第34話 ヴァンパイアとタコパ&アヒージョとコークハイと

 最近、コンビニに併設するバーという物があるみたいです。チャージ料金無料。コンビニで購入した物を持ち込むことができる。バーだけどコンビニの閉店時間に合わせて同じく23時半に閉店するのね。

 私は仕事を終えた後にたまにここに立ち寄る。持ち込むのはコンビニで売っている殻付きのピスタチオ。

 

「カミュブック。オンザロックで」

 

 本の形をしたブランデーボトル。兄貴の部屋にも何個かあるけど、誰かのボトルキープなので手を出せなかったから一度飲んでみたかったのよね。

 

 パキっ。

 ピスタチオを割る瞬間。私は自分の世界に没頭する。大学も始まり、バイトもそこそこに、部屋には同居人の勇者とデュラハンの首。動画配信やら謎のモデルバイトで生活費は落としてくれるし、この生活にも慣れてきたんだけど……

 

「あのお会計を」

「はい、800円です」

 

 それにしてもこのお店は安いわね。

 

「ご馳走様」

 

 女一人でバーで一杯ひっかけて帰る私。居酒屋と違い格式の高いバーで女の一人飲みは妙に目立つ物だけど、ここほど入りやすいとそうでもないわね。

 とまぁ、夜の街を一人で楽しめるカッコいい女ごっこを私がしているのは、現実逃避したいからなのよね。

 バー併設のコンビニでコカコーラを買って帰ると、私は重い足取りで家に戻った。勇者やデュラハンがいる生活以外に現実逃避したい事ってある?

 とか思うかもしれないけど、朝起きた時に自分の部屋に棺桶があったら人はどんな顔をすればいいのだろうか?

 

「ただいまー」

「おかえりー」

 

 お腹を空かせたミカンちゃんこと勇者は子犬のように私の帰宅を喜び飛びついてくる。

 

「おかえりであるぞ! 風呂も沸いておる。勇者と我が先に入らせてもらったが金糸雀殿もどうか?」

 

 言ってもいないのに掃除などの家事を一通り行ってくれるデュラハンのデュラさん。私の同居人達だ。二人に私は尋ねてみた。

 

「あの棺桶は?」

「未だ健在。アンデットだけに生命反応はない!」

「そろそろ出てきても良いと思うのだが、微動だにせぬな」

 

 恐らくはヴァンパイア的な人が入っているであろう棺桶を前に私は二人の報告を聞いてため息をつくと、開き直って本日の晩酌を始めようと思った。

 

「二人とも、本日は趣向を変えて、作りながら食べるタコパをします!」

 

 そう言って、私は少量のタコ、チーズ、ウィンナー、シーフードミックス。ねぎ、天かすに紅生姜。

 そしてたこ焼きの粉と電気式のたこ焼き器を取り出した。

 

「珍妙な形をした調理器具であるな」

「拷問道具みたい」

 

 確かに初見でたこ焼き器をみて異世界の人が用途を理解したら驚きよね。昔たこ焼き器でママにベビーカステラを作ってもらった思い出が蘇りつつ私はたこ焼きの生地を作ると熱して油を引いたたこ焼き器に生地を流し込んでいく。全部で16カ所。8ヶ所にタコ、4ヶ所にウィンナーとチーズを入れて焼いている間に本日のお酒。

 兄貴のリカーラックからジャックダニエルを取り出すと、

 

「金糸雀殿。今日はハイボールであるな?」

「勇者はハイボール超好き!」

 

 ふふん! 本日はね? これを使うの! ドンと取り出しますはコカコーラ。2Lです。

 

「本日はコークハイよ! 何故ならたこ焼きの相方はコカコーラって相場が決まってるのよ!(私の中で)フードコートで食べるたこ焼き、縁日で売ってるたこ焼き、その辺の意識の高いたこ焼き店でもいつもコーラは人々に優しく微笑んでくれるの! という事でまぁ、まずは一杯やりましょう」

 

 ハイボールの炭酸水をコカコーラに変えるだけ、ライムは切らしているので代わりにミントを一振り。

 

「さて、では皆さん準備はよろしおすか?」

 

 とよく分からない言葉を使ってみる。


「よろしおすである!」

「よろしおすよろしおす!」

 

 異世界の人、ノリがよくで大好き。さて乾杯。と思った時、

 

 ギィ……予想通りと言うべきか、棺桶が開く。一体どんなヴァンパイアが……イケメン、ナイスミドル、もしかして美少女かしら……いずれにしてもヴァンパイアというのはみんな美形というのが……

 

「デュフフ、芳しい香りにて1000年の眠りも覚めるでゴザルな!」

「お、はようございます。私はこの部屋の家主の犬神金糸雀です」

 

