第359話 バアルと東京ごまたまごとブラックストーン(米焼酎)と
「金糸雀。タバコが出てきたけど?」
「えっ? タバコ? 兄貴かな?」
私も兄貴も喫煙者じゃないけど、お酒のお供にタバコや葉巻を吸う事はあるわ。と言ってもそういうのは大抵バーになるんだけど……
「紫色の箱ね。なになに? ソリティア。グレープ味。海外のリトルシガーっぽいわね」
※ブラックストーン スウィッシャー社でかつて作られていたくっそ甘いリトルシガーで喫煙者じゃない筆者が唯一ウィスキーを飲む際に嗜んだ物です。今は販売終了、ワイン味が出ていますが、今一つですね
「ブラックストーンか……そういえば、焼酎置き場にブラックストーンまだあったわよね!」
焼酎にしてはかなりハイカラな名前をした新潟の焼酎があった事を思い出したわ。タバコの方は私は吸わないから今度いろはさんにでもあげよう。私は焼酎置き場から黒くて一見すると洋酒のように英語で書かれたラベルのお酒を取り出すわ。
「本日は米焼酎飲みましょうか?」
「それはしゅわしゅわになり?」
「ソーダわりも美味しいわよ!」
「我はロックがいいであるな!」
「なんでもいいけど」
焼酎にしては高めの度数41度。純米吟醸の酒粕と米麹のみを使った中々口当たり上品なお酒なのよね。日本酒好きだけど焼酎は苦手! って言う人にオススメの品ね。値段もレギュラーボトル1800円くらいで、焼酎としてはお高めだけどスピリッツとしてはこの価格ではまず海外じゃお目にかかれない味わいね。
ガチャリ。
本日のお客さんが普通に登場したわ。にゅっと顔を出して、怪訝そうに「ここ、どこ?」「私、犬神金糸雀の部屋です。よければ一緒にお酒飲みませんか?」「えっ? 何それ怖い」
と言うのが、最初の出会いだったわね。
「いやー、俺。バアルって言うんだけどさー。ど田舎で最高神に持ち上げられて困ってた所、扉を見つけて開いたらここだったんよー」
なんでも何人かの神様がいて、カナンって場所の最高神を決めるくじ引きをしたらしいのね。全員引いた紙を見てハズレって言ってバアルさんが引いたくじは当たりだったらしいの。
それって、全部当たりにしておいて他の神様ハズレって言ったんじゃ……
「バアルってかなりの上位神だけど」
「勇者も聞いた事あるかも〜! 超妖精なりっ!」
「うむ、悪魔の中でも超有名な悪魔であるな」
なんか三人の中でのバアルさんの徳が妙に高いわね。でも各々なんか神様だったり妖精だったり悪魔だったり謎が多いわね。
さて、そんなバアルさんだけど。30代半ばか40代くらいの海外の男性ね。身長は185cm、体重は90kgかしら? そうね。なんかこうグラディエーター的な感じね。
「いやいやいやいや、まぁ、妖精だった事も悪魔だった事もあるけど、今は神様やらしてもらってるんよ。訳わからないよね。大体押し付けられてるんよ。まぁそれでみんな納得するならええんやけどね」
はい、訳わからないですね。ご本人もご理解しているみたいね。てゆーか! バアルさんなんかいい男じゃない? ちょっと、ゴリマッチョ系だけどなんでも許してくれる系じゃない?
「よし! じゃあ、メンツも揃った事で飲みましょう! まずはオンザロックで!」
ミカンちゃんだけハイボールにして、グラスを掲げて、地球も異世界も共通の!
「乾杯!」
「乾杯なりっ!」
「乾杯であるぞ!」
「乾杯だけど」
「あ、乾杯でーす」
ゴクリ。かー! なんだこの焼酎わよぉ! 日本酒を思わせる口当たりなのにガツンとお腹が熱くなるのはやっぱり焼酎だなぁと……いやぁ、いいですなぁ。
「うみゃああ!」
「うむ。不思議であるな。米焼酎とは思えぬ酒感……うまい」
「へぇ、これが米焼酎なんだ。美味しいけど」
いつも通りウチの異世界組の感想に対して、バアルさんは?
