第45話 カーバンクルとポップコーンと角ハイボールと
私は恐らく、同じ日本人でも生涯経験しない体験をしようとしているの。
それは……事故物件でホラー映画観賞会。
タイトルは死霊館シリーズの有名な人形が出てくるやつね。何故こんな事態になったかというと、私はどうにかしてこの二人にホラーという物を理解してもらおうと異世界留学生への我が世界のホラー体験学習を開く事にしたのよね。
しかも多分、本当に何かいるであろうこのコテージで行う事で私の恐怖はもう振り切れそうよ。何かあったら二人が助けてくれるだろうからその安心感でこの暴挙にでたわけね。普通の人で勇者とか魔王軍の幹部とかがいない時は遊び半分で心霊スポットに行くのはよした方がいいわ。
コテージ、映画ときたらオツマミはやっぱりアレよね。無限にフライパンで作れる。
「ポップコーンを作りまーす! 味付けはお好みでチーズ、バター、蜂蜜、キャラメル、七味、マヨネーズ、ケチャップ色々」
そういえば二人はポップコーンって食べた事ないんじゃないかしら? ポップコーンはあらゆるお酒のおつまみになるので本日は角ハイを飲みます。ビールやワインでもいいんだけど、ウィスキーと合わせるのも結構合うから間をとってハイボール。
ちなみに私はバイト先でこの角ハイを延々と作り続けているので、角ハイマスターと呼ばれているわ。カナちゃん、おススメは? 角ハイっすかねーという適当なかけあいでもうかれこれ1000杯以上は作ってるわね。
「バターを引いたフライパンにこのトウモロコシを炒ってるとポーン! ってポップコーンがフライパン一杯できるからミカンちゃんがんばってみて! エキセントリックよ!」
「うおー! やる! 勇者がやるー!」
そう、予想通りミカンちゃんは面白そうな事に興味を持つからミカンちゃんにここは任せて、デュラさんには小皿に各種調味料をわけてもらい、私は!
「さぁ、角ハイつくるわよ!」
これから作るのはウィスキーソーダ! みたいなバーとか小料理屋で出てくるような小洒落たハイボールではなく、まさにチェーン店とかで呑むようなハイボールの作り方。レモンをちょっと絞って落とすと氷をガッチガチに入れたグラスに角を注ぐの、ソーダ水との割合は1対4。で軽くステアして完成。
コンコン。あら、誰かしら? 入って来れない系みたいね。二人は頑張ってるので私が玄関に行くと、
「きゃわわわわ! えー、何この子? ウサギちゃんかなぁ?」
私が額に宝石がついたウサギさん、ポケモンとかにいれば火の石とか水の石とか雷の石とかで進化しそうなその子を抱きかかえて二人に見せると、
「おっおっおっ! カーバンクルなの! 勇者もあとでもふる!」
「ほう、珍しい。幻獣であるな。我もはじめてみたである」
あー! あの、カーバンクル撫で声の、カーバンクルさん。
「はじめまして、犬神金糸雀です。カーバンクルさん」
ポン! ポーン! ポフッ!
