第328話 アポロウーサとシェル・インチーズとカリラ25年と
「金糸雀ちゃん! 女神の中で一番、金糸雀ちゃんが信仰したい人は誰ですか?」
「何それ? ニケ様って言って欲しいんですか?」
本日、ニケ様がクソ忙しいのにやってきてリモート授業を受けながら世界一不毛な質問を聞いている最中なのよね。ミカンちゃんは、「勇者、月見バーガー視察に参り! デュラさんも連れて行き」とか言ってバックれたのよね。私も月見バーガー食べたいんだけど……それはさておきニケ様が昼前からやってくるのって大体、神々の国でなんか言われたとかそういう系なのよね。
「金糸雀ちゃん、女神の女子会でですね」
「あー、よく言ってるやつですね」
「月の女神・三姉妹が最近、ミードの5000年ものを持ってきて、自慢するんです!」
「えっ! 私もそれ飲んでみたいんですけど」
5000年熟成したお酒を人間が飲んでいいのか分からないけど、日本で言うところの甘露、よその国で言うところのネクターなんて言われてる神々の飲み物、要するにお酒なわけだし、一酒飲みとしては口にしてみたいわね。
「金糸雀ちゃん! 他の女神があっ! と驚くお酒をください!」
「えぇー、そんな5000年物のミードに対抗できるお酒なんて、兄貴のリカーラックにあるお酒くらいじゃないんですか? あれ、飲んだら兄貴バチギレるんであげれないですよー」
話によると日本の缶ビールでもニケ様達の神々の世界ではぶっ飛ぶくらい美味しいらしいから、5000年もののミードといえど、国産、海外産の超高級酒の前には霞むでしょうね。バランタインの30年とかこの辺をニケ様は持って帰ろうと思ってるんでしょうけど、私でも殆ど飲んだ事ないお酒だし、兄貴の所有物なのでこれは却下ね。
「金糸雀ちゃんのお酒でいいですぅー」
えぇえ、まぁ私もとっておきのお酒って何本か持ってるけど、流石にあげたくはないわね。
「一本丸々は無理ですけど、一緒にニケ様と飲んであげるとかならいいですよ」
ガチャリ。
あら、誰か来た。
「邪魔をする。誰かいないか?」
「はいはーい、いらっしゃ……」
うわっ! 右半分が金髪、左半分が黒髪でクマ耳ヘアーのすげー美人、ニケ様に匹敵するぞこれ。アテナさんみたいに甲冑を着て強そうな……きっと女神ね。
「私は犬神金糸雀。この部屋の家主です」
「我が祖はイーオケアイラ(射手座)。全ての狩人を見守る夜の月。どうやら、金糸雀くん。君に呼び寄せられたらしい。僕の名前は」
僕っ子だー! きゃわわわ!
「噂をすれば出ましたね! 月の女神三姉妹。三女アポロウーサ!」
「おや、豊穣と勝利の女神ニケじゃないか、という事はここが君の語っていた人間の部屋? 実在していたんだ。君の語る壮大な妄想かと思っていたよ」
うわぁ。ニケ様、仲間内でもそんな感じなのね。ニケ様はぐいっと私をニケ様側に引っ張ると私の肩を持ってこう言ったわ。
アポロウーサさんって言うのね。どうやら女神関連の人らしいけど、女神ってヤバいか尊いかの極端なのよね。
「そうです! 金糸雀ちゃんは私を信仰し、私もまた金糸雀ちゃんを優しく見守っています」
「信仰はしてないですよ」
するとアポロウーサさんが私を引っ張る。
「金糸雀くん、信仰僕に変えなよ。なぁ? 変えろ!」
「はいー!」
ダメだわ。美人に取りあいされるのたまんねー! それにアポロウーサさん超良い匂いだし信仰しようかしら。
「金糸雀ちゃんはそうやってすぐに他の女神に浮気するー」
失敬な……ニケ様を信仰した事一回もないですからね。さて、アポロウーサさんに良い格好を見せたい私は私の所有しているお酒のとっておきを出したわ。
「アポロウーサさん、今からニケ様とお酒呑むところだったんですけど、一緒どうですか?」
「良いねぇ、頼むよ。ニケが自慢をして大宇宙の真理に到達する酒を飲んでいるとか言っていたから期待してしまうね」
なんて事言ってんだニケ様……オールドパーの12年を飲もうと元々思ってたんだけど、カリラの25年を取り出すと、氷の塊を取り出して私はアイスピックでダイアモンドカットに成形するわ。良いお酒は氷にも拘らないとそのスペックを出せないからね。
「カリラの25年。オンザロックです。グラスもとっておきのバカラを用意しました」
バカラのグラスを掲げて異世界も神界も変わらない。
「「「乾杯」」」
ひゃあああああ! カリラの25年うんまぁああああ! 何これ? 合法なのかしら?
