第47話 ギャル天使とカレー鍋とほろよい・もも味と

 キャンプ、飯盒炊爨、コテージ、ログハウス。これが学校行事だったら絶対食べるべき物を私は食べるのを忘れていたわ。


 本日バードウォッチングを三人で行っていた時、ミカンちゃんがホームシックになったの。


 ミカンちゃんの元の世界へ? ううん、普通に私の元の部屋の。というかこの事故物件のアルバイトを見つけてきたのはミカンちゃんのハズなんだけど……という事でミカンちゃんに元気になってもらう為に、


「今日はカレーよ! それもカレー鍋にします!」


 シメは唐辛子と各種調味料を足してカレーうどんにするのがベストオブオールね。カレー鍋はわざわざ鍋の元を買わなくても普通のカレールーを使って作れるのよ。スープにちょい足しすると美味しいのよね。うどんとかおでんとか、なんならダシの元でもいいわ。それを小さじ2カレールウはひと箱の半分ないくらい、60グラムから70グラム。これに対して水は700mlから800ml。具材はじゃがいも、にんじん、たまねぎ、そしてキャベツ、大根、ロールキャベツ、ソーセージ、お豆腐。


 ガチャりとドアが開かれる。


 あら、今日はお早い登場ね。椅子に座ってぼーっとしているミカンちゃんの代わりに私が見に行くと、顔にインディアンの人みたいなペイントをしている人。背中にワサワサした羽根が一杯ある。


 なんだろうこの人、って思った私はとりあえず微笑む事にした。クリーム色の長いロングヘア。胸板はペタンとしていて女性ではなさそう。かといって男性にしても綺麗な……


「こんにちは! いらっしゃい。私は犬神金糸雀です。貴方は?」

「マジ人間? ウケるー! 何百年ぶり? えぇ、いえー! ウチは、メタトロン。もうねー。1000年くらい前は人間してましたー! 人間やめますか? 天使なりますかー? みたいなセールスに乗って今は天使やってまーす! 上司のミカエルさん超真面目で、職場は展開なのに超ブラック、サボってネクタールを煽―るしようとしたーら、ここにイタール!」


 凄いテンションだ。そしてどうやら天使の方らしいわね。前にきたミカエルさん曰く、配慮の足りないメタトロンさんみたいね。天使なんで男性でも女性でもないんだけど、いずれにしてもギャルかギャル男ね。


「ネクタールはないですけど、代わりにほろよいのもも味あるんでやりませんか? 多分、似たようなもんですから」


 そう、実質日本一美味しいと私が思う酎ハイ系、ほろよい。3%という少な目のアルコール度数でびっくりするくらいジュースみたいに呑みやすくて、ハズレのないある意味危険なお酒。

 とりあえず24缶箱で買ったので、飲み放題よ。


「えっ? マ?」

「はい、あとカレー鍋作ってるんで、メタトロンさんもご一緒にどうです?」

「なんそれ! すげーバイブス感じんじゃん! いただきー」


 私の腕を組んでメタトロンさんはデュラさんとミカンちゃんの待つリビングへやってくると、


「よろー! てか、悪魔と勇者いんじゃんウケるー!」

「天使であるか! しかし我を滅そうとはしないのであるな」

「だってカナちゃんのダチっしょ? じゃあ滅ぼす必要なくね? てか、アガってきたー! 乾杯しよーよ乾杯! ほら、勇者も! ネクタールじゃなくてほろよいだっけ?」


 ほろよいもも味のプルトップをプッシュを開けると、メタトロンさんの主体で乾杯の音頭。


「うぇーい! かんぱーい!」

「「かんぱい」」

「……かんぱいなの」


 元気がなさそうなミカンちゃん、あぁ。ほろよいウマっ。これさ、度数低いからついつい飲み過ぎちゃうお財布にやさしくないお酒なのよね。


「チョーうまぁ! なにこれ天界越えしてんじゃん!」

「うむ、甘くて美味いであるな」


 そして、ほろよいをコクンとミカンちゃんが飲んだその時、不思議な事が起こったの。


「う、う、うみゃあああああ!!」


 ミカンちゃん復活。ただたんにお腹空いてただけだったんじゃないかしら? 小さい子とかお腹すくと機嫌悪くなるし……まぁ機嫌を直したならそれはそれでいいか、本日のメインディッシュのカレー鍋。


 具材をよそってみんなに配るんだけど、この時スープをすくいすぎないようにしないとシメのカレーうどんが悲しい事になるの。


「はい! お手軽なご馳走。カレー鍋です! どうぞ召し上がれ。お豆腐は後で食べるようにわざと入れてないのでお楽しみにね!」


 まず大根、ニンジン、ジャガイモの根菜達。ホックホクにカレーで味付けされて、これを最強と言わずして何を最強というのかしら、ちょいピリ辛の味付けにほろ酔いもも味が入る事で完成するの。


