第46話 エクソシストとラクレットチーズと八海山と

 普通に美味しくて、何処でも大概手に入るお酒ってなんでしょう? ワンカップ大関? はい、金糸雀さん、確かにそうですがもう少し考えてみてください。

 すぐに分かりますよね。

 正解です八海山ですね。

 新潟県のお酒でちょっと大きいスーパーとか行くと日本酒コーナーとかに並んでる有名なお酒ね。

 八海山は高級な物もあるけど、普段飲みとして安定した美味しさを私たちに提供していくれる八海山清酒、菊正宗と一緒に買い出しの時に売ってたのでとりあえず一升瓶で八海山の方を買っておいたの。日本酒を飲みたいけど、どれにしたらいいかなーって方にはまず八海山の清酒飲ませておけばオーケー! 


 ソースは私、

 

「かなりあー、一人でブツブツ言ってる。呪われてる?」

「うむ、時折金糸雀殿は心そこにあらずな時があるであるな。して、本日はどのようにして食事を?」

 

 ふふん。

 

「よく聞いてくれたわデュラさん! 今日はハイジのパン事。ラクレットチーズを食べるわよ!」

 

 用意する物はバゲット、そしてパスタ、甘辛く漬け込んだ鳥もも肉よ。あぁ、既に正解しか考えられない。バゲットは一口サイズに切り分けて軽くフライパンで焼いておくの。パスタはアーリオーリ。要するにあえるだけで作れるペペロンチーノ。漬けダレの鶏肉をしっかりと焼いて……

 

「ごめんください。どなたかいらっしゃいませんか?」

 

 透き通った可愛らしい声、「どちらか出て!」「任せるといい!」

 

 デュラさんがそう言って玄関に、その時。

 

「神がお与えになった生命から外れし者。その不浄なる魂、今こそ消滅させてくれん! ホーリーライト!」

「ぬぉおおおお! ゆうしゃ! ゆうしゃ助太刀を!」

 

 まーた騒がしそうな人が来たわねー。どったんばったん背後で聞こえるから一応、

 

「ちょっとコテージ壊さないでくださいよー!」

 

 料理は三品出来上がったのでテーブルにそれらを運んで、ええっと。本日の来訪者さんは……

 

「あれ、シスターさん?」

 

 十字架の形をした槍みたいな物でデュラさんに襲いかかっているグリーンの髪色をした女の子。ミカンちゃんに止められ、辛そうな顔をしているわね。まぁとりあえず。

 

「三人とも、手を洗ってきて! デュラさんは気持ち手を洗う感じで」

 

 エプロンをつけた私を見た女の子は、

 

「ここは一体。何故勇者と、不浄なる魂が普通の人と一緒にいるのでしょう?」

 

 さぁ、私が聞きたいくらいなんだけど、

 

「こんばんわ。私は犬神金糸雀です。色々あってこの事故物件にデュラハンのデュラさんと勇者のミカンちゃんと滞在しています」

 

 いつも通りの説明をすると、シスターさんは私に深々と頭を下げて、

 

「私はファナリル聖教会のエクソシスト。コロネ・チョコです。亡者の群れが出現したと聞いてそれらを撃滅する為に派遣されたのですが、一休みしようとお花をつみに出たらここに、とりあえずデュラハンがいるので消します」

「ストップ! コロネさん。えー、とりあえず食事にしません? とりあえず、まぁお腹も膨れれば考えもまとまるでしょう」

「いえ、その前に存在する事が罪である悪魔を滅します」

 

 はい、とりあえずワイングラスに八海山を注いで、全員に回して、私はみんなのグラスにコツンとつけて、

 

「はい乾杯!」

「金糸雀さん、私にはお酒は……」

「それは酒じゃないです。般若湯です。要するに神の水です」

「神の水……であれば」

 

 はい、改めて、

 

「「「「乾杯!」」」」

 

 やべー! 八海山すっきりして、

 

「う、美味いです! 何このお酒、ではなく神の水」

「おや、コロネさんいい飲みっぷりですねぇ、どうぞどうぞ。お水ですから! 神様のお水」

「ととっ、すみません。いただきマンドラゴラ!」

 

 こっこっことコロネさんは隠語通りみずのように飲み干していくわね。じゃあ、そろそろスキレットでとろっとろに溶かしたチーズを、

 

「じゃあ、バゲットからいきましょうか!」

 

 ただのバゲットトーストにラクレットチーズをかける事で……ハイジのパン的な物、完成。

 

「食べる前からウマウマ確定! あーん」

 

