第16話 姫騎士とサラダチキンジャーキーとチャミスルと

 最近はオンラインとオフラインの講義があるの、勘弁してほしいんだけどな。ぶっちゃけ学費を払っている身からするとキャンパスで講義を聞きたいのだけど、オンラインで済まされるなら学費を半額以下にしてほしい。これ、まぢで! 

 私がオンライン授業を受けている間、デュラさんは何をしているかというと……


 サブスクで韓国ドラマを視聴している。

 もう一度言う。


 悪魔の侯爵、デュラハンのデュラさんは今現在、韓流サスペンスドラマに超お熱なのである。確かに、はじめて韓流ドラマが入ってきた時は年配の女性が好むトレンディドラマが多かったみたいだけど、今や作りこみと演者の実力から世界レベルで人気なのよね。かくいう私も講義が終わったら、デュラさんと視聴する事がある。


「おぉ! 今回も手に汗握る展開であったな! まぁ、我には手どころか首から下はないのだが……金糸雀殿。座学ご苦労であった。しかしあそこまで大勢と通信できる魔法があるとは人間おそるべしであるな」


 会議アプリね。

 デュラさん曰く、通信魔法は凄い高価な水晶的な魔石を介して1対1でしか行えないらしく、それこそ遠方で会議をしようとすると、水晶に映り込む為に記念撮影みたいな状態になるらしいの。想像するとちょっと可愛いわね。韓流ドラマにハマっているデュラさんと一緒に視聴していると、度々登場するお酒があって、私も段々気になったので、昨日それを買ってきたので今日は呑んでみようと思います。


「デュラさん、デュラさんが飲みたがっていたチャミスル買ってきましたよー!」

「おぉ! 演者の人間共がことあるごとに飲みまくるあの酒か! かたじけない!」


 韓国焼酎は稀釈式焼酎と言って、日本の焼酎みたいに麦! とか芋! とか単一じゃなくて色々穀物をブレンドしているらしいの。眞露とかが有名で日本の宝焼酎やウォッカっぽい味なのかな? それにチャミスルは香料と甘味料を加えてあり度数は13度くらい、ストレートでもロックでもソーダ割でも楽しめるようになっているのね。今回買ってきたのはマスカット味なんでコリアンワインってとこかしら?


「まずはストレートでやってみますかぁ?」

「演者共が実に美味そうに飲んでおったな! 是非に、まぁそろそろ来るか?」


 デュラさんも来訪者に慣れ始めているところ、ギィと警戒しながら開かれる玄関の音。さぁ誰かしら……


「オーク達から逃げているさ中、この扉を見つけたのだ。しばし、匿ってはくれないか?」

「うっ、眩しっ!」


 靡く金色の髪にはキューティクルの光沢が反射して私の目に直撃した。どんな手入れをすればこうなるんだろうか、そこには銀の甲冑を着て、腰にはレイピアを差した思わず私も膝まづいてしまいそうなふつくしい女性の騎士。


 強そうな眼差しの中に、やさしさと愁いを帯びた彼女……


「金糸雀殿ぉ~、誰がきたのだ? ふむ、人間の女騎士か」

「魔物! どういう事だ! まさか……貴様、何者だ!」


 私にレイピアを向けて警戒する女性騎士。と言われれば、私も自己紹介をするしかないわよね。


「私は犬神金糸雀。ここは仮住まいのコンドミニアムで、こちらは貴女と同じく迷い込んできたデュラハンのデュラさん、貴女は?」

「うむ……私はプラ……いや、ただの女騎士だ」


 凛としたその佇まいの中に感じる妙な違和感。なんだろう、とても凄い既視感があるような……


「金糸雀殿、女騎士殿もまぁ中に入いるといい、我は確かに人間に仇名す悪魔であるが、この通り何ができようか? お疲れであろう? 一時休戦といこうではないか」


 頭だけのデュラさんが空中浮遊しながら大人の対応、強烈な絵ずらね。そんな言葉に女騎士さんは……デュラさんにレイピアを向けて、


 キッ! とにらみつけ


「約束をたがえるなよ! さもなくば斬り捨てる!」


 あー、あれだ! あれだあれ! くっころ系の女の子だこの子。本当にいるのねー。コンドミニアムは複数人掛けのソファーもあるので、


「女騎士さん、貴女お酒は飲めますか? 今から1杯やろうかと思ってたんですけど」

「……酒か、これでも仲間達にはザルと恐れられていた。いただこう!」


 という事で、私はグラスにチャミスルのマスカット味をストレートで用意すると、本日の……


「「「かんぱーい!」」」


 このチャミスルのマスカット味、人気味なだけあって、恐ろしく飲みやすく美味しかった。


「これが、演者達が飲んでいた酒か、確かにうまい」


 デュラさんも満足そう、そして女騎士さんは……あっ、気に入ってたみたいで、グラスを見てうっとりしているわね。


「……っ! これは本当に酒なのか? 花の妖精に会った事があるのだが、その時に飲ませてもらったジュースみたいだな! 金糸雀、もう一杯いただけるか?」

「どうぞどうぞ! 何本か買ってきたので遠慮なく」


 さて。お酒は口にあったところで、今日のオツマミですが……ほぼ自炊ができないので、糖質を抑えてかつおいしく、かつ簡単に作れる物を用意します。

 どこでも売ってるサラダチキンです。これをほぐして耐熱皿に入れて電子レンジにIN。


 ピーピーピー! と鳴って水分を飛ばしたら黒コショウをかけて出来上がり! 糖質ほぼなしの最高に美味しいオツマミ、サラダチキンジャーキー!

