第43話 レイスとBBQとバドワイザーと
私にはある憧れがあったの。BBQ、そうバーベキュー。バーベキューをした事がないか? と言われたら一応花の女子大生である私にも経験がないわけじゃない。
ただ、解せない。
これ、ただの外でやる焼肉じゃんか! という思いをした人は多いんじゃないかしら?
いや、広義の意味では間違っていないんだけど、イメージ的なBBQって金属の串にお肉や野菜をぶっ刺して焼いて豪快に食べる野蛮かつ食欲をそそるものだと思うの。
だから、今日は曰く付きの事故物件コテージかもしれないけど……BBQが楽しみすぎて買ってきましたとも!
ダイソーで買ってきたわ!
ステンレス製焼き串。
駅を降りたところにあるスーパーと道の駅を使ってちょっと豪華な材料を買い込むとビールは本日どんなパーティーなの!!
というくらい買い足しそれら全てを登山用のリュックの中に放り込んでミカンちゃんに背負ってもらう。
ミカンちゃんがそんな荷物でも涼しい顔をしているので、見た目は可愛い女の子でも完全に私達とは遺伝情報が違う異世界の人って再認識できるわね。
それからバスに乗り、しばらく歩きやってきた私達の1週間の住居。大学の講義は全部オンラインで調整したわ! こればかりは今のご時世と合致してるわよね!
「「「ついたー!」」」
私達は到着の感動とコテージが想像よりも素敵である事にこれからの1週間に胸がときめく。事故物件なのにね。
コテージは寝室にベットが二つ、リビングがあって玄関、水回り、テラスもあってこの前でBBQね。
「荷物を置いたらさっそく本日のおつまみ、BBQの準備をするから手伝ってね! ミカンちゃん、ビールは全部とりあえず冷蔵庫にいれておいて」
「らじゃー!」
「じゃあデュラさんは」
「動画サイトで何度もみたである! 野菜と肉を切ってその鉄の串に拷問の如く突き刺していくのであるな!」
「そうそう! では、デュラさん、刑の執行をお願いします!」
「まかされた!」
「私は何をしたらいいかしら?」
「ええっと、貴女は、コンロの準備をお願いできるかしら」
「分かったわ」
そう、私はこの時、明らかに一人増えている事に気づいていたんだけど、デュラさんもミカンちゃんも見えていないのか、はたまた気づいていないのか突っ込まないので私はスルーする事にしたのね。
完璧に私の理想とするBBQの形状をデュラさんが作り、スナック菓子を食べながらその様子を眺めていたミカンちゃん、そしてコンロを作ってくれた謎の女性。私は竹輪炭をBBQコンロの中に入れるとチャッカマンで火をつけようとしたけどつかない。あれ? 着火剤をたっぷり縫ってもう一度。ふふふと例の女性が笑う。なるほど、これが心霊現象、何故か火がつかないね。
「我に任せるといい! 地獄の炎よ! 我が盟主魔王アズリエルの名の元に集いて全てを焼き尽くす業火となれ! フレイムブラスター!」
デュラさんの口から放つガスが混じったような青い炎は竹輪炭に火をつけた。それには例の女性も唖然とする。
「手ぬるい魔法防御がかかっていたようであるな! しかし我の魔法には耐えられまい!」
という事で、私達は材料を焼き始め、空いているスペースでホタテとか海鮮も焼いちゃう。
そしてBBQのビールはやっぱバドじゃないかしら? そう、バドワイザー!
