第360話 イワナガヒメといぶりがっこチーズと清藍(日本酒)と

※実は例の流行病三重奏にかかり二ヶ月程死にかけてました。そしてそれにより公開ストックがついに今回で尽きてしまいました。医者からして三重でかかると死ぬと言われているだけあって、ぶっちゃけヤバい瞬間がありました。一瞬体が楽になったんですわ。あれ、多分死にかけてましたね。みなさん、声から寒くなるのでお気をつけください。

 

「あまった時間で何しようぅ。あっそれ! まいたけまいたけぐるぐる」

 

 ミカンちゃんが動画を見ながら踊ってるわ。小さい子が教育番組を見ながらお遊戯をするような感じかしら。あーいうの、高校くらいの時だったら私もしたかもしれないわねぇ。

 

「金糸雀。このお酒、すごい綺麗だけど。カクテル?」

「あー、ケートスさん、また珍しいの見つけましたねぇ」

 

 このお酒は清藍、静岡県の縄時食品株式会社の看板商品、ちなみにお酒自体は滋賀県の酒造会社が作ってるのよね。日本酒にバタフライピー……あの不老不死のお茶と言われたハーブを加えて作られているお酒ね。日本酒なのに、青くて美しいその日本酒はもっか映えるという事で、人気が絶賛出てきてるのよね。

 当然、お味の方も……

 

「じゃあ、本日はこれで一杯やりましょうか? 清藍は日本酒だから、これに合わせようと思うと……」

 

 なんでもいいんだけど、和すぎるのはちょっとオシャレじゃないのよね。和洋折衷で行こうかしら。まぁ安定と安心のチーズ。それに……

 

「いぶりがっこ。行っとこうか?」

 

 基本料理は同じタイプの物を合わせると失敗しないのよね。例えば味噌汁にヨーグルト。同じ発酵食品同士でメーカーおすすめの食べ方だったりするのよね。そして今回、お漬物とチーズ。これもまた同じ発酵食品同士の組み合わせね。今後、食品のルールでいぶりがっこが食べられなくなるかもしれないからちょっと買い溜めしてるのよね。

 

「ほぉ、いぶりがっこにクリームチーズ……そこに蜂蜜であるか?」

「オリーブオイルをかけるのも作ってみたわ!」

 

 ガチャリ……

 

 さて来たわね。誰かしら? 

 

「誰かぁ? 誰かおらぬかぁ?」

「こんにちは……どこかのお姫様ですか? 私は犬神金糸雀。この家の家主です」

「ほぉ、一城の主か、我が名はイワナガヒメ。この国の民は妾の子のようなもの永遠の神たる妾に何か望みはあるか?」

「いえ、特には……それより、今からお酒飲むんですけど、イワナガヒメさんもご一緒にどうですか?」

 

 私は他人に強請らない、欲しがらないわ。私が欲しいのは……一緒に楽しく飲める飲み友くらいだしね。

 

「よかろう。共に飲もうぞ」

 

 それにしてもアバンギャルドな十二単着てるなぁ。ヘソ出てるけど、イワナガヒメさんシンデレラ体型なんで似合うわねぇ。少しムスッとした顔つきだけどこれはこれで可愛いわね。

 

「イワナガヒメさん来たわよ! 準備して」

「おぉ、いらっしゃいであるぞ!」

「よろぉ!」

「また神が来たんだけど」

 

 シャンパングラスに清藍を注ぐとグラスを掲げるわ。乾杯の音頭は何故かイワナガヒメさん。

 

「なんと美しい酒か……空のよう、海のように、青い青い酒に一同乾杯」

「乾杯!」

「乾杯であるぞ!」

「乾杯なりっ!」

「乾杯だけど」

 

 みんな、青い日本酒をこくんとみんな一口テイスティング、上品な日本酒が口の中に澄み渡るわ。青い色に合わせて味わいもうまく整えてるわね。

 人工着色料じゃない清藍は薄い紫色がかったこの日本酒は、古代の日本では高貴な色よね。

 

「なんと、なんと美味いのか……金糸雀よ。これは悪い酒だ……美しさとこの味でスルスルと飲んで、虜になってしまう。この醜い妾が……」

「「「「えっ?」」」」

 

 イワナガヒメさん、普通に可愛いわ。というかその容姿で醜いとか言ってたら世の中の女子に命狙われるわよ。

 

「えっ、イワっち可愛いかもー」

「うむ、愛らしいであるな」

「太眉女子、流行りだけど」

 

 とウチの異世界組も肯定するんだけど……イワナガヒメさん、「この食べ物頂いても良いか?」というので「あー、じゃあいぶりがっこチーズも食べましょうか!」

 