「あらぁ……おいちぃ」
「「「「えっ!」」」」
そこにはクネクネしながら、米焼酎ブラックストーンに舌鼓を打っているバエルさん……いや、映えるけどさ。
おねえ上戸は初めて見たわぁ。
デュラさんは神妙な顔で、ミカンちゃんは死んだ目で、そしてケートスさんは若干半笑い。どういう感情なのかしら……
「金糸雀ちゃん、よく見ると素敵なおべべねぇ!」
「あー、ジャージっすか……ここに来た人はみんなそう言うんですよねぇ。少し驚いたけど誰にも迷惑かけない酔い方ですしぃ、じゃあ、甘い物でもおつまみに飲みましょうか?」
何かないかなと思ってたら「勇者、あれ持ってりぃ!」と言って寝室から戻ってきた時、ミカンちゃんは頭に沢山の“東京ごまたまご“の箱を乗せて戻ってきたわ。
※東京お土産の最強のお菓子は“東京ごまたまご“です。ソースは著者です
「これは以前、お裾分けでいただいたお菓子であるな! うむ、これは実に美味いであるぞ! ささ、ケートス殿もバアル殿もお一つ」
「美味しそうだけど」
「あらぁ、きゃ・わ・い・いぃ!」
なんかバエルさん、恋愛対象じゃないけどお酒飲む時に見るのはいいわねぇ。じゃあ私も東京ごまたまごを一つ。
んまい! なんなの? 最近アサイーボウルが流行ってるだの言ってるけど、この薄いごまチョコレート膜の中にケーキと胡麻クリームが詰まった卵形のお菓子。度々私たちのお酒のオツマミとしてあらゆるお酒と合わせてきたのよね。これと、ブラックストーンのオンザロックを一口。
「うきゃあああああ! うんみゃああああ!」
「おぉ! この甘ったるいごまたまごと米焼酎のキレが実にあるであるなぁ」
基本スピリッツに甘い物は定番の組み合わせ、もちろん洋酒には洋菓子、日本のお酒には和菓子がより合うわね。そしてこの和洋折衷の東京ごまたまごは一つの正解例ね。
「えっ? なにこれ、普通に好みなんだけど!」
「ああん、お・い・しぃ・いいん! 金糸雀ちゃん、ぐーよ!」
「あはは、喜んでもらって幸いです。バエルさん、グラス空いてますけど、おかわりどうですか?」
「あんらぁ。いただいちゃう!」
なんかだんだん楽しくなってきたぞ! 酔い方に最初は驚いたけど、人に迷惑をかけない酔い方はいいわね。そしてバエルさん、多分なんでも押し付けられるとき飲んでる時にお願いされてるわね。
ガチャリ。
「かーなりーあちゃーん。あーそーぼ」
ニケ様がまた謎のテンションでやってきたわ。ミカンちゃんのアホ毛がぴくりと反応し逃げ出そうとした時、
「あら! あらあらぁ! ニケじゃなぁい!」
「「「「!」」」」
なんですって?
バエルさんは立ち上がり、ニケ様を自らお出迎え、「えっ? バエル。なんて神を家に入れてるんですか、金糸雀ちゃん!」とあっ! 数少ないニケ様の天敵系がバエルさんだわ。
「ほら、ほらここ、私の隣に座って! 金糸雀ちゃん、ニケにお水出したげて! 女神はお酒を飲まないから、綺麗な純水ないかしらぁん?」
「ありっ! 勇者、六甲のおいしい水持ってり!」
「ミカンちゃんやるぅ!」
「バエル、うぇーいなりっ!」
ミカンちゃんが手をあげてあのくっそ高いミネラルウォーター六甲のおいしい水を持ってくるとドンとニケ様の前においたわ。
「えっ? 勇者、私はみんなと同じのをですねぇ」
「ヤダァ! ニケ。女神ジョーク? 女神ジョークなのぉ? 貴女は美酒を飲むときは勝利した時だけって二千年くらい前に言ってたじゃなぁい! あのセリフ、カンゲキー!」
なんかまた調子のいい事を言っていたのか、あるいはもしかしたらニケ様にもまともな時代があってその頃は淑女だったのかもしれないわね。まぁ、私の知った事じゃないけど。
「ささ、クソ女神。クソ上手い六甲のおいしい水であるぞ!」
「デュラハン! 女神にクソ女神とはなんですか!」
「クソ女神ザマァなりっ!」
「ニケ、ご愁傷様だけど」
そう言って三人はブラックストーンに口をつけるわ。不満が爆発しそうな状態のニケ様の事を1ミリも理解していないバエルさんは、
「あぁ、縁起の良い日だわぁ! ほら、ニケぇ、このケーキ美味しいわよぉ。東京ごまたまごって言うんだってぇ! か・わ・い・いぃ!」
「知ってます! 私に金糸雀ちゃんが何回も献上したお菓子ですぅ!」
献上はしてないんだけどなぁ、大体遊びにくるから出してあげてるだけなんだけど、ニケ様の中ではそういう事になってるのか、驚いたわね。
それにしてもミカンちゃんがニヤニヤしながらニケ様を見てるの普通に酷いわねぇ。まぁ、バエルさんが帰ったら飲ませてあげようかな。
「じゃあ、せっかくだからぁ、ニケの音頭で乾杯しましょぉ!」
バエルさん、普通に猛毒だなぁ。いや、たまにはニケ様もこういう目にあうべきなんでしょうけど、神であり、悪魔であり、妖精。そしてスーパーポジティブ人間でもあるのね。こりゃ厄介だわ。あまりにも陽の力が強い人って人間社会でも他者をウツにさせるもんね。
「ふぇ………金糸雀ちゃん。女神もお酒飲みたいですぅ。乾杯」
でも乾杯の温度してくれるニケ様の事、嫌いになれませんよ!
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