ミカンちゃんが持ってきて、
「はい、デュラさん」
「うむ」
「はい、かなりあ」
「ありがとう」
「はい、ゴースト」
「!!!!!! わ、私にもくれるの?」
ゴーストさんは驚きビールを受け取る。てゆーかビール受け取れるんだ。そして彼女がゆっくりと話し出した。
「ここは、私の大好きな人の世界だったの。どうしても会いたくてようやくやってこれたんだけど……こんな姿で」
「貴様、ゴーストではなく、レイスであるか?」
「えぇ、私はレイス。レイスと呼んで頂戴」
まぁ、要するにこういう話らしい。レイスさんは異世界転移してきた青年に恋をした。その青年は役目を終えて元の世界に戻った時、レイスさんは自らも青年の世界、すなわち私の世界に行こうとして肉体を失ってしまった。どうする事もできずにここに留まっていたというのが顛末。
幽霊の正体見たり、わりとガチ幽霊。
「む、かける言葉が見つからんな……」
「レイス、カワイソス」
と、暗い感じなので、とりあえず。
「これも何かの縁なので、まぁ一杯やりませんか? 私は犬神金糸雀、こっちのデュラハンがデュラさんで、こっちの女の子は勇者のミカンちゃんです」
「どういう組み合わせ? でもそうね。クヨクヨしててもラチがあかないものね!」
という事で、BBQを前にして、
「「「「乾杯!」」」」
バドワイザー、日本で買えるのはアメリカ産と韓国産。これは好みの違いもあるんだけど私は俄然アメリカ産のバドを推すわね! どっちも美味しいんだけど、アメリカ産は苦みの中に感じる甘みとしっかりガツンとくるバドワイザー感があるのよね。
「くぅううう! これこれ、バドうめー」
沢山焼いているのでここは無礼講でデュラさんが丁寧に串に刺してくれたのを一つ。お肉、たまねぎ、ソーセージ、ピーマン。
こ、こ、こ、これは!
「うみゃああああ! 肉ウマー!」
「うむ。ドウガとやらで何度も見てきたが、想像に違わぬ満足感。これがBBQであるな! この赤い缶の麦酒。金糸雀殿のチョイスに脱帽である」
「ほんとね。麦酒なんてどれくらいぶりだろう。あぁ、この串焼きもおいひー!」
レイスさんもいい飲みっぷり。
うん、麒麟でもアサヒでもサッポロでもサントリーでもよかったんだけど、やっぱりここはバドにして正解だったわね。なんだろう。ただ肉と野菜を塩コショウで味付けしただけの物を焼いて、それをおつまみにビール飲んでるだけなのに……この解放感だからかしら。
「んっまい! ビールおかわり!」
と私はいの一番でビールのお代わりを取りに行く。ん? なんか荷物とかが浮いてるけど、気にしないわ。今、私に必要な物はビール。異世界の人たち曰く麦酒よ! どうせみんな呑むだろうからとりあえずバケツに10缶入れて戻る。
「お肉もウマーなのに、玉ねぎがアマーでウマー! 勇者もごきゅっと呑み終わったからもう一本!」
「ちょっとー! この貝にバターを乗せたやつ、どちゃくそ美味しいじゃない! 麦酒が進むわ! 私にももう一本ちょーだい!」
「好きなだけやっちゃってくださいよー! 一杯あるんで」
誰もいないハズのコテージから、
ドンドンドン! ガンガンガン!
と音が響くので、デュラさんが、
「騒がしいであるな。金糸雀殿。音楽をかけてはいかがか?」
「そうね。スマホだけど音を最大にしてかけるわね」
クラブミュージックを中心に大音量で流しても周りには誰もいないので、室内から聞こえる音がかき消される。私達はテンションが上がってきたので、本日二回目の乾杯をして、
「くぅう、お肉と野菜を思う存分食べられるなんてしゃーあわせ! 余った野菜で焼き野菜も凄い美味しいよ! エバラの焼肉のたれ、甘口を用意しました」
トマト、カボチャ、キャベツ。火が通るととたんに甘くなるのよね。忘れちゃいけないのは、しいたけにマヨネーズよね!
