第329話 キメラとウォンカチョコレートとブルーブレイザーと

※今回のお酒とか危険なので真似しないでくださいね。部屋でやって筆者はえらい事になりました。あと消費期限切れた物を食べる際は自己責任でお願いします。では良い飲兵衛のみんな、本編はっじまるよー!

 

 とんでもない物がおつまみ用の戸棚の奥で眠っていたのよね。消費期限2019年12月。4年と十ヶ月程消費期限が切れたチョコレート。それもウォンカのチョコレート。私が住む前からだから兄貴が購入して食べるのを忘れていたんでしょうね。

 あのジョニーデップが主人公のチョコレート工場の映画で人気を博してしばらくネスレが販売していたお菓子ね。ちなみに私は1971年版の夢のチョコレート工場も大好きよ。監督が違うと解釈違いで面白いなと思えるわ。

 

「チョコなり?」

「うん、でも流石にヤバさそうなので捨てようかなって思ってるのよ」

「チョコって保存食なりにけり?」

「昔はそうだったかもしれないけど」

 

 今のチョコ菓子は足が早いわよ。こんな危険なチョコを食べるよりはゴミ箱にポイしようとした時、ミカンちゃんが、

 

「魔法で鮮度保てたり! 我が主神・マフデトガラモンに願い訴えたり、求めるは鮮度。タイムマジックなり!」

 

 ミカンちゃんがまた勇者のチートを使ったわ。ただのチョコレートの消費期限の為に、ウォンカのチョコレートは新品のような輝きを見せて多分、購入時期くらいに戻ったんでしょうね。

 

「一応聞いておくけど、何したの?」

「チョコレートには5年前にタイムスリップしてもらえり。これで安心して食す事この上なしっ!」

 

 という事でおつまみはウォンカのチョコレートに決まったわ。これ、なんか確かチョコの中に入ってるのよね。めちゃくちゃ甘かった記憶があるわ。

 

「ちょっと涼しくなってきたし、ホット系のカクテルでも飲む?」

「おけまるぅ!」

「そこは炭酸じゃなくていいのね。デュラさん。お茶にしませんか?」

「キリが良いところでそちらへ行くであるぞ」

 

 デュラさん、この前カラスミを食べてからどうしても自分で作りたいとボラの卵巣を三腹買って現在血抜きと氷じめをしている最中なのよね。流石に私もカラスミ作ったことなんて何回かしかないから動画とかを見ながらデュラさんは丁寧に下ごしらえをしているわね。

 

 ガチャリ。

 

「ミカンちゃん見てきて」

「えぇ……くそめんどい」

 

 とか言いながらミカンちゃんは玄関に行って「合成されてり」というので、とりあえず見に行ってみると、鱗があったり、ツノがあったりツギハギの人がいるわね。男性なのか女性なのか声を聞かないと分からないわ。

 声を聞いて声変わりがまだの男の子という事を私たちは知るの。

 

「……あの」

「こんにちは、私は犬神金糸雀。この部屋の家主よ」

「勇者は、この部屋への永久警備を任されている勇者なりにけり」

 

 別に任せてないし、警備らしい事はしないし、警備が必要なニケ様来る時はトンズラするのに……

 

「あの、見ての通りキメラです」

「あぁ、そうなのよろしくね」

「よろー!」

「怖いとか、悍ましいとか、穢らわしいとか……言わないんですね」

「えっ! 私、目つき悪いけど、そんな事いいそうに見える?」

 

 ちょっとショックを受けている私にミカンちゃんがニヤニヤしているので少しばかり納得いかないなぁと思ってたら。

 

「ち、違うんです。自分こんな姿なので、気味悪がられて……金糸雀さんも勇者様もお優しそうに見えます。はい」

 

 あー、なるほどね。私はいろんな姿の人がやってくるからその辺の感性麻痺してるけど、確かに人によっては驚く人もいるかもね。

 

「キメラって合成されてるって事よね?」

「はい、生まれつき身体の弱かった私を助けようと魔術師の父と母が生命力の強い魔物を私に次々に合成してこの姿になりました」

 

 難しい話ね。命は何よりも大事だけど、その代わり尊厳を奪われてまで生きる事に意味があるのか、トロッコ問題亜種みたいな感じね。

 でも私は思うのよね。

 

「少なくともご両親に私は感謝してるわよ。だって、あなた」

「サッチャーです」

「サッチャーさんと私やミカンちゃんは出会ってこうしてお話しできてるじゃない! とりあえず玄関で立ってないで中に入って」

「あの……はい」

 

 リビングに向かうと、下ごしらえを終えたデュラさんがウォンカのチョコレートをお皿に盛り付けているわ。

 

「本日はキメラであるか」

「サッチャーさんよ。こちらは居候のデュラさん、まぁ、勇者とか悪魔とか住んでていろんな種族の人くるから私もあんまり気にしないのよね。サッチャーさんはお酒飲める?」

「いえ、お酒は殆ど飲めません」

「じゃあお茶でいいわね?」

 

 濃いめのロシアンティーもいいけど、本日はアイルランドの紅茶にしようかしら。私たちはアイリッシュ・アフタヌーンにすれば両立できるわね。アイリッシュウィスキーを適当に用意して熱めの紅茶で割ってあげる。サッチャーさんの方は少し冷まして適温にした紅茶に角砂糖を添えて。