ニケ様もくぴっと飲んで開眼。そしてアポロウーサさんも一口飲んでグラスを置いちゃったわ。あら、口に合わなかったのかしら?
「金糸雀くん」
「はい?」
私の前に跪いて私の手を取ると上目遣いにアポロウーサさんが語りかけるように言ったわ。
「月の国に来ないか? 私の従者をしてほしい」
「えぇー、でもー、まだ学生の身ですしー」
「金糸雀ちゃんは私を信仰してるんです! アポロウーサは帰って!」
ニケ様がすかさず私とアポロウーサさんの手を払いのけるわ。神々には割とモテるんだけど。どうして人間にはモテないのかしら?
さて、この強烈なウィスキーに合わせるのは甘いものがいいわね。チョコレートもいいけど、ここはデザート系チーズを合わせようかしら。
「コストコで売ってる。タルタルのシェル・インチーズです。フランス産のチーズ75%使われているレアチーズケーキとも違う最高のデザートチーズですよ」
「美しいな。金糸雀くんみたいだ」
うーん。ホストとかクラブとかにハマる人、分かるわぁ。美人に甘い声をかけられてコロッと行かない人間なんていないもの。
シェル・インチーズは貝殻みたいな容器に入っているからそんな名称なのよね。アポロウーサさんとニケ様の分も開けてあげて、
いざ、実食。
「んんっ!」
「甘いぃ! 金糸雀ぢゃん! おいじい!」
「二人ともすかさずカリラを入れてください」
クイッと二人はカリラ25年のオンザロックを口にして、このマリアージュちょっと他には教えられない危険性があるわね。カリラの25年もストロベリーみたいな味わいがあるのに、シェル・インチーズもストロベリー味だから奇跡のマッチよ。
「姉様二人にもこれらを味わって欲しいな」
「アポロウーサさんのお姉さんって美人なんでしょうね」
「私の方が美人ですよー! かなりあちゃん!」
さて雑音が聞こえるけど、私はニケ様のグラスにカリラの25年を注いで放置よ。アポロウーサさんはお姉さんの事が好きなのかカッコいい表情から可愛い表情に変わると教えてくれたわ。
「長女のアルテミスも次女のセレネも私なんかとは比べ物にならないそれはそれは美しい女神さ」
「へぇ、今度会ってみたいですねー。アポロウーサさん、グラス入れましょうか?」
「悪いね。こんな美味い酒、神界じゃまず飲めない。この前、ニケに言われて用意した5000年もののミードなんて足元にも及ばないな」
「ん? ニケ様に言われて用意されたんですか?」
「うん、ニケが、自分レベルが飲むならそのくらいじゃないとダメだって言ってね。姉様達が神界を奔走して探してくれたものさ!」
私、酔ってるのかしら? 確か、ニケ様は月の女神三姉妹に自慢されたとか何とか言ってたような気がするけど、あー。ニケ様って記憶を自分の都合のよい方に変換する癖があったわね。シェル・インチーズぱくぱく食べてるけど、それミカンちゃんのだから全部食べたら多分ミカンちゃん発狂するわよ。
「ニケ様、アポロウーサさん別に自慢とかしてなくないですか?」
「金糸雀ちゃん! 姉妹を自慢してるじゃないですかー!」
「えぇ……」
アポロウーサさんはグラスの氷を指でチョンと触って一口。「ほんと、美味いな」と熱い息を漏らしてもう、えっちだわ! 方やニケ様はぐいっと飲んで、シェル・インチーズをバクリと食べてまたカリラをごくりと飲んで「おいじい!」と叫ぶので見てられないわね。でもどっちもぶっ壊れたくらいの美人だから交互に見てると頭バグりそうになるわね。
「金糸雀くんには何かお礼をしないといけないな」
「えぇ、別にいいですよそんなの」
「神ってのは見栄っ張りなんだ。姉様達にも紹介したいしね。何でもいいよ。叶えられる願いなら」
「じゃあ、その5000年もののミードってちょっと舐めさせてもらっていいですか?」
「そんなものでいいのかい? ニケに樽ごと渡してるから分けてもらうといい」
あぁ、フラグね。ニケ様がお酒を飲み干してないわけがないわ。アポロウーサさんは玄関で私に投げキッスをして格好良く帰って言ったわ。女子校の王子的な位置付けの女神様ね。
さて、私はリビングで寝落ちしてるニケ様を片付けて、午後からまた勉強ね。
今日はなんか平和な1日の始まりね。
立ったわ! クララじゃなくて、フラグが立ったわ。
ガチャリ。
「金糸雀あー! いるかー? よっちゃんイカ買ってきた。酒くれー! あと水も」
次はエルフの相手か……
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