「爆発魔法みたい。かなりあーかなりあー! すっごいふえたー! なんかウマーな匂いがするー!」
「おっ、上手に出来てるじゃん! じゃあミカンちゃん、これを大きなお皿に移して」
「調味料も完璧であるぞ!」
デュラさんが分けてくれた調味料を前にポップコーン、そして角ハイボール。その並びを見てカーバンクルさんは、
「きゅきゅーん!」
「どうしたの? なになに? ポップコーン食べたいのー? かわいー」
「カーバンクル。酒くれーって言っているのー」
えっ……まぁでもみんなお酒好きだもんね。前来たケットシーさんもお酒飲んでたし、ハイボールでいいのかな? 使い捨ての発泡スチロールのお椀にハイボールを作ってあげると、
「きゅきゅー!!」
という事で、私達もグラスを持ってカーバンクルさんの器に当てて、
「「「かんぱーい!」」」
まずは一杯目、ごきゅっと飲み干した私達と、
飲み干して、ダンダン! とカーバンクルさんがお椀を叩くのでお代わりを所望みたい。
ポップコーンもお皿に取り分けて粉チーズを振りかけてハイボールと一緒に出して上げる。私達もそれぞれポップコーンをぽいと放り込んでハイボール。
「ウマー! 勇者が作った弾ける食べ物とハイボールウマー!」
「おぉ、見た目同様軽い食べ物であるな! しかしクセになる。調味料を変えるだけでお菓子にもなり、おつまみにもなるとは仕事上手であるな! ポップコーン!」
私もぽいぽいと何個か食べながらハイボールを飲んでいて、ホラー映画を視聴するのを忘れてたと、テレビにサブスクのスティックを差してとりあえず再生しておく。
「きゅーん! きゅん! きゅきゅん!」
さっきまでポップコーンをガツガツと食べていたカーバンクルさんが食べ終わってお代わりを所望。うん、控えめに言って凄い可愛い。私はカーバンクルさんを眺めながらミカンちゃんとデュラさんと私のハイボールを作り直す。角瓶は5本持ってきたから多分足りるでしょう。
「むふー! 勇者はカーバンクルに餌をやり!」
と言ってミカンちゃんはポップコーンをカーバンクルさんに食べさせようと持って行くがプイと顔を背けられる。それに、
「な、なぜ……」
代わりに私の膝の上に乗ってお腹を見せてくれる。あー、やばい。カーバンクルさん飼いたい。お酒がすすむわ! 山盛りのポップコーンが無くなってきたけど、業務用スーパーで売ってたポップコーンの種1kgがあるのではっきり言って無限に食べられるわ!
「ミカンちゃん、ポップコーン作ってちょうだい!」
「オーケー! 勇者にまかせる!」
ミカンちゃんの作れる料理がカップ麺とポップコーンに増えたわね。
追加のポップコーンが登場したのでケチャップとマヨネーズでサウザンドソースもどきを作るとそでにデイップしながら、
「くぅうう、これは合うわー!」
「きゅーん!」
カーバンクルさんは鼻を私の頬につけて欲しがるので私が直接たべさせてあげる。すると再びすりすり、宝石がついた額に、なんだろう不思議ないい匂いがするカーバンクルさん、空になったお椀をもってくるので、ハイボールを作ってあげる。カーバンクルさんはホラー映画をまじまじと見つめてる。
「どうしたのー? 怖いねー? ねー?」
そう私が声をかけると、カーバンクルさんは、ふと天井の斜め上をじっと見て、何かを追いかけるように視線を動かした。
「あそこって何かいるのかな? 分かる? ミカンちゃんにデュラさん?」
二人はポップコーンに七味とバターをまぶしてハイボールのおつまみにしながらカーバンクルさんが見たところを見つめて、
「なにもないのー!」
「うむ、なにやら亡霊的な者はこの建物に居座っているようだが、あそこには特に、カーバンクルよ!一体何をみた?」
そう、カーバンクルさんはその天井の端を見てから震え出した。私の腕の中で頭を隠してお尻を隠さない。ああん、きゃわわ!
「いかなるものも勇者は見通すの! セカンドアイ!」
とミカンちゃんが指で眼鏡みたいにして天井の端を見るけど、何も見えないみたい。というか凄い滑稽な女の子にしか見えないわミカンちゃん。ブルブルブルブル震えるカーバンクルさん。そしてついには……
「キュキューン、キューン!」
「カーバンクルさん!」
何か恐ろしい物を見た瞳で一心不乱にカーバンクルさんは玄関に向かい、玄関は誰もいないのにギィと開かれる。そこに飛び込んで元の世界に帰ってしまったカーバンクルさん。もっと抱っこしたかったのにー。
猫とかもそうなんだけど、天井にいる虫とかネズミとかあるいは私たちに聞こえない家の軋みとか見て反応しちゃうよのね。それを知らない人たちは……
「何がいるか分からないの。不安なの。デュラさん、何か分かる?」
「勇者のスキルをもかわし、我も何も感じぬ……神域すら越えた先にいる魔神という輩がいるとでもいのであろうか……」
その日の晩、デュラさんは寝ずの番をしてミカンちゃんはビビりまくって私のベットに潜り込んできた。実際の幽霊とかには全然ビビらないのに、這いよる混沌的なえもしれぬ恐怖みたいなのに異世界の人は弱いみたいね。
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