コンドミニアムに仮入居編
第15話 異世界転移者とタルタルのり弁当とチューダーと+α
「ひぃ、ひぃ……全部、トランクルームに運び込めば……ふぅ、ちかれたー」
兄貴の部屋にあるお酒を全てトランクルームに運び込み、温度管理が大変なお酒の類は……いろはさんの部屋で管理してくれる事になったわけだけど……あの人、飲みそうだなぁ……とりあえず私は海外旅行時につかった無駄に大きなスーツケース一つで、大家さんが用意してくれたコンドミニアムに一週間滞在する事になったのね。
スーツケースの中には……
「金糸雀殿、苦しいぞ、早く外の空気を」
「お願いデュラさん、静かにして!」
職質を受けて、スーツケースの中を確認された時にデュラさんが見つかったら、もう目も当てられない。1日で気が狂う程兄貴の部屋とトランクルームを往復して全身が筋肉痛。はやくお風呂に入って寝たいくらいはあるんだけど……人間生きているとお腹がすくのよね……
そんな時に、私達を助けてくれる物がある。
はい!
オリジン弁当です。
「すみませーん! タルタルのり弁当1つに、野菜炒め弁当1つください!」
あまり知られていないんだけど、オリジン弁当の野菜炒め弁当のおいしさは本物なのよね。最初、兄貴に勧められた時は野菜炒めなんて家でも作れるそんなベタベタなおかずに否定的だったんだけど、こんなに美味しい野菜炒め中々なわいね。もちろん、おつまみとしても!
お弁当を買って夕食を済ませるなんて、ちょっとしたプチ贅沢。何故なら1週間分の食費もマンション大家さん負担なの! だから常識の範囲内、1日2000円の補助を支給してもらっているので、今の私はまさに、無双状態よ!
「だなんて、2000円の食費補助で喜んでいられる私、えらい」
普段であれば兄貴の部屋にあるお酒を適当に飲むんだけど、今回は持ってくる気力も無かったので余ったお金で買いましたとも、宝焼酎と三ツ矢サイダーを! 食料を持って指定されたコンドミニアムに戻ると、そこはとても広い部屋だった。
「わぁ! ちょっといいホテルじゃん」
そうだ! デュラさんを出してあげないと……スーツケースの中に詰め込んだ兜と生首、首の部分は青白い炎みたいな物に包まれてるんだけど……これは燃え移らない事も検証済み。
「デュラさん、ごめんなさい。大丈夫でした?」
「ううむ、金糸雀殿。中々の苦行、しかしここが新しい居住地か? 中々見晴らしも悪くないではないか! そして何より以前の場所より広い!」
まぁ1週間きりだけど、確かに広くて凄い見晴らしもいいし、楽しまないと損よね。毎日色んな人が尋ねてきて面白くもあったけど、この1週間は少し落ち着いてお酒が飲める。
「デュラさん、お弁当買ってきたので食べましょう! そうそう、お酒はさすがにビールをケース買いとか重くてできなかったので、今から作ります!」
グラスに氷を適当に入れて、1/3、宝焼酎を注ぎます。そして残り2/3に三ツ矢サイダーを入れれば! あの国民的アニメであるドラえもんの作者も、トキワ荘で飲んだと言う、
「チューダーの出来上がりです!」
ガチャリ。
「「えっ?」」
私もデュラさんも同時に声を出した。まさか、嘘でしょ? なんで? ここは兄貴の部屋じゃないのに……もしかして、管理人さんとか?