 それは、それはとても立派なふくよかなお腹をしたいい言葉を使えば恰幅のいい。悪い言葉を使えば……キモオタみたいなヴァンパイアさんが目を覚ました。

 

「人間のメス種がニ、上級悪魔が一でゴザルな。ここは……オウフwwww 異世界っwwww」

「キモいヴァンパイア。勇者は心底ひいている」

「美少女勇者キタコレwwww」

「うむぅ、生理的に受け付け難いヴァンパイア殿であるな……」

「ちょwwww デュラハン首だけwwww マジかwww うぽっwwww」

 

 実は、私は意外とこういう人が気にならない。彼らは頭の回転が極めて速く、よく聞くととても為になることを言っていたりするのよね。という事で、ヴァンパイアさんにも……

 

「今から私たち食事というか、晩酌なんですけど一緒にどうですか?」

 

 お酒を見せると、ヴァンパイアさんは手を前にして、

 

「おぉ! それはアルクホウル。どうも小生。酒と血はダメでwwww 失敬失敬! ソフトドリンクにて候wwww」

 

 へぇ、お酒を飲めないのね。血も? どうやってこのヴァンパイアさん生きてるのかしら、いやアンデットだから死んでるけど。

 

「ヴァンパイアさんは」

「ノンノン、ミスカナリア。小生の事はピュアブレッドとwwww これでも小生、真祖から直系尊属でwwww これは自慢ではなくwwww 自慢になるのですがww」

 

 ミカンちゃんが口をへの字にして全身から不快感を表す。多分、ミカンちゃんはオタクに優しくないタイプのギャルね。

 

「かなりあ。このアンデットを滅してゴハンにしよう。悠久なる時を生きる精霊達よ不浄なる魂もつ愚者に致命の一撃を与えん! 死ね! セイクリッド・フレア!」

 

 ミカンちゃんは私が静止する間も無くピュアブレッドさんに魔法攻撃を仕掛けた。あっ、これ死んじゃったんじゃとか私が思った時、驚愕の展開が……

 

「ぷっwwww 真っ向からヴァンパイアに魔法攻撃とかwwwww “マジカルガード!“ 基本的に精霊魔法を小生は、魔法理論の観点から、いやいやwwww 観点などと小生は、いずれにしても修行が足りんでゴザルなw」

 

 す、すげー! 魔物が恐怖する勇者の力をピュアブレッドさんは簡単に受け流しちゃった。ミカンちゃんも開いた口が塞がらない。そしてそれはデュラさんも……とりあえずピュアブレッドさんにはコカコーラでいいかな?

 相性良さそうだし、

 

「あの、そろそろたこ焼き焼けてきたので、飲みませんか? ピュアブレッドさんはお酒なしのコカコーラです」

「やや、カナリア殿は都市伝説のヴァンパイアに優しい村娘であるなwwww 実在するとかwwww」

 

 オタクに優しいギャル的なね。とりあえず。私たちはコークハイ、ピュアブレッドさんはコーラ。

 

 じゃあ今日は、

 

「なんでもない日。乾杯!」

「カンパーイ!」

「乾杯である!」

「デュフフフw 別々の種族が杯を酌み交わすとかwwww このコーラ、身体中に力がみなぎるでゴザる!」

 

 とても面白い感じだけど、たこ焼きもできた事なので、ソースとマヨネーズを用意したので、私はみんなの前で食べてみせる。爪楊枝で刺してパクリと。

 あっ、あつっ! ここにコークハイ!

 やっば……脳がとろけそう。

 

「ささ! みんなどうぞ! たこ焼き食べる終わるとちゃんとシメもありますからねー!」

 

 さぁ、異世界の皆さん、たこ焼き初体験はどうかしら。恐る恐る爪楊枝で三人はそれぞれタコ、ソーセージ、チーズとブッ刺して口に、


「あちちちちち! ハフハフ、たこ焼きなる食べ物。勇者の口の中に炎攻撃を開始……からのウィンナーウマー! コークハイ絶妙にあうー!」

「舌が、舌が焼かれる! が、このコク深いソースに海鮮系、この味はクラーケン殿!」

「チーズwwww 小生の愛すべき食材が神話級にwwwww オウフw ストレートにうましとwwww この黒き小生に似つかわしいwwww いやいや、それではこのコーラなる飲料にに申し訳がないのだがwwww」

 

 ほら、みんな脳がやられる程合うでしょ! さぁ、たこ焼きやさん犬神亭開店よ! 私はたこ焼きを焼き続けた。高価なタコが切れたのでウィンナーとチーズでも超美味しいの。時々、デュラさんが食べさせてくれる。