 チャミスルの飲み方も、午後ティーのストレートで1:1で割ると美味しいという噂なのよね。眞露がジャスミンティーとかお茶割有名だから、安定だと思うけど……


「デュラさん、女騎士さん。こちら、チャミスルマスカット味と午後ティーのトゥワイスアップです。サラダチキンジャーキーとお楽しみください!」


 私はここ何度かで異世界の人たちは乾き物への理解が凄い強い事を知ってる。きっと保存食とかで干し肉とかあるのかしら?? 


「うまい! 金糸雀。料理もできるなんて、私が男なら嫁に欲しかったぞ。いや、世話焼きな妹……という存在がいればお前みたいな者なのかもしれないな」

「はっはっは! 金糸雀殿が妹か、それは面白いな!」

「ふふっ、酒もたまにはいいものだな。魔物ともこうして普通に話せるのだからな」


 二人は謎の友情が芽生えグラスをコツンと合わせる。女騎士さん、そういえばオークから逃げていたとか言ってたけど、


「あの聞いていいか分からないんですが、女騎士さんはお戻りになられたらオークと戦うんですか?」

「オークか、連中……卑怯にも森の中で待ち伏せをしていたのだ……私達はそれでバラバラに逃げて……きっと仲間達はもう……」


 そう言いながらサラダチキンジャーキーを握りつぶす。なんだか聞いてはいけない内容だったかもれないわね。

 チャミスルの午後ティー割りをデュラさんはストローで飲みながら、思い出したように……


「オークか、懐かしいな。連中、森に迷い込んだ人間や魔物を森の出口まで導いてくれる亜人であったか? 我も勇者討伐の際、森の中で彷徨って助けてもらった事があったな」


 えっ? なんか私の知ってるオークってゲームとかの豚みたいなのだったり、指輪物語の映画に出てきたゴブリン的な姿を想像してたんだけど……


「えっ、そうなんですか? 女騎士さん……」


 女騎士さんは、寝耳に水! という顔で、


「そんな事はない! 連中は女とみれば他種族相手でもその情欲の限りをぶつける恐ろしい魔物だと」

「そうなんですか? デュラさん」

「いや、聞いた事がないな。確かにおっかない見た目はしているが、優しき亜人よ。女騎士殿。それは一体、どこからの情報か?」

「いや……そのように、父上からも母上から教えられ冒険を止められてきたのだ……もはや二人には隠す必要もないか。私は、北のエリザベルト領にある小国の姫、プラダマンテ。だが今は平和の為、身分を隠し騎士として旅をしている!」


 ははーん。多分、蝶よ花よと育ててた娘さんが、道楽で冒険者的な事をしたいというから、お外には怖い怪物がいるのよ! 男はオオカミなのよ! 気を付けなさい! みたいな話じゃ、


「プラダマンテ殿、先ほどが言うべきか迷っておったが、剣の持ち方が素人じみている。まぁ、我も騎士の端くれ。腕に覚えがあるかどうかは分かるからな。かけだしという事か、いやはや熟練騎士殿がわざと技量を隠す為かと思っていたが、精進なされよ」


 はっはっは! と凄いマウントを取ってチャミスルを一献。デュラさんと私に正体を見破られた女騎士さん事、プラダマンテさんは……


「くっ、殺せ! こんな辱めを受けるくらいなら」

「プラダマンテさん、グラス空いてますよ。とりあえず飲みましょう。ここには冒険者ではないですが、先輩騎士のデュラさんもいますし、色々聞けるいい機会じゃないですか!」

「我でこたえられる事であれば、なんでも答えよう」


 お酒の席だから、なんとも思わなかったけど、姫騎士であるプラダマンテさんが首だけの魔物に冒険について話を聞くさま、いい肴になるなぁ……


「いやはや、金糸雀。デュラハン師匠。大変馳走になった。これは少ないが取っておいてくれ、して……デュラハン師匠よ。私と一緒に来ないか? 貴殿程の騎士を魔物にしておくのは惜しい」


 使えない異世界の通貨を置いていくプラダマンテさん。いらないなぁ。

 だけどこれはデュラさん帰還フラグでは? でも、今みんな酔ってるからなー、勢いだけで決めない方がいいと思うよ。


「それも一興。が、断ろう」


 えぇ!! そこ断っちゃうんだ。デュラさんの言葉を聞いて、プラダマンテさんは。


「ふっ、まさかこの私が悪魔である貴殿を誘おうとわな。次は戦場で会うかもしれん。その時は容赦はせんぞ!」


 とかそんな事を言ってプラダマンテさんは帰ろうとしてドアノブに触れると……顔を真っ赤にしながら、


「金糸雀、その……」


 あーはいはい、お手洗いね。随分飲んだもんね。私は異世界の姫騎士さんをお手洗いまだ誘導して、残っているチャミスルをおすそ分けして、見送った。


 本当に、くっ! 殺せ! っていうのね。世の中にあるラノベとかってもしかして誰かの体験談なのかしら……



 


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