第10話 ケットシーと乾き物とジンバックと+α
「カナちゃ〜ん! モスコ」
「はい、モスコです」
「カナちゃんが入れてくれるお酒が一番美味いわ!」
「ありがとうございます」
「ねぇ? 今週の日曜日暇? 遊びに行かない?」
「暇じゃないです、遊びに行きません」
私のバイト先は週三でガールズバーで働いている。お酒好きが高じてバーで働かない? と紹介され、いくいく! 自分でカクテルとか作れたら最高じゃんかと思ったらこれよ……
いや、ガールズバーもまぁ、一応お酒覚えれるんだけどさ……なんか違う。客層も一緒に働く人も……
そうこうしていると就業時間終了。
「疲れ様っしたー」
「ちょw カナ、今日も一段と辛辣な接客で、なんであんなのでお客さんリピできんの?」
「知りませんよ。そういえば、いろはさん、今日ウチで飲みませんか? ちょっと相談したい事がありまして」
「なになに? 恋バナ? 残念ながらなんの役にも立たんと思うけど、面白そうだからいくいく!」
こいつは、このガールズバーのエースにして、自称声優だとか、自称ラノベ作家だと毎回言っている人生舐め腐ってそうな人。学生なのか、フリーターなのか、普段何をしているのか私に知るよしもないけど、いろはさんなら私の部屋にくる謎の来訪者相手でも動じないんじゃないかと期待している。
近くのスーパーで適当に買い物を済ませて、ゴートゥーまいホーム!
「ただいまー!」
「いらっしゃい、ちょっとヤバい部屋かもしれませんけどどうぞ」
ずらりと並んだ酒、酒、酒。これでも随分整理したんだけど、いろはさんは私の、と言うか兄貴の部屋を見て若干引いてる?
「うっわー、すげー! カナ、ヤバい人だったんだね? まぁいいや、ボクも人の事言えないし、酒買う必要ないってこういう事ね。じゃあ飲もうか? 冷蔵庫に割る物も大体揃ってんじゃん。ボクらの店より揃ってない? ジンバック作ろ! ジンバック!」
そう、このいろはさんキャラ付けなのかボクっ子なのである。
そして、お酒のボトルを放り投げてパフォーマンスするフレアができるのである。
すげー!
兄貴のビーフィータージンとレモンジュースのボトルをポンポン投げる。そしてグラスに適量入れると氷を入れて、ジンジャーエールを注いでライムをつける。
「はい、ジンバック上がりー! ボクの分も作ろ」
「さすがエースですね」
乾杯前に、ガチャリと音がする。いろはさんは「あれ、鍵閉めたのになー、なに? カナの彼氏?」
とか言って玄関に向かう。叫ぶのだろうか? 笑うのだろうか? いろはさんの反応は私の斜め上を言っていた。
「カナ、なんかザコモンスターいた」
「フニャああああ!」
大きなネコみたいな生き物を抱えて戻ってきたいろはさん、動じねぇ!
すげー!
「ザコモンスターって」
「これあれじゃない? ケットシー」
「ふにゃにゃにゃにゃ! にゃー!」
なんか言っているけど、このパターンは初めてだ! 言葉が通じない。というか今までなんでみんな言葉通じたんだろうか?
「このケットシー。迷い込んでやってきたらザコモンスターってボクに言われて大変不快らしいよ。それはさーせん!」
そう言って頭を下げるいろはさん。えっ?
「言葉わかるんですか?」
「いや、フィーリング? まぁ、お詫びと言っちゃあなんだけど、ケットシーくん。君も飲みたまえよ!」
そう言っていろはさんは自分のグラスをケットシーさんに渡すと、紙皿に鮭とばやさきイカを出して、自分にもジンバックを作ると、
「じゃあ乾杯しよ乾杯!」
ケットシーさんも今から飲み会が始まる事がわかったらしく、グラスを両手で持って掲げる。
「それじゃあ、今日の出会いに!」
「「「「乾杯(ニャンパイ)!」」」
「でさぁ、カナさぁ、相談したい事って何?」
嘘でしょいろはさん…………、この人今の状況受け入れちゃってるよ。ケットシーさんも高い鮭とばばっかり食べてる。私もさきイカを一つ摘むと、
「おかしくないですか? 今の状況」
「えっ? 何が」
「にゃんにゃ?」
ケットシーさんも絶対“何が?“みたいな事言ってるわよね? まぁ、この状況だ。私はいろはさんとケットシーさんに相談に乗ってもらうことにした。
「いや、この部屋で宅飲みすると、絶対なんか異世界的なところからやってきた人が来るんですよ」
「へぇえ! いいじゃん!」
「…………にゃじにゃ!!」
いろはさんの順応力の高さというか、人ごと感半端ないな……
なんとなく、ケットシーさんの方は、マジで! みたいになってるけど、あなたも元凶よ。まぁ、今の所身の危険を感じたこともないし、
「楽しいんですけど、なんかやばくないですか?」
「どうして?」
いろはさんは、アイストングでグラスに氷を入れるとジンとレモンジュースを注ぎステア、ジンジャーエールを入れて二杯目を作ると、ケットシーさんもグラスを差し出すのでいろはさんは笑ってそれを受け取りジンバックを作り出す。
「だって、異世界なんてある事に驚きですし、その人たちが迷い込んでくるんですよ? 絶対変ですって! これどうしたらいいのかなって、元々ここに住んでいた兄貴にもこんな事言われてないですし」
兄貴がこの事象を知っていたら、流石に一言くらい教えてくれただろうし、これは私が住み始めてから起きた事に違いない。
「カナさー、不安なら保健所にでもなんでも相談すればいいじゃん。でもそーしたらここはキープアウト、見知らぬ病原菌とかあるかもしれないし、ここにある物は全部没収、そしてカナも隔離されて、国の機関で研究対象。例えばケットシーくんは最悪解剖くらいあるかもよ? 逆にここにみんながやってくる理由があるのかもしれないし、というかさー、酒の席で話す事じゃなくない?」
適当な人だと思っていた。ちゃらんぽらんないろはさんなら、情報共有してもいいかなくらいだったんだけど、割とリアルなことを言われてしまった。
実際、報告すべきなのかもしれないけど、兄貴のお酒を没収されたとなると、私は兄貴に殺されかねない。さて、とても困った。
「カナ、ほらグラス空だよ」
そう言っていろはさんは私にジンバックを作ってくれる。グラスを渡してくれる時にいろはさんは……
「ここにこない限りは証明のしようはないよね? 話すか、話さないかは……カナ次第じゃん? まぁ、ボクならこんなクソ面白い環境絶対に手放さないけどね」
私はまぁ、自分の保身の為にこの件は一旦保留する事にした。という事で今日は飲もう。いろはさんとケットシーさんは出来上がって二人で踊っている。せっかく美味しいお酒があって、美味しいおつまみがあるのに、お通夜みたいに飲むなんてお酒が勿体無いわよね?
「なんか音楽でもかけます? ウェーイ!」
とりあえずその場の空気に流される事にしよう。異世界からの住人がなんで私の部屋にやってくるのか?
知らねーよ! こっちが聞きたいよ! 今のところ私が危害を受けることもないし、特に体の不調もないからきっと大丈夫よね?
という事で、私は無理やりテンションをぶち上げて、いろはさんとケットシーさんと飲み明かした。
翌日、二日酔いで死ぬほどの苦しみを受けることを覚悟して、まぁ近所の人から騒音で苦情が出て大家さんにこっぴどく叱られる事になろうとは……考えればわかったろうに……
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