 いざ、実食。クラッカーに乗せて、まずは蜂蜜の方をぱぁくり! うん、いぶりがっこの癖とクリームチーズのフレッシュな味わいが後を引くわねぇ。はちみつもいいアクセントね。我ながら、とんでもないおつまみを作っちゃったわね。

 

「う……うんみゃああああああ! 勇者ぁ、これしゅきぃ!」


 久々の絶叫いただきましたぁと。デュラさんも一口一口味わってるわね。そんな中、ケートスさんはオリーブオイルの方にタバスコを垂らして食べてる。それも美味しそうね。ブラックペッパーとかもいいかも。

 

 イワナガヒメさんは、じっと見つめ、いぶりがっこチーズを口元を隠して食べてるわ。奥ゆかしいわね。

 

「これも、見た目の雅さに劣らず上手い。ラクを食べているよう」

 

 あぁ、日本最古の乳製品ですね。

 

 ※中学の家庭科の教師が日本に乳製品はない。あったら成績を5にすると言ってたのでこのラクを提出したのに成績を5にしなかった家庭科の教師を筆者は絶対に許さない。

 

「そうですね。ラクをもっと進化させたチーズって食べ物です。それにお漬物が合うでしょ? さらに清藍もやっちゃってください」

「うん」

 

 きゅっと呑むイワナガヒメさん。私に不器用な笑顔を見せてくれたわ。うん、普通に可愛いわね。私が男子だったら普通に恋に落ちそう。

 

「イワナガヒメさんって、全然美人だと思いますし、所作も綺麗だし、そんなに自己肯定感低めじゃなくてもいいと思うんですけど。なんでなんですか?」

「……かつて」

 

 私たちは語るも涙、聞くも涙のお話を聞いてしまったわ。イワナガヒメさんにはアイドル顔負けの美人の妹がいて、姉妹で嫁いだ先でイワナガヒメさんは醜いからと追い返したんだって。

 

「女の敵であるな! そのクソッタレ野郎」

「えぇ、勇者引くかもー。イワっちちょーきゃわわ!」

「日本の神ってヤバい奴多いけど」

 

 そしてイワナガヒメさんを追い返した後に、元旦那とイワナガヒメさんの妹さんの間には子供ができたんだけど、永遠の化身であるイワナガヒメさんを追っ払った事で、子供には寿命ができてしまったんだって。

 

「ざまぁ! なりっ」

「うむ! 魔王軍は見た目や出生で差別はせぬゆえ実に不快な話であった」

「昨今のルンキンズムに一石を投じる話かも」

 

 イワナガヒメさんの話にみんな興奮してるけど、普通にそれってイワナガヒメさんの呪い的な力じゃないのかなぁとか私は思ったけど、その元旦那にムカついてるのでどうでもいいわ。

 

「イワナガヒメさん、そんなみる目ない男なんて忘れて飲みましょう! 今の時代ならイワナガヒメさんなんてすぐにモテモテですよ! ささ、もう一杯」

「ありがとう。金糸雀にみんな。妾もすっと心が晴れたみたい。この美しい酒と同じだな」

 

 ワイワイガヤガヤと私たちはいぶりがっこチーズを時折食べながら清藍を飲んで歌って踊っていると……

 

「またぁ金糸雀ちゃんが、別の女神を連れ込んでるぅ!」

 

 と、言い方を変えてほしいなぁと思うような発言をしながらニケ様が半泣きで部屋に入ってきたわ。最初は女の子の涙を見せられると男はタジタジになるけど、何回もされると別れ話を切り出されると言うけど、今の私の心境はそれに近いわね。

 

「ニケか、久しいな」

「……イワナガヒメが平然と私の席でお酒を飲んでるぅ!」

「ニケ様の席とかないですから、どこでも好きなところに座ってくださいよ」

 

 そして、二人は知り合いなのね。私は清藍を出すと見せかけてバタフライピーティーを美酢と混ぜてニケ様に差し出したわ。

 

「あ! これ美味しい!」

 

 ふっ、即席ノンアルコールモクテルね。お酢効果でニケ様にはお酒を飲んでいるような感覚を植え付けたわ。

 

「イワナガヒメを振るというあの愚かな男神はまだ存在しているんですか?」

「……あぁ、その話を先ほど皆にしていたところだ」

 

 私たちは意外にもニケ様がちょっと怒っている事に気づいたわ。やっぱり友達を馬鹿にされたりするとニケ様も他の女神様並の感情はあったのね。そんなニケ様に免じて、お酒出してあげるか……ミカンちゃんは察して逃げ出したわ。

 

「はい、ニケ様。清藍です! 今日はとことんイワナガヒメさんも交えて飲み明かしましょう!」

 

 女の敵は女、とかいう人もいるけど、女の味方もまた女なんだから。女子会は終わらないのよ! デュラさんいるけどね。

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