第44話 レッドキャップとニジマスとすかいらーくワインと(サンタ・カンパネラ)

 本日はコテージニ泊目となるんだけど、このコテージ、まずポルターガイストがいるのは間違いないみたいね。たまにコップとかが浮くのよね。どうせそんなこったろうと私は食器の類は全てプラスチックや紙で準備したので大した問題はなかったわね。


 時折、ラップ現象が起きるけど、これもミカンちゃんやデュラさんのサイレンスという魔法で聞こえなくしてくれるしこれも大丈夫。

 たまにお風呂から赤い血のような物がポタポタ落ちてくるからそれが困りようなんだけど……

 

 そういう心霊現象でオンライン授業がある時に邪魔されたら困るのでデュラさんとミカンちゃんに護衛してもらいながら授業がない時は、周囲を探索してみたり釣竿があったのでネットでググってそれっぽく釣りをしてみたら……

 

 釣れたのよね。

 30センチくらいの手頃なニジマスが十五匹。流石に川魚を食べる文化は私にはあまりなかったんだけど、調べてみると鮭っぽい感じみたいなので、メジャーなニジマスのムニエルや素焼きにして食べて見ることにしたの。

 

「ちなみに、本日のお酒はガストで売っている白ワインです!」

 

 ガールズバーのお客さんが頼んだはいいものの一杯も飲めなかったとの事で、ガストのボトルワインの白を頂いてしまった。キャップが開けられているので、早く飲まないとなと思った時にミカンちゃんの事故物件バイト、どうせだからと持ってきておいたのよね。ナイトキャップ(夜寝る前に飲むお酒ね)にでも使おうかと思ったけど出番あったじゃない!

 

 ニジマスの調理方法はネットで調べながら行ってみたけど、スーパーの魚とそんなに変わらないわね。両面の鱗をとって滑りとりをしたらエラと内臓を取り出し流水で洗う。内臓をアンチョビにとか思ったんだけど、内臓は食べられないらしいのでここは捨てましょう。

 

 二匹ずつ八匹をバターでムニエルにして、六匹を塩をまぶして串焼き。一匹はシメ用に塩釜で蒸し焼きよ!

 

 ガチャリ、さぁ、きたわね! コテージだからジェイソンとか来たらどうしよう。

 

「今料理中だからどっちか出てもらえるー?」

「はーい」

 

 素直にミカンちゃんが出て、「うわー! やったなこのー! ぶっ潰してやるー!」とかミカンちゃんが叫んでいるので、手を洗って、見に行くと、小人? ホビット的な? すっごいお人形みたいな美幼女。赤い帽子を被って鎌を持ってなければ私も抱きついて愛でたかもしれない。

 

「ほほう、レッドキャップとはまだ存在しておったか……」

「こんなところに人間がいたのだわ! でも、勇者って……あら、あらあら! ちゃんと普通の人間もいるじゃない」

 

 ミカンちゃんに捕まれながら私を見つめるレッドキャップさん。結構大人なな感じだから私もちゃんとご挨拶。

 

「いらっしゃい。ここは私の家で、私は犬神金糸雀です」

「そう。この帽子。人間の血で赤く染まっているのよ! 貴女の血で染めさせてくれないかしら?」

「あー、そういう系ですか、普通に無理ですけど、お風呂から血が滴るのでそこに帽子を干しておくのはどうですか? で、その間は私達今からご飯なんでご一緒しませんか?」

「あら、そうなの? 意味分からないけどお願いできる? かなりん」

「あはは、こちらです」

 

 なんか古いなレッドキャップさん。

 レッドキャップさんをお風呂に連れて行くと、天井に血よけのビニールシートを張ってたんだけどそれを外して、浴室に帽子を干すとリビングに戻って今日の晩酌よ!

