第14話 ギルドの受付嬢とクリスマスケーキとグリューワインと+α
十二月二十五日、この日は好きだ。クリスマスとかいう西洋の奇祭の酣、夕飯前、それらは祭りの終わりに後片付けで火くべるように、コンビニでスーパーで、ケーキ屋で、デパ地下で、ありとあらゆる所で……
「クリスマスケーキ半額でーす」
クリスマスケーキが叩き売られているからだ。きっと昨日、恋人や子供、家族の喜ぶ顔を想像しながらこれを持って帰ったのだろう。
まぁ、私の場合はデュラさんの頭の部分が待っているんだけどね。今日はケーキがあるので、ワインを飲もうと思っている。
もちろん、高級ワインじゃない。300円くらいで売ってある葡萄ジュースで作ったワインだけど……
「たっだいまー! デュラさん! 留守番お疲れ様でした」
「おぉ! お勤めご苦労であった金糸雀殿!」
もうさ、自分の家にデュラハンの首だけがふよふよ浮いてお出迎えしてくれる事、なんにも気にならなくなってしまってる私がいるのよね。
かつて日朝で視聴していた変身魔法少女、ファンシーな獣が相棒になっているアレ、憧れていたのよね。
まぁ、こんな感じなんだろうか? うん、絶対違うね。
「デュラさん、本日は甘いケーキを買ってきました! 甘い物はいけますか?」
「もちろん! しかし甘い物は貴重故、そんなに口にした事はなかったが……」
ふっふっふ! ワンホールケーキを貪り食べようじゃない! ケーキをオツマミにお酒を……
よく酒飲みは甘い物を食べないとか言うけど、あれは大間違いでアルコール分解の為には大量のブドウ糖を消費するの。お酒の後にラーメンを食べたくなるのもアイスを食べたくなるのも全部そう!
なんなら私はビールでケーキバイキングを楽しめる自信があるわね。
「して、金糸雀殿。本日の酒はいかに?」
「よくぞ聞いてくれましたデュラさん! 本日は、グリューワインです!」
「なんだか分からないが、よい響きだ!」
台所でデュラさん(首だけが)浮遊しながら私の用意した材料を見る。とっても簡単グリューワイン。生姜を少しすり、蜂蜜、ラム酒少量と共にミルクパンで温める。それにシナモンスティックとレモンスライスを放り込めば!
ガチャリ。
さぁ、魔物が出るが、妖精が出るのか? 勇者? 魔法使い? もうなんでもいいわよ。
「あっれー? ギルドじゃない……」
うん? なんか普通の女の子がやってきたけど……いやいや、普通の女の子と見せかけて魔法で世界を滅ぼせるとか、とんでもない子だったりして……
「キャアアアアア! 魔物! 魔物がいますよ! そこのお姉さん、離れて!誰か! 冒険者の方はいませんかー!」
おっとー、本来私がデュラさんを見て反応しないといけない感じの悲鳴とかを代わりに行ってくれる可愛らしい女の子ね。
「あー、えっとこちらはデュラさん、魔物らしいけどまぁ危険性はないわ。首だけだし、そして私はこの家の……家主の犬神金糸雀。貴女は?」
私はお客さん用の一人掛けのソファーに座るように勧めると、彼女はデュラさんに滅茶苦茶ビビりながら私に頭を下げて自己紹介。
「私はノルン、冒険者ギルドの受付嬢をしています。お使いから帰ってきて、ギルドに戻ってきたと思ったところ」
「ここに、迷い込んだのね? 大丈夫よ。ここは、そうね。なんかみんなの休憩所的な? 私の世界的に言えばマヨヒガ的な感じかしら?」
「まよひが……?」
お手ても頬も赤くして外は寒かったのかしら? ちょうどいいわね。私は耐熱グラスをグラスの棚から三つ取り出すとグリューワインを三人分入れるとノルンちゃん、デュラさん、私と、
「これでも飲んで落ち着きなさい」
「あ……ありがとうございます。カナリアさん」
半額クリスマスケーキを大きく切り分けて各々の手元に置くと、さぁ、異世界共通の……!
