテルが流行ってるから本格バーとかでこのボトルを見る時の安心感は半端じゃないわね。


「これらの野菜は?」

「全部湯煎して、なすびとズッキーニは軽く焼きます」


 チーズフォンデュセットなんてお洒落な物はないので、片手鍋とカセットコンロ。チーズも兄貴の部屋で使っていたトーストに乗せる安売りプロセスチーズに、400円のカマンベールを混ぜて黒コショウで味を調え、いいちこをin!


「あとはぐるぐるまぜておけば、完成です! いいちこはストレート、ロック、ハイボール。お湯割り、好きな飲み方で楽しんでくださいね! 最初はどうします?」


 さぁ、そろそろ来るかな?

 ガチャリ、


「邪魔をする。誰かおらんか?」


 私が出迎えると、ちいさいおじさん? なんだっけ、この人。そこまで出てるんだけど……


「今宵はドワーフが来たか」


 それだ! 物作りが得意とかっていうエルフとその知名度を二分するドワーフさん。


「ここは? 農作業の帰りに迷ってしまったのだが、喋る兜と人間の雌とは珍しい組み合わせだ」

「いらっしゃい! 私は犬神金糸雀です。で、こっちはデュラハンの首の部分だけのデュラさんです。よくみんな迷い込んでくるんですよ。よければ一杯ひっかけて帰りませんか? 出来合いですけど、チーズフォンデュも作ったので」


 私がいいちこのボトルを見せると、怪訝そうな顔で、「水か?」と言うからグラスに少し注いで渡すと、「酒!! こんな色のない……俺は、ドワーフのギルベイダー・アインジュアル・トードイルグヴェンン・スヴァルトアールヴァヘイムだ」


 なっげー!


「えっと、ドワーフの王様か何かですか?」

「王などと、恐れ多い。普通の農夫だ」


 すっげー長い名前、じゅげむじゅげむ的なやつかな? もうすでに殆ど覚えてないので、ギルさんと呼ぼう。


「ギルさん、お酒はいける口ね?」

「ははっ、先ほどからもう飲みたくてしかたがない」

「ギル殿、金糸雀殿の作る酒の肴は格別だぞ! 心して食すと良い!」


 まぁ、まずはみんないいちこのストレートでいいかな? グラスを私が用意しようとすると……


「ちょっと待たれよ。賢者様と首だけ騎士様。このような出会い、特別なジョッキで乾杯したい」


 そう言ってギルさんはトンカチと持ってきた木でカンカンと何か作り始めた。そしてそれがすぐに何か私も分かりどちゃくそテンションが上がりましたとも! 


 誰しも一度は憧れるバレルジョッキ。あの木製の樽みたいな形をしたジョッキね。


「こんなご馳走を頂けるせめてものお礼だ」


 私と、デュラさんとギルさんの分のバレルジョッキを作ってくれたので、これに合うのはやっぱり、ハイボールかしら? という事でレモン風味のついた炭酸水でいいちこを割る。いい感じ、樽のいい香りもしてるし、改めて!


「「「かんぱーい!」」」


 ぷはぁああ! バレルジョッキで飲むお酒の異世界感はんぱないわねぇ。

 いいちこハイボールで喉を鳴らした後は、本日のディナー兼おつまみ、チーズフォンデュ。


「好きな具材をフォークにさしてチーズに絡めてたべてくださいねー! お好みで胡椒とかカレー粉かけてください」


 くるくるとチーズをパンに絡めて……んっまぁあああ! ギルさんもデュラさんも美味しそうにしてるし、大成功ね! 


「この奇抜な色の野菜、見た目に反して甘いのだな……」

「パプリカですよー! 生で食べてもいいお酒のおつまみになります! 美味しいでしょ?」


 チーズが絡むとなんでも食べ物がおいしくなる説が私の中であるわね。私達はこの時、知る由もなかった。大きな過ちを犯していた事に……


「このズッキーニ、なすびとやら見た目に反して随分マイルドな味であるな? しかしチーズを絡める事で、まさに魔王様級!」


 デュラさんは謎の超能力でフォークを自在に操りながら好きな具材を食べる。ギルさんは呑みメインね。一番早くジョッキが空になったので、私はすかさずグラスにいいちこと炭酸水を注ぐ。


「具材を全部食べましたら茹でたマカロニを入れてシメにしますので楽しみにしててくださいね!」


 お酒が回ってくると、なんだか楽しくなってきて量が増える。電気代も全部大家さん負担なので、暖房も滅茶苦茶きかせているので、お湯割りという選択肢は私達には無かったの。

 テンションアゲアゲでトマトのホール缶と茹でたマカロニをチーズの中に放り込んで、〆のトマトチーズマカロニを肴に最後はいいちこのオンザロックで楽しむ私達。


 ん? 最初に違和感に気づいたのは身体の小さいドワーフのギルさん、最初は酔って動けなくなったんだと思ってたけど、


「賢者様、お腹が重く……動けない」

「えぇ、そんな事……ほんとだ」


 私達は石化の状態異常を受けたかのように動けない。というか苦しい……私達の異常を目撃したデュラさんは……


「二人ともいかがした? まさか、食べ物か酒に……毒を盛られたか?」


 いや、これは毒じゃないの。気づくべきだったわ。白ワインがない時に……普段6Pチーズとか冷たいチーズを肴にビールとかを飲んでいたから忘れてたけど、今日は温めて溶けたチーズ。そんな物を沢山食べた後にガブガブ冷たい飲み物を飲んだらどうなるか……

 本格チーズフォンデュは白ワインか紅茶でたべないと、


「チーズ、チーズよデュラさん、お腹の中で固まったの……ギルさん、横になってください。胃薬持ってきま……す」


 私達は小一時間程うーん、うーんと唸り、ギルさんが楽になって帰っていくまでしばらくもだえ苦しんだ。バレルジョッキのお礼にギルさん曰く珍しいという100均で売ってたガラスのグラスを二つあげたので持って帰って行った。その100均のグラス。


 ドワーフ達の国を征服しようとしていた国の王に献上された事で、一つの戦争を止めたとか、これ程の品を作るドワーフをイタズラに攻めてはならないと、私には知る由もない事だったけど、ギルさん達ドワーフにイヌガミカナリアという賢者は末永く語られる事になったらしいわ。

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