「デュラさんありがとうございます」

「ムホホwwww カナリア氏にあーんをするとはデュラさん氏、ふひひwww では小生はこのコークハイなる物をwwww 失礼ながらwww」

「むぐむぐ、ピュアブラッドさんもありがとうございます」

 

 基本的にガチオタ系の人って凄い紳士なのよね。ガールズバーにもたまーに来るんだけど。

 

「かなりあー、コークハイおかわりー!」

「あー、はいはいちょっと待ってね」

「拙者に任せてwwwww 任せるなどと驕った事をwwwww しかしこの程度であればおっとっとwwww 勇者氏、お納めくださいww」

 

 そしてピュアブラッドさん、コークハイの作り方も私が作っているのを見て完璧に作り上げてくれる。ご本人はコーラしか飲めないのにね。

 

「……あ、ありがとうなの。勇者はそれなりに感謝する」

 

 ミカンちゃん魔法がピュアブラッドさんに通用しなかったから少し警戒してコークハイを受け取る。指が触れた時、ピュアブラッドさんが二チャリとした笑顔をして、ミカンちゃんはゾワッとさせる。そして思うところがあるようにコークハイを口にし、たこ焼きがなくなった事で私に上目遣い。

 

「ミカンちゃん、実はまだシーフードミックスを使ってないのよ! このたこ焼き器のもう一つの使い方。このたこ焼きを焼く穴にオリーブオイルとニンニクチューブを少々、そして鷹の爪を人摘み、そこに好きなシーフードを入れると!」

 

 一口アヒージョの出来上がり。

 

 パチパチとガーリック薫るたこ焼き器にエビやホタテにイカを入れてたこ焼きを食べる要領でアヒージョを……

 

「くぅうう! これ絶対美味しい食べ方ね!」

「ウマーウマー! ピュアブラッドさんコークハイおかわりー!」

「オウフwww美少女勇者からのダイレクトなお願いいただきましたーwww 金糸雀氏、この食べ方拷問みたいで小生wwwww 」

 

 いつの間にかミカンちゃんもピュアブラッドさんの癖の強さに慣れ始めて、デュラさんに至っては、

 

「ピュアブラッド殿。コーラお代わりどうぞである!」

「ドプフォwwwデュラハン氏からお酌とか小生が初のヴァンパイアかとwww」


 いつしか、ピュアブラッドさんの語る濃くて癖のある吸血鬼談義、全く血を吸った事がないピュアブラッドさん、昔どこかの王国のお姫様とまさかの大恋愛の末駆け落ちしたお話を自虐気味に教えてくれた。人間側からも魔物側からも追われる立場となった彼はある時、異世界から転移してきたという青年と眷属の契約をしてその知識をもらったのだという。

 

 それが、

 

「小生でwwwwww この姿になってから人間達には様々な知識をwwwww ひけらかすというとwwww ぷぷっwww それいしてもこのアヒージョ、コーラとのwwwww カップリングが優秀すぎてwwww 大正解という訳ではないにしてもwww うっ……」

 

 そう、私は大変な問題を起こしていたのだった。私は無宗教なので部屋には十字架はなく、今は夜だから日光を浴びることもなかったんだけど……アヒージョにニンニクチューブを使った事、それがヴァンパイアの弱点になりうる事を思いっきり忘れていたのだ。

 

「こほっ……」

「ど、どうしたの? 勇者の回復魔法で! スペシャルヒーリング! だ、だめだ! 勇者はとても困る。回復職は本業じゃないの」

 

 とても苦しそうにピュアブラッドさんは何も語らず棺桶の中に戻っていく。その時だった。

 私の家のドアが開き、何者かがワラワラと入ってくる。

 

「ヴァンパイアの眷属であるな。それも十や二十の数ではないである……」

 

 その眷属はピュアブラッドさんの棺を抱えるとドアの外へと運び出して帰っていった。ピュアブラッドさん、デュラさんの話ではあれだけの眷属がいるヴァンパイア。ニンニク程度では滅びる事はないだろうという事なので……

 

「じゃあ、まだシーフードミックスあるからアヒージョ続き食べよっか?」

「食べるー! コークハイお代わり!」

「我もお代わりを所望するのである! アヒージョは特にエビがたまらなく美味いのであるな!」

 

 私たちは翌日部屋だけでなく、口からヴァンパイアを追い出すことができる程のニンニクの匂いを発するようになるけど、そんな事は承知の上で、食べ続けた。コークハイもジャックダニエルが無くなるまで飲み続けた。

 

 私たちは、吸血鬼とニンニクを食べるという謎の達成感にとても満足していたんだと思うの。

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