「やっば……これ食べる代わりに堕天するとか言われたらシャイニング的な速さで堕天するしー! ほろ酔いちょーうめー!」


 なんかガチのギャルってホント場の空気明るくするのね。粗暴な言い方の中から感じる各方面への労りがなせる業ね。メタトロンさん、自らカレー鍋のお玉をもって、

 タンパク質、ロールキャベツにソーセージ。


「デュラさんにミカンちゃん、いれたげよーか? これ美味しかったよ! これ!」

「おおぅ、すまぬである。メタトロン殿」

「ありがとうなの!」


 そう言ってロールキャベツがいかに美味しいか三人は盛り上がってる。うん、ギャルにあんな風に接してもらったらそりゃ惚れちゃうわね。


 でも私は知ってるの。オタクに優しいギャルはいない。基本的に誰にでも優しいのがギャルだから、自ら関わろうとしないオタクの人たちの生態が分からなさ過ぎてギャルは警戒して関わろうとしないのよ。もし、ギャルの彼女が欲しいオタクの男子がいたら、ぐいぐい行けばワンちゃんあるわね!


「カナちゃん、なんか一人の世界入ってんじゃん! ウケる。飲んでる? ちょ、一人で飲み食いするなし! はい、こっちきてー。はいかんぱーい」

「はいー、かんぱーい」


 あぁ、私が惚れそう。

 ほろよいもも味、いい感じにお酒が回らないのでわりとみんな素面で食事を楽しんでるんだけど、たまにはこういうのも悪くないわね。ソーセージも超美味しいし、さぁ具材がなくなってきたところで、よくカレーの味が付いたお豆腐よ。


「はい、メタトロンさん、デュラさん、ミカンちゃん。お豆腐味がしみてるわよー!」


 カレー鍋のつよつよなところはスープそのものがつけダレになりうるという事。そしてダイエット意識している人はシメのうどんを食べなければヘルシーに終えれるのよ。


「うまー! とうふ。ウマー! ……でも勇者、もうちょっとパンチが欲しいの」


 そう、そしてほろよいの裏の顔、ほろよいブースト。スミノフとかピュアウォッカをほろ酔いに足すだけ、度数を7%から12%まで跳ね上げるのね。


「ミカンちゃんなにそれ、天使的に興味ありありなんだけどー」

「天使もやる? バフがかかる。勇者が保障する」

「やるやるー!」


 ああぁ! メタトロンさん、大丈夫かな。ミカンちゃんによって魔改造されたほろよい。もうほろよいどころかガチよいもも味をカレー豆腐をおつまみにコッコッコと飲み干す。


「くぅうううう、勇者はこのパンチを求めてた!」

「やっば……これキマリすぎっしょ? ミカエルさんキレ散らかしそー!」

「わ、我も頂いてよいか?」

「デュラさん、もちのろんっしょ!」


 ワイのワイのと学生みたいな飲み方をしているので、私はこの間にうどん玉を二玉入れて、シメのカレーうどんを作っておく。多分、三人は……というか私もほろよいのウォッカ割りを煽っているし、もうほろよいのウォッカ割りのチェイサーに普通のほろよいもも味飲んでる私達。


「そろそろシメのカレーうどんにしない? 良い感じの多すぎず少なすぎない量になったわね!」


 そんな時、またしてもあの声。


“デテイケ・ココカラデテイケ!”


 地獄の底からひねり出したような声、それにみんな気づくと、メタトロンさんがほろよいの缶をテーブルにガンと叩きつけた。


「はぁ? でていくのテメーだし? こっちはクっソバイブス上げてんのに萎える事言うなし。こんなマインド合うフレンド他にいねーし、三人ともウチ、マジすっげぇ魔法使うから見てて! ほんとやばいから! ウチ等の邪魔する何かを強制的に神の御元に送ってやるってゆーか? グランドグロスってんだけど? マジぱねーから!」


 そう、私達のコテージを夜だというのに、凄い光が包んで、悪魔であるデュラさんも一緒に浄化されそうだったので、ミカンちゃんが守っててなんとか首の皮一枚繋がったみたい。というかデュラさん首そのものだけど……エクソシストのコロネさんでも成仏させきれなかった何かをメタトロンさんは浄化させて、満足したようにほろよいもも味を飲んでるわ。


 ヒックと赤い顔でメタトロンさんは私達にハグ。ついに別れの時がきたのよ。というかメタトロンさんでも元の世界に帰ろうとするのに、ミカンちゃんは……


「カナちゃん、ミカンちゃん、デュラさん、ウチ等ずっ友だから! もらったほろよいはみんなの事忘れないように1日1本ずつ呑むから……って泣くなよデュラさん!」

「こ、これは目から汗が出ているだけである!」

「天使。勇者は天使のやさしさを忘れないの」

「ミカンちゃん、いうーーーー! んじゃね。カナちゃん、ごちそうになったナリーーー!」


 1日1本ずつ呑むとか言ってたほろ酔いを既にぷしゅっと開けて呑みながら帰って行くメタトロンさん。かくして、この事故物件であるコテージに取り憑いた何かは全て浄化されたわけなんだけど、実は幽霊よりも恐ろしい者が私達のコテージ滞在最終日にやってくるとは思いもしなかったのよね。

 

「残ったカレールーでカレーおじや食べる人!」

「食べる! 勇者食べる!」

「我も! 我も食べるである!」

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