「「「かんぱーい!」」」
「暖かい酒とは、これは珍しい」
「ふぅふぅ! あっ、とっても美味しいです!」
「でしょでしょ? ケーキとよく合うからやっちゃって!」
「あ、このおかしいおいしー! 何これ? どうやって作ってるんだろう?」
「でしょでしょ? もうどんどん食べちゃって!」
そういえば、デコレーションケーキって日本発祥だったっけ? 洋生って呼ばれたとか、食文化の水準からして異世界の人はこんな手の込んだケーキ知らないのかしら?
日本の生み出した究極のスイーツ、ショートケーキですよー。とても美味しそうに味わっているので、見ている私も幸せな気持ちになるわね。
「冒険者ギルドの受付って何するの?」
「冒険者の登録、それに依頼の請負と報酬の支払いなどですねー!」
ギルドの受付嬢って要するに営業事務みたいな物なのね。
それにしても……
「冒険者って職業が成り立つのが最大の疑問ね」
「そうですか?」
うん、まぁ一応経営学を学んでる側からすると、
「本来であれば労力に見合わない報酬、目的と目標の定まらない夢追い人みたいな人達が、それこそそんな人達がわんさかるのに生活できているのってさ、そこそこ景気がよくないと難しいのよね。多分、ノルンちゃんやデュラさんの住んでいる所は生きていくのは大変だけど、でも生き甲斐と生きる価値のある世界って事ね」
多分、魔物がいて人々がその脅威に見舞われて、それを退治する人々や人々の人数を調整するように魔物が蔓延って、それに合わせた流通があって、多分奇跡みたいなバランスで動いている世界。
恐らく、中央集権型の私達の世界が理想としている非中央集権型の社会に近い物が、私達の言う“異世界“という場所なのかもしれないな……
とか、可愛い女の子とデュラハンの首だけの部分を見ながら話したところで、誰にも理解は得られないわよね。私もノルンちゃんもデュラさんもグリューワインで温まりながら程よく酔いが回ってきたみたいで、
「カナリアさん、いいえ! カナリア様は賢者様なんですか? 一部の世捨て人のような賢者様は魔物や亞人と暮らしているという話を聞いたことがあります」
それは仙人的な感じかしら? うんうん、聞くわよ。異世界の事、あんまり知らないので少しでも情報を得ておきたいし、デュラさんを故郷に帰してあげないといけないしね。
5号のケーキも三人で食べれば綺麗になくなるものね。グリューワインもよく進んだし、最初こそ魔物と恐れていたデュラさんの事もノルンちゃんは、
「ノルン殿、このチョコレートのプレート、そなたが食べるといい」
私にはサンタさんの形をしたシュガードルを、ノルンちゃんにはチョコレートを譲ってくれるデュラさん、紳士ね!
「デュラさんのように騎士様のような魔物もいるんですね」
「まぁ、元々騎士であったからな。我も甘い物は好きだが、女子が美味しそうに食べる事こそ、この菓子も本望であろう」
お鍋いっぱいのグリューワインもケーキも無くなったところで、血糖値が滅茶苦茶上がってきたのか、眠くなってきたノルンちゃんにデュラさん、泊まっていけば? とノルンちゃんには伝えてみたけど、
「いえいえ、そろそろ戻らないとみんなに心配かけちゃいますし、これ! お使いで買ってきたポーションなんですけど、カナリア様にせめてものお礼として」
「いいよいいよ。お使いでしょ? そんな気にしないで、それよりこれ田舎から送られてきた干し柿、そうね。果物の保存食? 美味しいから向こうで食べてね!」
袋に入れてあげると大事そうにノルンちゃんは抱きしめて私の家を出ていく。手を振って見送る私、
「デュラさん」
「なんだ金糸雀殿?」
「明日この家を出ないといけないので、今から夜通し、この部屋のお酒をトランクルームに入れていきます! デュラさんは、洗い物をお願いしますね」
デュラさん、魔法なのか手を使わずに物を動かすことができるので、掃除とかを最近お願いしているの。デュラさんは真顔で、
「御意!」
なんで私は片付けをしないといけない時に宅飲みしちゃったんだろう? 刻一刻と時を刻む時計を見ながら、私はクソ重いお酒の瓶をリュックに入れてトランクルームに向かう。
あと何往復しなければならないんだろうか……
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