 むにーっとチーズを伸ばしてみんなでしばらくもっちゃもっちゃと咀嚼。これだけでも正解なんだけど、そこに追っかけ八海山。新潟なんて何があるか全然私は知らないけど、

 八海山がある事だけは知ってるわ! ありがとう新潟、ありがとう八海山。

 

「くぅうううう、チーズに合うであるなー! 八海山」

「うん、勇者も八海山には感動を抑えられず!」

「この酒、八海山って言うんだー。その辺の街で売ってるのかな?」

 

 もう、コロネさんも酒を飲んでいる事全然隠してないじゃん! うん、でも改宗したくなるぐらいの味はあるわね。

 

「次はパスタにラクレットチーズかけーま!」

 

 ただでさえ、美味しいペペロンチーノにラクレットチーズのお布団かけてあげる事で、まぁ食べてみれば分かるわ。

 

「はむっ! んんっ! チーズ・ガーリック・ペッパー……八海山! ファナリルの神よ! ありがとうございます! ファーナン!」

 

 もうみんな八海山のステマをする回し者みたいになっちゃってるわ。今度、ファナリルの神様って人の銅像にでも八海山ぶっかけてあげてください。

 

「勇者スパゲッティ好き! チーズも好き! もちろん! 神の水も超すきー!」

「うむ、我もこの日本酒という種の酒に関しては常々美味いと思っていたが、何より金糸雀殿の選び方であるな! チーズにはワインと思っていた我、驚愕」

「それねー。チーズって発酵食品なのよ。ワインと日本酒って作り方は違うんだけど広い意味では近縁なのよだから物にもよるんだけど割と合うの! こういう時はひねくれたのより、安定の八海山や剣菱とか合わせてあげるのがベストね!」

 

 根拠はないけど私が飲んできた中での感想ね。そして、日本酒って不思議な事に焼いたお肉にも滅茶苦茶合うのよ。焼肉はビールかマッコリって人が多いと思うけど……合っちゃうのよ。冷やの日本酒が、という事は必然的に……。

 

「ダッカルビ風。甘辛焼き鳥にラクレットチーズをかけてあげれば……最強のオツマミの完成よ!」

 

 香りだけでこれが美味しいと分かってしまうのは、人間の飽くなき食文化への追及と進化の賜物よ。そこには常にお酒というパートナーがいたの。

 

「さぁ、どうぞ好きなだけとって追いチーズして食べてね」

 

 くぅ! パン、パスタ。炭と水の化け物を倒した先には、チーズという名のヴェールを纏った効果的にタンパク質を摂取できるお肉が待ってるの。

 

「う…う…う…うみゃあああ! 勇者は、勇者は八海山を呑む手が止まらないぃいい!」

 

 もう気がつけば一合升でお酒を飲んでいるミカンちゃん。デュラさんは皮の部分にチーズを絡めて、ぐい呑みでクイっと。

 

「はぁああん。これはおいひぃ! おしゃけ! お代わり」

 

 ワイングラスになみなみとそそいだ日本酒を一気に飲み干すコロネさん。大丈夫かな? 結構やばい飲み方してるけど……もしゃもしゃとラクレットチーズのかかった焼き鳥を食べているコロネさんが突然立ち上がり……

 

「さっきから気になってたんですけぉ……この部屋、なんかいますねぇ。デュラハンのことかと思ったけど、もっと醜悪な……なんかこう人間の呪いを煮詰めてまとめたような……うじゃうじゃうじゃうじゃ、うぜーですねぇ」

 

 完全に酔っ払ってるコロネさんは手を上げ出した。何かに宣誓するように、

 

「はい! コロネ! 亡霊を撃滅する魔法使いまーす! 神よ神! 我らが前に迫り来る全ての邪悪な者を抹殺する聖なる光をここへ! セイクリッド・ジェノサイド・ライトぉ!」

 

 なんだろう。本当に聖なる魔法なんだろうか? でも凄いシスターのお祈りのポーズをとってるコロネさん。

 そして遅れて……

 

 ギャアアアアアアアア! と遠くから断末魔が聞こえる。

 あっ、これもしかしてコテージの悪霊的な方々、みんな成仏されたんじゃないかしら?

 

「うぷっ……まだ、デュラハン以外にヤバいの一つ残ってるけど……ちょっとコロネ! お花つみに行ってきまーす!」

 

 と、多分あれは吐きそうな感じだなぁと思って介抱しようと思ったらコロネさん、そのまま玄関から出て行っちゃった……意味深な一言を残して、

 

「ぐぅぐぅ」

 

 ミカンちゃんもデュラさんも酔い潰れて、

 

“デテイケ ココカラデテイケ“

 

 と今更な声が聞こえるので、私も残った八海山を煽って酔い潰れる事にしたわ。さぁ、明日は何を飲もうかしら……

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