女子大生と異世界の居候編(デュラハン)

第11話 デュラハンとフッシュ&チップスとストロングゼロ

 アルバイトでの失敗、大学の講義で必要なレポートの提出忘れ、人はたまに連続して不運に見舞われる事がある。ポストには何か、お知らせのような物が突っ込んであり、見る気もしないけど、とりあえず持って帰る、しかもそういう物はさらに重なるのだ。そして鬱々とした気分が長引く……そんな時にもってこいのお酒があるのを知っているかしら?


 今日は兄貴の部屋にあるお酒ではなく、近所のスーパーで気が付けば購入していたお酒、辛い事や苦しい事、激しい心の痛みに耐えられなくなった時、将来の不安に押しつぶされそうになった時にそれを処方されるという(?)


「ストロングゼロダブルレモン!」


 ロング缶をとりあえず6本購入。私が部屋でお酒を飲む時は異世界の誰かが必ずやってくるから、今日は一人でメソメソせずにそんな誰かに愚痴をこぼしながらお酒を飲もうと言う魂胆ですよ。


 ガチャリ!


「いらっしゃーい!」


 出来る限り、明るく相手に警戒させないように出迎えるのがポイント、そして今日ご来場の方は……はー、はいはい! そっちかー、


「人間の民家? この悪魔の侯爵デュラハンを見ても恐れぬとは、相当な修羅場をくぐった冒険者か? それとも恐怖で声も出ないか?」


 西洋の甲冑的な物を着た人が自分の頭を持っているホラーにも出てきそうなデュラハンさんが今日は登場のようです。きっと、今日のテンションでなければわりとビビったかもしれない私だけど、今日は誰かと話をしながらお酒を飲みたい。


「私は犬神金糸雀です。デュラさん、お酒飲みませんか? アイルランドの方でしたっけ? だったら、丁度冷凍庫に冷凍ポテトと、お鍋用に買っていたタラの切り身があるので、フィッシュアンドチップス作りますよ! お酒はこれ、あらゆる悲しみを忘れられるストロングゼロ!」


 私は勢いと陰鬱な気持ちに任せて、デュラさんにストロングゼロをプルトップを開けて渡す。果たしてデュラハンは飲み食いできるんだろうか?


「おおぅ! 金糸雀……殿?」


 私はフライヤーで揚げたポテトとフライパンで作ったタラのフライをお皿にもって今回はカルディのいぶりがっこタルタルとケチャップを添えてデュラさんの手元に置く、もちろん自分の分も、ナイフとフォークを渡すと、ここも勢いで、


「さぁ食べましょう! そして飲みましょう!」


 異世界も、共通の!


「「乾杯!」」


 デュラハンさんの身体の方がナイフとフォークで上品にタラのフライを切り分けると頭の方に食べさせている。そしてストロングゼロも、ゴクゴクと、首は離れているけど、食べ物や飲み物は身体の方に流れるのかしら?? きっと今日がこんなに鬱々していなければ私はデュラハンさんの身体の秘密について興味を持ったかもしれないけど、今はそんな気分じゃないので、


「デュラさーん! まだまだストゼロありますので、遠慮なくやってくださいねー!」

「この酒、ずかんとくる禍々しさ……そしてこの料理、実に合いますなぁ、金糸雀殿。悪魔を畏れぬその姿勢気に入った。どこぞの邪教徒か何かとみたり! ふはははは! 愉快愉快!」

「もうねー、なんか嫌な事ばっかりだったんですよー。バイト先ではセクハラ発言ばかりで、オーダー間違えて怒られるしー、大学は大学で提出物忘れちゃってー! そういう事ってありませんかー?」


 二本目のストゼロを飲みながら私はデュラハンさんにうざ絡み。


「ある! あるぞ金糸雀殿。勇者共をうまい具合に策略に嵌めたかと思いきや、何故そこでとーとつに真の力に目覚めるかなー! とか、この我等悪魔に有用な武器とかが偶然そこにあったりで踏んだり蹴ったり、そういう時はこうして酒で流してしまうのが一番!」


 デュラハンさん、いいえ!


「デュラさん! わかってるぅー! ほらほら、ポテトも美味しいですよ! まだまだありますので足りなくなったら追加で揚げますから」

「ははっ、これは美味い。そしてこの禍々しい酒によく合う」


 ストゼロ、同じ度数で一度レモン、炭酸水、ウォッカ、ガムシロップで作ってみたんだけど、そんなに変な回り方しないのよね……なのにこのストゼロのヤバい回り方。一度、私の大学デビューを阻んだだけはあるその危険性は異世界の悪魔であるデュラさんにも分かるのね。


「聞いておるか? 金糸雀殿。この前なんて天使が大勢で奇襲をかけてきよって、大惨事!来るなら来るって先に言うべきではないだろうか? 悪魔に堕ちても我は元騎士。正々堂々とだな……」


 さっき勇者を策略に、とか言っていたけど、デュラさんもいい感じでヤバい回り方をしはじめている。何故なら身体の方が、ポテトにケチャップをつけてデュラさんの口じゃなくて目の方に


「痛い! 痛い! そこではない、もっと下! そうそう」


 身体と頭は別々の分担なんだろうか? デュラさん、とてもコミカルなのよね。


「金糸雀殿、しかしこの魚の揚げ物。そしてこのソース。たまらないな。我が城の料理人でもこんな物は作れないだろう! どうか? 我が城で働かないか?」


 就職先の斡旋されちゃったよー! でも注意です。お酒の席でどこぞの企業の重役とかの人にウチ来る? とかいうのだいたい覚えてないので、よく考えればそうよね。お酒が入っていてまともな会話ができるわけがないのよ。その場限り、楽しければいいので……


「えぇっ! マジですか~? 働いちゃおうかなぁ~」


 そう言いながらお互いラストのストゼロを腕を組みあいながらごきゅごきゅと飲み干す。冷凍庫のポテトも全部食べ切ったところで、完全にぐでんぐでんのデュラさんは


「いやぁ、大変馳走になった。この礼は必ずしよう。そろそろ帰らなければ魔王軍の幹部会議に遅れてしまう故、ここいらでお暇しよう」

「いやいや、こっちも楽しかったですよー!」


 そう言って私とデュラさんの中では友情のような物が芽生えたようだった。デュラさんの身体は名残惜しそうに千鳥足で去っていく。そう大事な物を忘れて去って行ったのだが、私も大分回っていたので、片付けは後にしてその日は寝落ちした。


 翌日……


「金糸雀殿……」

「デュラ……さん」


 そう頭を忘れて行ってしまったんですよ。それだけでなく、私は昨日持ち帰り見る事もなかったお知らせ、


”雨漏りの為、一時退去のお願い“


 そう、不幸というものは重なるのである。ストゼロで忘れてもその事実がなくなるわけではなく……てかやばくない?

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