第9話 エキドナと宅配ピザと赤玉パンチと
本日はアルバイトの給料日です。と言うことで本日は贅沢をします。
宅配ピザ……を注文してみたいと思います。
あれはいつだったか、子供の頃に兄貴とお金を出し合ってクソ高い宅配ピザを頼んでみて、なんというかお金を出す程美味しいとは思えなかったわけですが、当時と今の私とでは明確な違いがあります。
何故なら、本日は給料日だから! 心の持ちようが違います。
「えっとなになに? 2枚目無料? は? 5980円……単純に2枚で5980円じゃないの」
高級デリバリー、宅配ピザ。いきなり私の心を躊躇させにきたわけだけど、子供の頃にはなくて、今あるもの! デリバリーアプリ、初回注文4000円割引!
なんという事でしょう! ほぼ6000円の宅配ピザが2000円、1枚1000円で注文できるのです。
「という事で、ピザハット。デリシャスクォーターとプレミアムハーフ&ハーフ、ポチッとな!」
宅配時間30分前後、これほど待ち遠しい30分があるだろうか? 宅配ピザに合わせる物はコーラ? もちろんお酒を飲みたいので、ビール? それともハイボール?
ノンノンノン! 日本が誇る最高のポートワイン。
「赤玉ワインと、炭酸水で……赤玉パーーーンチ!」
コンコン、あら誰か来たみたい。いつもならこのタイミングで不思議な来客という感じだったんだけど、誰だろ?
私は扉を開けると……
「いらっしゃいま……ん?」
バラのようないい香りのするこれまたとんでもない美人がやってきたのだ。半分。
そう、半分人間で、下半身は凄いおっきい蛇。
「すみません。道に迷ったらしく気がつくとこの扉を見かけたので、少し一休みさせてもらっても宜しくて?」
「どうぞどうぞ」
「あら、魔物を見ても驚かないのですわね?」
蛇だ。完全に半分蛇の人がやってきた。私は彼女について尋ねてみた。これでも異世界の生き物事典で勉強したのだ。
「まぁ、色々魔物の方とも縁がありましてー、ところでラミアさんですか?」
「あー、残念。エキドナですわよ」
「そっちかー! まぁまぁそんなところに立ってないで中へどうぞ暖かいですよ! 私は金糸雀です。蛇と小鳥ってなんかもう逆に相性良さそうですねぇ」
何も面白くない冗談はスルーされ、室内に警戒しながら入ったエキドナさん。そしてホットカーペットの上に乗った瞬間、
「はぁ! 生き返ります! なんですのこの暖かい床は! 炎の魔法でも使われているのかしら?」
「人類の叡智の結晶です。どちらかといえば電気の魔法が使われております。ところで私、今から一杯やるところなんですけど、エキドナさんはお酒は呑まれる方です?」
「あら、嗜む程度には……」
ここで金糸雀ポイント! お酒弱い、とか嗜む程度とか言う人は基本、蟒蛇(うわばみ)である事が大体なのよね! というか、言葉通り蛇だし……
「エキドナさん、こちら! 赤玉ポートワインでございます! 今の世の中だと問題になりそうな“男には飲ませれるな!“と言うコンセプトCMまで作られるくらい女性向けに考えられたお酒です! まずは少しグラスでどうぞ」
ワイングラスをエキドナさんに渡すとティスティングしてもらう。
「……これは、相当上質なお酒ですわね。魔王様に献上しても恥ずかしくないほどに」
スーパーで498円で売られている赤玉ポートワイン。サントリーの鳥井創業者もまさか異世界の魔王様にも認められるようなお酒に育ったとは思わないでしょうね。
ピーンポーン♪
あっ、ピザきた。
「なんですの? 敵襲? トラップかしら?」
「いえいえ、お食事を注文していたので配達してくれたんですよ」
「そうでしたか、では休憩のお礼にワタクシ取りに行きますわ」
ヤバいって!
と思って止めようとしたけど、エキドナさんは玄関に向かい扉を開ける。店員さんの悲鳴が……
「こちらご注文のピザです」
「ありがとう」
「はいー、ではありがとうございましたー」
慌てて駆けつけた私、店員さんはエキドナさんの上半身を見つめ、下半身に気づいていない。いや、もしかしたら下半身にも気づいていたのかもしれない。エキドナさん、超美人なのである。
そして、下着みたいな際どい服、男って奴は……
「この平べったい四角い箱はなんですの? とても良い香りがしますけれど」
「これはですね……庶民は中々食す事のできない宅配ピザと呼ばれる食べ物でして、ご開帳!」
2枚のピザをテーブルに並べると圧巻。もし、今日エキドナさんが来なかったら私はどうするつもりだったんだろうと思いながら、ジョッキグラスを二つ用意して氷、赤玉ポートワイン、そして炭酸水を注ぐ。
「エキドナさん、こちら、赤玉パンチでございます。どうぞ!」
グラスを掲げて、異世界も共通の!
「「乾杯!」」
赤玉パンチで喉を鳴らす。甘い赤玉ワインが炭酸わりになる事で、炭酸ジュースみたいな飲みやすさになる危険なお酒。
「ピザも遠慮なくやっちゃってください!」
「ぴざ………これは不思議な食べ物ですわね。チーズのパイ料理かしら? こんな料理、魔王様の料理番ですらこんな物は作れませんわね……」
「ピザが口の中にいる間に赤玉パンチを、赤玉パンチがいる間にピザを……エキドナさんどうぞ」
エキドナさん、ハーフアンドハーフ、そして欲張りなクォーター、全部で六種類の味ですよ。デリバリーサービスの割引がなければ私はこんな高級デリバリー頼む事はありませんでした。
さぁ、お食べなさい! 魔王様に献上できる程の赤玉パンチと魔王様の料理番ですら作れない宅配ピザでお楽しみください。
「カナリアさん、貴女……もしかして勇者かしら?」
「えぇ……なんんですかぁ? 私に勇者要素ありますぅ?」
三本ラインの入った赤いジャージを着た飲んだくれの勇者がどこにいますよ? もしかして……エキドナさん。
「酔ってますぅ?」
「いいえ、酔っているのはカナリアさんね。私のような魔物をお酒と食べ物で籠絡する人間なんて今までいませんでしたから……ひょっとすると、カナリアさんが魔物が恐る勇者なのかもって……ふふっ、私も酔ったみたいね? とってもご馳走になったわ。今度は魔王城にいらっしゃい。ごきげんよう」
「はひー、ぜひぜひぃ!」
その後の事はあんまり覚えていない。目が覚めたら、流しでグラスが洗われていて、私は毛布をかけられていて、手の中には綺麗な青い、宝石みたいな鱗。多分、エキドナさんのだろう。
兄貴の部屋には何故、異世界の人がやってくるのだろうか? 今更になってまじめに、冷静に、不思議に思えてきた。
一度、誰かをこの宅飲みに巻き込んでみようかと思う。
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