「大きなキノコね。食べられるの?」
レイスさんが私をのぞき込むのでトングで傘にマヨネーズとチーズをたっぷり注いだシイタケ掴んでレイスさんのお皿に、
「やってみて、バドにくっそ合うから!」
「そ、そこまで言うなら……んーん! んんっ! なにこれ、おいしー!」
レイスさんは迷わずにバドワイザーをきゅっと飲み干し少し放心しているので、それを見たミカンちゃんとデュラさんは、
「わ、我も我も。金糸雀殿」
「勇者も、勇者もしいたけー!」
もう、欲しがり屋さんなんだからー! 私のスマホから流れる曲が定番のクラブミュージックからアニソンのクラブリミックスverが流れる頃には室内からの音は止んでいた。焼き野菜もまばらに、海鮮の類も少々、そして残った焼き串が二本。そろそろ作りましょうか、
「開店。ヤキソバ屋さん。金糸雀亭!」
「まってましたなのー! かなりあのやきそばー」
「やはりと言うべきか、シメも考えられていたであるな。見事!」
レイスさんだけは全くついてこれないこのテンション、でもミカンちゃんがバドワイザーをさらにすすめてクラブミュージックに合わせて踊る。なんというか、随分こっちに染まっちゃったわね。二人とも、
要するに残り物を全部放り込んだヤキソバね。これがまたビールによく合うのよね。各種材料をヘラで適当に崩して、ソース、ヤキソバ3玉を入れてとにかく炒めるの。もちろん、味は濃いめ、エバラ焼肉のタレを隠し味に入れてあげるとなおよしね。
「はい、お待ちどうさまー!」
みんなに山盛りヤキソバを盛ってあげて、私もバドワイザーと……うんま。
「きゃあああ! これもうみゃあああ!」
「はっはっは、なんという美味さか、金糸雀殿の前には魔王軍の料理番も裸足で逃げ出すであるな!」
「うん、ほんと美味しい。麦酒によくあうな。あのさ、私。昔は冒険者やってたの。昔は同じように……こうやって野営時にみんなで食べたなぁ、今やレイスか……ロスウェルのお師匠様、怒ってるだろーなー」
ん? と私達はかつて私の家にやってきた魔女の名前を聞いた気がしたのね。レイスさんの自分語りに耳を傾けていると、やっぱりあの大魔女ロスウェルさんの元弟子だった事が判明。
そして、レイスさんは綺麗な目で、
「ミカンちゃん、貴女勇者なんでしょ? なら、私を浄化してくれないかな? 彼に会えないのも元の世界に帰れない未練で自分では成仏できそうにないから、お願い」
「そんな、それはいかんぞレイス殿!」
「いいのよ。魔王軍なのに優しいデュラハンのデュラさん」
凄いなんかシリアスな状況なんだけど、私も含めて全員がヤキソバを持っているという情景は中々にシュールで、ミカンちゃんは黙ってヤキソバを食べ終えると、バドワイザーをごきゅごきゅと飲み干す。
「分かったのー」
「勇者、よせ! 魔導に堕ちるぞ」
「我が名はミカン・オレンジーヌ。マフデトガラモンの加護を受けし勇者! ここに彷徨える魂を救わん! かもん! ミラクルゲート! 重い、そぉおおい!」
そう言ってミカンちゃんは年末にデュラさんを引っ張り出したあの勇者の奇跡的な何かを使って、何もないところから女性を引っ張り出した。
これって……
「わ、私の身体。異世界を飛ぶ為の代償に失われたはずなのに……」
「勇者の力をもってすれば人体錬成くらいたやすいのー!」
私とデュラさんは同時にこの状況に反応してしまった。
「「す、すげー!」」
ビール片手にミカンちゃんはレイスさんを元の肉体に戻していく。目を覚ましたレイスさん。
「ミカンちゃん、なんてお礼を言えばいいか!」
「お礼ならかなりあにいうー。かなりあのご飯を食べないとできない」
「金糸雀さん、ありがとう。それにデュラさんも色々気にかけてくれて」
うん、私はなにもしていないわね。なんかこう私の知っている限りでは人体錬成をするとどこか持って行かれたりするみたいな代償があると思ってたけどそういうのはないのね。
「うむ、元に戻れてよかったであるな。元の世界に帰るには、この世界の扉から出て行けば恐らく帰れるぞ! レイス殿。おっと、もうレイス殿ではなかったな」
「ううん、レイスでいいわ。ありがとデュラさん。でも私、あの人に会いにいかなきゃ」
そうだ好きな人を追いかけてレイスさんは私の世界までやってきたもんね。なんか私達、凄い恋の応援しちゃったんじゃないかしら!
「毎日毎日、後をつけて、あの人恥ずかしがり屋だから自分には想い人が他にいるなんてテレちゃって、毎日あの人が出すゴミだって拾って何が好きで何が嫌いかとか調べてきたのに、ようやくまた相思相愛の関係にもどれるわぁ! それじゃあご馳走様。これあげるわ! デーモンサファイア。身体を依り代に異世界を開く道具よ」
そう言って私の手に禍々しい宝石をポンとのせてスキップしながらレイスさんは去って行った。
あの人、もしかして……異世界転移した青年のストーカーだったのかな?
「勇者よ。誰かの想いをつなぐとは中々の善行を積んだな。また加護が増えて我等魔王軍がてこずりそうだ」
「えっへん! 勇者は弱きの味方」
ううん、絶対手を貸してはいけなかった気はするけど、まぁいいか。
レイスさんとその青年に幸あれ!
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