私がそこに見に行くと……、そこには普通の成人男性。この前のギルドの受付嬢ノルンちゃん的な? 私が状況を説明しようとしたら……
「まさか、ここ日本なのか?」
おや?? そんな見てくれは悪くない男性、多分日本人ね。……もしかして日本人に似ている異世界の方かもしれないけど、
「私は犬神金糸雀です。紛れもなくここは日本の東京です」
「うそだろー! ほんと日本だ! コホん、俺はイツキ。一応、日本にいた頃は橋本一樹、道路に飛び出した女の子を助けて死んで知らない世界に転移したんけど、まさか日本に戻ってこれるとは思わなかったー」
ははーん、要するに、あれね。異世界転生者や転移者、同郷の人ね……
「そうなんですねー! 今から晩酌をと考えてたんですけど、お酒はいける方ですか? もしかして未成年とか?」
「いやいや、これでも成人してますぅー、それに日本では、漫画家のアシやってたんで、よく飲み会で一気やらされてましたよ」
「あはは、じゃあ、橋本さんには馴染みのあるお酒かもしれませんね……」
「チューダーじゃないですか! うわー、うわー! 懐かしい!」
チューダーを知っているのね。橋本さん、中々飲んでいる口……と思ったら空気を読まずにデュラさんがやってきて……
「金糸雀殿、客人は?」
「デュラハンの首だけ……犬神さん、えっ? どういう……」
かくかくしかじか、今までの状況を説明してみると……
「なるほど、デュラさんも苦労してんだなぁ、分かるぜ俺も毎日ホント大変で」
「分かってくださるか、イツキ殿……まぁ、我も金糸雀殿の厚意がなければ今は何もできない所存」
意気投合したところで、
「まぁまぁ、お二人とも辛い事はお酒でながしましょーよ! オリジン弁当二人分しか買ってないので、お皿に全部移しましたのでちょこちょこつつきながら」
ご飯は鮭フレークをまぶしてほぐして鮭ごはんにする事で、即席のオツマミも完成よ! 鮭ご飯、タルタルフライ、野菜いためと、チューダーで!
「「「かんぱーい!」」」
このチューダー、度数は8%~9%はあるので……結構きついのよね。そしてこのお酒を飲んだ時に言う有名なセリフがあるの……
それは、
「きくーーーーー!」
もう顔を赤くして橋本さんがそう言ってお代わりを所望。昔の漫画家の人ってこんなパンチの聞いたお酒で酒盛りしてたって考えると本当すごいわね。当時はお金がなかったトキワ荘の偉大な漫画家のみんなはキャベツ炒めとか安いおつまみで宴会をしてたっていうけど、こっちはオリジン弁当の野菜炒め、その味は……
「うまい! どれもこれも宮廷の味!」
悪魔の侯爵、デュラさんによるお褒めの言葉が入りました。
「オリジン弁当とか、何年ぶりだろう! それにしてもどうやって俺日本に戻ってきたんだ? 仲間達と冒険中、お花を摘みに少し離れたらここに迷い込んでたんだよなー」
「私もよく分からないんですけど、橋本さんしかり、デュラさんしかり、異世界から誰かやってくるんですよねー、今は仮住まいなんですけど……」
まぁ、どうでもいいけどねぇ! お酒があって、ウカレタ気分になればそれで充分よ。チューダー、飲みやすいからほんとよく回るのよね。あっ、鮭ごはんおいし。
「あー、こののり弁たまんねー。酒もこの背徳な感じがまた……にしても別の場所でもここでも異世界の人が迷い込んでくるって、場所じゃなくて、金糸雀さんが特異点みたくなってんじゃね? 知らんけど」
でた、知らんけど。知らないなら言わないでよー! 橋本さーん!
「うふふ、まぁ飲みましょう! 何もないですけど、お酒はまだありますのでー」
「久々に東京に戻ってきたから、明日は東京観光でもして、仲間たちにお土産でも買って帰ってやるかな!」
そんな風に日本を懐かしんでいる橋本さん、宝焼酎も三ツ矢サイダーもオリジン弁当も食べ終えてしまった彼は、
「ちょっとコンビニか何かで酒とつまみ買ってくるよ!」
「イツキ殿、待たれよ!」
デュラハンさんが止める。
そして私がお金は! と私が思った時、橋本さんは私とデュラさんにマジックテープ式の年季の入った財布を見せて、そこから5000円札を取り出した。そう、樋口一葉ではなく、新渡戸稲造の5000円札。
転生前の持ち物なんだろうか?
不敵な笑みを見せて玄関から出て買い出しに行った橋本さん、彼が再び戻ってくる事はなかった。きっと元の……というべきなのか、異世界に帰ったのだろう。玄関に落ちている旧5000円札は……どうすれば、
「やはりその扉から出てしまうと、元の世界に帰るようだな。我は手がないので、自らは出られないが……」
デュラさんの言葉には哀愁を感じる。
「まぁ、デュラさん。きっとその内知り合いが来るからその時連れて帰ってもらいなよ! くよくよしないで、今夜は一つ追加のチューダーパーティーと行きましょう!」
「うむ! 今日は飲み明かそう! 金糸雀殿」
橋本さん、この5000円ありがたく使わせてもらいます。こうして、私とデュラさんのコンドミニアム生活1日目は終わりを告げた。この生活が、私とデュラさんの別れのカウントダウンになるとは、この時は思いもしなかった。というか飲み明かしたので酔い潰れて気にもしなかった。
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