 

「本日はニジマスづくしです! ワインついで回りますね」

 

 ワインの注ぎ方は背筋を伸ばして片手で少し深めにボトルを持つとグラスに、その際受け手はグラスに触れないのが素敵ね。レッドキャップさんはそういうマナーがしっかりしてて上品だわ。

 

「ふぅん、赤じゃないのね。白はあまり飲まないの」

「お魚と赤だとちょっと臭みが際立つので白を選びましたよー! 食後によければ赤もお出ししますよ! 私も赤派なんですけど海鮮系は白ワインがやっぱり合いますから」

 

 という事で、グラスを軽く掲げて

 

「「「「乾杯!」」」」

 

 さて、ニジマスのムニエルは……これはもうベターオブベターね。追いかける白ワインと喧嘩しないあっさりしたニジマスにバターのコッテり感がワインで綺麗に流されるわ。

 

「ウマウマ! 魚うまー! ワインもアマー!」

「おぉ、なんと淡白な物同士かと思ったが思いの外魚の方がやや重めでワインに合うであるな! ガスト、美食を名乗るだけあって見事なり!」

「ふーん、美食を名乗る所のワインなの、良い酸味じゃない。人間の臓物とかの方がいいけど、へぇお魚って美味しいのね」

 

 かちゃかちゃと木製のナイフとフォークを動かす三人。首だけのデュラさんは超能力で動かしているにしても、なんか異世界の人と洋食風景って凄い似合うわね。

 

 グラスが空いたらその都度私がみんなに注いであげる。まずはムニエルは普通に白ワインとのペアリングでゆっくりと楽しむのが正解ね。

 

「レッドキャップさんってどうしてここに?」

「そうねー、普段は廃れた教会とかに宿を求めてやってきた人間を捕まえて殺してるんだけど、今回きたのが聖女ってとんでもないアバズレで流石の私もただ逃げるしかなかったの。とにかく私を殺す事だけに執着してた聖女に殺されると思った時、扉の先に逃げ込んだらここだったの」

 

 聖女という名前を聞いてミカンちゃんもデュラさんもお通夜みたいな顔になる。聖女様ってなんか凄い素敵な人みたいなイメージなんだけど違うのかしら……

 

「人災と呼ばれし者。聖女か、我らが魔王軍も我ら大幹部以外は目撃した次点で撤退を指示している程の脅威。滅ぼされた仲間の数は勇者に屠られた者と比較にならず……」

「聖女、えんがちょーなの。勇者もしつこく戦わされてつらーだった……」

 

 異世界の聖女って人はとにかくヤバいという事だけは分かったわ。気分を変える為に次はニジマスの塩焼き行ってみましょー!

 

「じゃあ次はジンジャエールで白ワインを割ったオペレーターで楽しんでみたいと思いマース!」

 

 程よい塩味、魚を自分は食べているというガッツリ感に対して、オペレーターですっきりと喉腰爽快感アップな組み合わせで、

 

「もう、こんな野蛮な食べ方させて! でもかなりん。美味しいわ。褒めてあげる!」

「あはは、そりゃどうも」

 

 さて、私も串に齧り付いて、あぁ。素材の味を生かした最高の食べ方じゃない。こんなことなら天ぷらも作ればよかったかしら?

 ミカンちゃんなんかはぐはぐと食いついてゴキュゴキュ喉を鳴らしている。

 

「同じ食材と酒がこうも変わるとは、うむ。ガスト。只者ではないな」

 

 デュラさんはガストの回し者みたいになってるし、ニジマスづくしの仕上げは一匹だけ残しておいた塩窯焼きを崩してほぐして、混ぜご飯にした物。だし汁で茶漬け風にしてもいいんだけど、ここは焼きおにぎりをシメにします。

 

「あちち、うん。おいひぃ! お味噌をちょっと塗ったのが良かったわね!」

「あら、こんな食べ物食べた事ないけど、いけるわぁ。人間以外に美味しい物沢山あるのね。でももう流石にお腹一杯。醜態を晒す前に帰るわね」

 

 お人形さんみたいなレッドキャップさんは私にヴィズをしていくと、浴室に向かい帽子を取りに行く。そして浴室で大鎌を振った。


「キャハハハハ! もっと流しなさいよ! その真っ赤な血ぃ!」

「ぎゃああああああ。もうやめてくれぇぇえ! もうこんな所二度と取り憑いてやるもんかー!」

 

 一人のハズのレッドキャップさんのいる浴室から悲鳴が聞こえ、レッドキャップさんは私たちにウィンクしてコテージの玄関から出て行った。

 

 多分、除霊的な事をかなりのパワープレイで行って行ったんだと思うけど私には分からないし知ろうとも思わなかった。

 それからお風呂で赤い雫が滴る事は無くなったのよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る