 

「じゃあ、ティータイムとサッチャーさんとの出会いに、乾杯!」

 

 お酒の時と違って無言で少しカップを掲げる三人。そして一口お茶を、私たちはティーカクテルを飲む。

 

 はぁああああ。

 ほっこりするわね。

 

 上京した頃は、毎日友達とお洒落なカフェで女子会とかするものだとばかり思っていたけど、毎日部屋でお酒飲んでたわ。お酒もお茶もコーヒーも同じ嗜好品だから実質想像通りという事にしておきましょうか。

 

「チョコレートもびっくりするくらい甘いからどうぞ」

「はい! いただきます」

 

 全員、一つ摘んでいざ実食。

 

「あみゃあああああああ! ウォンカうみゃあああ!」

「おぉおお! 狂しいほどの甘さであるな」

「うわぁあ! こんな美味しいお菓子初めてです」

 

 甘いチョコレートに甘い紅茶、甘いもの同士が合う謎のマリアージュね。たまにはこういうティータイムも悪くないわね。

 まぁ、私たちはお酒入りだけど。

 

「でもいいなぁ。私。お酒飲めないから皆さんとお酒飲めたら楽しいだろうな」

 

 体質的にお酒が飲めない人もいるし、そうなのよね。でも飲まないお酒ってのもある事を教えてあげようかしら?

 勿体無いから普段は絶対にしないんだけどね。

 

「サッチャーさん、見て楽しむお酒ってのもあるんですよ」

 

 100年以上前に存在したバーテンダー。今のカクテルレシピをまとめた人が作ったバーテンダーの奥義とも言えるカクテル。

 

「電気消すわね」

「何をせり?」

 

 さて、私の技量でどこまでできるかしら。私の知り合いの自由業の人は成功させるのに二回失敗してキッチンが火の海になったとか言ってたし。ブレイザーマグもこの部屋にあるという事は兄貴ならできるって事よね。

 60度のスウィスキーにライターで火をつけて、同僚の沸騰したお湯の入ったマグに注ぐ、ミルクティーのパフォーマンスのように長く遠く、注ぐと蒼い炎の道が出来上がる。短い範囲で行うバーテンダーは多くいるけど、頭の上から腹部くらいまで落とせるバーテンダーはあまりいないのよね。長ければ長いほど、遠ければ遠いほど美しい。

 

 魅せる為のカクテル。

 

「これが飲まないカクテルブルー・ブレイザー。そしてこのカクテルも日本に渡って飲めるようになったのよね。アルコールはだいぶ飛ばして、さらに紅茶で割ってるからこれなら大丈夫じゃない?」

 

 燃え盛るマグに蜂蜜とレモン果汁と紅茶を注ぎ。耐熱グラスに入れてそっとサッチャーさんに出してあげる。

 本来はレモネードとかで割ってあげるのが日本のレシピなんだけどね。

 

「美味しい! 金糸雀さん、すごく美味しいです!」

「良かった! 一つ一つが優れている物が混ざり合うとこうなるのよ。さっちゃさんと一緒ね!」

「私、この身体が! 父と母が私のためにくれたこの身体が大好きです! だから周りの人に何か言われるたびに辛かったんですけど、金糸雀さんのおかげで胸を張って生きていけます!」

 

 ガチャリ。

 

「金糸雀ちゃん、今日の朝食はなんですかー……なんと痛ましい。合成生物とは神に背きし愚かな行い」

 

 これはあれね。

 止めなきゃ!

 

 と思った時にはニケ様の神の奇跡でサッチャーさんの合成さえられていた部分が取り除かれたわ。

 そしてそこには、薄幸の美少年の姿。

 

「クソ女神、またやりやがったり」

「悪い事じゃないハズなのであるが、父君と母君のギフトを奪ってしまったであるな」

 

 これどっちだろ! 自分の姿を見てサッチャーさんは驚きを隠せないわ。いや、うん。こんなに綺麗な男の子ならキメラになってたのは残念というか、5年後に私のところに来てもらっていいかな? とか言いたいけど。

 

「貴女は?」

「ふふん、私は女神・ニケ。あなたの穢らわしい姿、おぞまじい姿から解放してあげました。お礼は結構です。さぁいきなさい私の可愛い無辜の民よ」

「はい、ありがとうございます! 女神ニケ」

 

 ニヒルに笑ってサッチャーさんは玄関から出て行ったけど、良い方だったみたいね。と私はこの時思っていたのよね。

 これは、かつて異世界で起きた不審死事件、街の人から憲兵、貴族、中には王族まで死者が出たと、男女年齢もバラバラで一体何があったか分からなかったらしいわ。その犯人を知っている人物が二人だけいたのよ。それは犯人の両親、天使のように美しい我が子が悪魔のように人を殺す事が好き。その天より与えられたギフトのような容姿は誰をも魅了する。魔術師だった両親は、自分の息子を醜い魔物と合成する事で、美しさを封印した。

 それからというもの、ピタッと事件は止まり、両親も安堵していた。

 

 そんな家に、以前と変わらない美しい容姿の息子が戻ってきたならどうなるのかしら?

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